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(文:sushi)

 冒頭から汚い話で申し訳ないのだが、男の足は非常に蒸れる。夏は言わずもがな、意外に秋冬も油断大敵なもので、通気性に乏しい革靴を一日中履き続ければ足元の不快指数はかなり高まる。それでも多くの場合、革靴を履き続けることを強いられる我々サラリーマンは、実は女性に引けを取らないほどに夜の席が座敷の店か否かを気にしているものだ。

 僕は内勤の際、可能な限りスリッパを着用するように心がけているが、レースアップの革靴は当然脱ぎ履きしづらく、上司に呼びつけられた際にスリッパ姿というのもマナー的に気になるところ。そこで重宝するのが革靴の中でもレースが付いていないスリッポンタイプのローファーだ。

 ローファーの起源には様々な説がある。一般的にも最も広く知られているのは、イギリスの老舗シューメーカー「ワイルドスミス(Wildsmith)」が王室向けに生産した室内履きが「Loafer(=怠け者)」の名前で浸透したというイギリス発の説だ。実際、怠惰な自分が重宝していることを考えても起源としてはこの説が個人的に納得感を禁じ得ない。ということで、今回はイギリス発のブランドが作る2足のローファーを紹介したい。

革靴の王様 ジョンロブのロペス

 革靴といえば、と聞かれたら挙げたくなる英国ブランドは無数にある。エドワードグリーン、アンソニー クレバリー、クロケット&ジョーンズ……これらは世界でも最高級品質の革靴を生産するシューメーカーとして知られる。その中でも広く認知を得つつも、その上質さから”革靴の王様”と称されるのが「ジョンロブ(JOHN LOBB)」だ。

 ジョンロブにはダブルモンクの「ウィリアム(William)」やパンチドキャップトゥの「フィリップ(Philip)」など高い人気を誇る名作が数多くあり、ローファーの「ロペス(LOPEZ)」もその一つ。元メジャーリーガーのアキリーノ・ロペス氏がビスポークで特別に制作したローファーが原型の製品で、他のブランドでは見られない楕円形の窓枠をあしらったサドルがアイコニックなモデルだ。

 多くの英国靴に共通する特徴として、グッドイヤーウェルト製法という工法が用いられている。コバ(アウトソール)が外に大きく張り出しているボリューミーなシルエットと頑丈さがその工法の魅力の一つだが、ローファーに関してはカジュアル靴としての見た目の軽やかさを重視するためグッドイヤーウェルト製法を採用しないメーカーも多い。一方で、ジョンロブはロペスにもグッドイヤーウェルト製法を取り入れており、一枚革で仕立てたボディから受ける華奢な印象とは裏腹に、英国靴らしい質実剛健さも兼ね備えている。それに加え、通常のグッドイヤーウェルト製法で作られるようなコバの突き出しは見られず、ディテールに干渉しないミニマルなデザインからは熟練のクラフトマンシップを感じさせる。

 1900年代後半からエルメス傘下となったジョンロブでは現在、新進気鋭のモードブランド「トゥエルブオーファイブ(1205)」デザイナーのパウラ・ジェルバースがディレクターを務め、コンスタントに新作を発表している。そのブランドディレクションやヴィジュアルイメージには老舗特有の古臭さは少なく、むしろ洗練された印象を受ける。英国靴ブランドの中でも唯一無二の世界観を放ちながらも、その歴史や品質に文句の付け所がなく、さらには現在も時代に合わせてブランドイメージをアップデートするジョンロブが作るロペスは、まさに「ローファーの王様」といって過言ではないだろう。

男らしさ漂うチーニーのハワード

 日本の気候は基本的に一年を通して雨量が多い。その上、地面を覆うアスファルトは凹凸が細かいため、日本の天候はレザーソールの革靴を履くには適していない。僕は革靴には使い勝手の良さを求めるため、雨に強いシボ革のアッパーとダイナイトソールを使ったものを好むが、一般的に「良い靴はレザーソール!」という固定観念は根強く、アッパーはシボ革でもソールはレザーを採用しているものが多い。”シボ革×ダイナイトソール”という条件を満たし、かつ納得のいくデザイン性も備わっていて欲しいという僕のわがままをいっぺんに解決した最高のローファーが「チーニー(JOSEPH CHEANEY)」の「ハワード(Howard)」だ。

 チーニーには、スムースのカーフレザーを使ったアッパーとレザーソールを組み合わせた「ハドソン(Hudson)」という定番モデルのローファーがあるが、ハワードはそのハドソンのアッパーをシボ革に、ソールをダイナイトソールに変更したモデルで、雨にも対応できる仕様。さらにはグッドイヤーウェルト製法を採用している非常にタフなモデルで、男らしさ漂うスペックに少年心がくすぐられる。ローファーはノーズが長ければフォーマル、ノーズが短く履き口が広くとられていればカジュアルとされるが、チーニーのローファーはノーズの長さがどちらともつかない絶妙な長さで、カジュアルにもビジネスにも取り入れやすく、まさに「痒いところに手が届く」気持ちのいい逸品だ。

 大学2年生の冬休みに革靴を目的に英国を訪れたことがある。ジョンロブ含め名だたる靴メーカーが工場を置くノーザンプトンという街に赴くために高速バスのチケットを購入したが、ヨーロッパの高速バスは信じられないほど時間にルーズで、キングスクロス駅発のバスは一向に僕らを迎えには来ず、結局2時間近く遅れての出発となった。その上、道中では乗客の一人がバス内で大麻を吸い出し、その客を降ろす降ろさないの一悶着などがあり、ノーザンプトンに着いたのは午後4時過ぎ。すでにほとんどの工場が一般の見学を締め切っていて、ジョンロブはおろか、ロクに靴工場を見学などできなかった。その後もアジア人差別が根強く残る地域なのかタクシーに乗せてもらえず、40分近く歩いてモーテルまで帰ったりするなど個人的には散々な思い出しかない。今思えば価格帯的にも大学生が手を出せる値段では到底なく、もしかするとこれは「お前にはまだ早い」というジョンロブからの”お告げ”だったのかもしれない。そんな中、唯一時間ギリギリに工場内を見学できたのがチーニーだった。当時はお目当てではなかった上、ファクトリーアウトレットで大分安くなっていたので、思い出作り程度にシボ革でダイナイトソールをあしらったストレートチップの靴を1足購入したのだが、すっかりその使い勝手の良さに惚れてしまい、それから年に1足はチーニーの靴を購入している。ハワードは今年で3足目になった。とはいえ、そろそろ許しが出る年齢だろうと思い、次にイギリスを訪れるタイミングでジョンロブの工場にリベンジしロペスを手に入れたい、と思っていたのだが、執筆にあたりよくよく調べてみると、既成靴モデルのロペスは現在パリの工場で生産されていることを今更ながらに知った。やはり自分にはまだジョンロブは早いのかもしれない。

■sushi(Twitter
15歳で不登校になるものの、ファッションとの出会いで人生が変貌し社会復帰。2018年に大学を卒業後、不動産デベロッパーに入社。商業施設の開発に携わる傍、副業制度を利用し2020年よりフリーランスのファッションライターとしても活動。noteマガジン「落ちていた寿司」でも執筆活動中。

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