「北朝鮮は弾道ミサイル能力を大きく向上させている。(日本は)迎撃能力を向上させるだけで、国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか」

 28日の安倍晋三首相の記者会見。首相は退陣表明に先立ち、今後の新型コロナウイルス対策に加え、他国の領域内を標的にする「敵基地攻撃能力」の保有にも言及し、「具体化を進める」と明言した。

 辞めていく立場なのに、国論を二分する安全保障政策を推進するとあえて宣言したことに驚いた。

 首相は今月4日にも、敵基地攻撃能力について検討を促す自民党の提言を受け、「しっかりと新しい方向性を打ち出し、速やかに実行していく」と指摘。6日の広島市での会見でも、同様の考えを示した。

 実は、首相は就任当初から敵基地攻撃能力の保有に前向きだった。第2次安倍政権発足から約2カ月後の2013年2月末、「敵基地攻撃は、私の問題意識としては、それをずっと米国に頼り続けていいのか」と国会答弁している。相手国との緊張を高め、逆に危険を招く懸念が指摘される政策だが、首相は在任中、ずっとこだわってきたのかもしれない。

 28日の会見で首相は、改憲、北朝鮮による日本人拉致問題、北方領土問題にも触れ「新たな強力な体制の下、さらなる推進力を得て実現に向けて進んでいくと確信している」と指摘。次期衆院選への対応を聞かれると、「基本的には一議員として仕事をしていきたい。さまざまな政策課題の決定に微力を尽くしたい」と話した。

 体制が一新されても、自分がこだわってきた改憲などを推進させる政権であってほしい。そのために自らも国会議員であり続け、影響力を使い続ける―という意味に受け取った。

 政権の終わりに、自らの路線が引き継がれてほしいと願うのは権力者の本能なのだろう。聖域なき構造改革を旗印とした小泉純一郎首相は、最後の年の06年、10年間の改革工程と数値目標を定めた行政改革推進法などを成立させ、第1次安倍政権にバトンを引き継いだ。

 しかし、どんなに強大な力があった政権も、次の政権を縛ることはできない。逆に言えば、政権が代わるということは、方向性を転換するチャンスでもある。

 例えば敵基地攻撃能力に関し、安倍政権は今年9月に方向性を出す方針だった。一方で、秋の臨時国会は10月下旬以降の召集で調整されていた。

 「国民の命を守る」ために、議論を急ぐべきは本当に敵基地攻撃能力なのか。新規感染者数が高止まりし、医療現場の逼迫ひっぱくが懸念される新型コロナ対策こそ、早く議論すべきではないのか―。次の政権がそう判断すれば、もっと早く召集し、新型コロナ対策について広範な議論が可能になる。

 7年8カ月ぶりに政権が代わる機会。国民にとって有益な結果につながるだろうか。


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