市販されている履歴書から「性別欄」がなくなる可能性がでてきた。

今村拓馬撮影(左)、横山耕太郎撮影(右)

ジェンダーを前提にした区別をやめる動きが、企業で相次いでいる。

ユニリーバ・ジャパンが2020年3月、性別欄や顔写真の提出を廃止。KDDIでも6月、同性のパートナーの子どもを、異性婚カップルの子どもと同様に家族として扱う「ファミリーシップ申請」を開始した。

そして今後は、履歴書から「性別欄」がなくなるかもしれない。

2020年7月、市販されている履歴書が参考にしている「JIS規格」から、履歴書の様式例が削除されたのだ。

JIS規格変更の背景には、オンライン署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」を通じて、トランスジェンダーの当事者や、若者の労働問題に取り組むNPOの署名運動があった。

1万人以上の署名集まる

sukusyo

署名を呼び掛けるHP。7月30日時点で1000人を超える署名が集まっている。

Change.orgのHPを編集部キャプチャ

「履歴書の性別欄は、トランスジェンダーの当事者たちにとっては、ずっと続いてきたことで、いくら声を上げても変わらない問題でした。

やっと解決に向かったことは、本当に大きな一歩です」

今回の署名活動のサポートにあたった遠藤まめたさん(33)はそう話す。

遠藤さんはChange.orgの職員で、自身もトランスジェンダーの当事者でもあり、 LGBTの子どもや若者支援にも関わっている。

今回の署名活動は若者の労働問題に取り組むNPO法人「POSSE」が実施。

「履歴書から性別欄をなくそう #なんであるの」というキャンペーンを行い、1万人を超える署名が集まった。

署名は6月30日、経済産業省に提出され、経産省はJIS規定を定めている日本規格協会に対して指導した。

同協会では7月9日に履歴書の様式例を削除。削除理由について同協会は以下のようにHP上で説明している。

「公務員試験、高校入試などでは性別欄をなくす動きが全国的に広がりつつある中、引き続き掲載することによって、JIS で規定されている、何らかの方向付けをしているなどの誤解を招きかねない。このことから、削除することにした」

コクヨ「前向きに検討する」

rirekis

「JIS規格」と書かれた市販の履歴書。名前の下に男女を選択する欄がある。

撮影:横山耕太郎

JIS規格の変更を受け、市販されている履歴書から性別欄を削除するかどうかは、実際履歴書を販売しているメーカーが判断することになる。

文具メーカー大手のコクヨは、Business Insider Japanの取材に対し「日本規格協会から書面の内容に従い、コクヨとして前向きに検討していく予定です」と回答した。

191206A-264(1)

著名活動をサポートした遠藤さん。「履歴書の変更などをきっかけに、これから企業に変化が起きることを期待している」と話す。

提供:Change.org

前出の遠藤さんは、なぜ性別を問う必要があるのか、改めて考える機会になると話す。

「性別欄廃止の動きが連続して続けば、『性別欄はなくてもいい』と気付くきっかけになると思っています。

そもそも男女雇用機会均等法で、性別による採用差別を禁止しているのに、市販の履歴書では名前の横、目立つ位置に性別欄があることが多い。どうしても性別欄が必要な場合でも、下の方にいれるなどレイアウト変更を考えてもいいと思います」

遠藤さん自身も、服装やマナーなど性別を強く意識させられる就職活動のあり方に戸惑った過去がある。

「就職活動の時には、基本的に性別欄は空欄にしていたのですが、企業によっては記入が求められることもありました」

遠藤さんは、性別を問われにくい公務員試験を受けたという。

「トランスジェンダーの友人たちの中には、戸籍の性別をそのまま書いて、面接でそのことばかりを説明された人もいます。

また現在生活している性別を記入し、内定を得たあとに会社からそのことを問題視されるなど、就職でのトラブルは少なくありませんでした」

ユニリーバでは顔写真の提出も廃止

LUX

ユニリーバ・ジャパンでは、名前から性別が分かることを避けるため、氏名の記入は名字のみにし、顔写真の提出も廃止している。

出典:ユニリーバ・ジャパン

企業の中には性別に区別を排除する機運が高まっている。

ユニリーバ・ジャパンのヘアケアブランド「ラックス」が2020年1月に行ったアンケートでは、「採用過程において男性と女性が平等に扱われていると思いますか」との質問に、「平等と思わない」と回答した人は26%で、4人に1人に上った(採用活動を担当したことがある全国の会社員・経営者計424人が対象)。

こうしたアンケート結果を受け、ユニリーバ・ジャパンでは、性別欄や顔写真の添付を廃止するほか、面接にAIを導入するなどの取り組みを進めている。

ユニリーバ・ジャパン人事総務本部長の島田由香氏は、Business Insider Japanの取材に対し、「すべてのバイアスを取り除いて、100%フェアにすることは難しいが、性別は個性の一つにすぎない。チャンスが平等であることが大事」としている。

また、KDDIが6月から導入した「ファミリーシップ申請」では、同性のパートナーの子どもについても、異性婚のカップルの子どもと同様に扱う。

子どもの病気の時の早退や、短時間勤務、深夜勤務の免除など、子育てに配慮した扱いを受けることができるようになるなど、パートナー関係における、異性、同性の区別を無くした。

「社会の意識を変えたい」

_IMA3954

撮影:今村拓馬

署名活動によって、廃止の方向に進んだ性別欄だが、遠藤さんは「制度だけでなく、社会の意識も変えていきたい」と話す。

「トランスジェンダーの中には海外出張を敬遠する人もいます。

それは会社にパスポートのコピーを提出した時に、強制的なカミングアウトにつながってしまう。そのことで本人の以前の性別がアウティング(性的指向や性自認について本人の意思に反して公表されること)されることにつながってしまうからです」

組織の中では、性別に関して十分な配慮がされていない現実もある。

「性別が記載されている書類が、職場のデスクに無造作に置かれたり、回覧資料の中に含まれていて、そのことで本人の以前の性別が暴露されることもある。

性別が重大な個人情報であることを意識し、きちんと管理する社会になってほしいです」

企業から「性別」による区別をなくす取り組みは、まだ始まったばかり。

日本の企業が多様性のある組織に生まれ変わるためにも、「履歴書で性別を問う必要があるのか」というところから、改めて見直す時代が来ている。

(文・横山耕太郎)

クレジットソースリンク