2019年末刊行の『世界標準の経営理論』で、日本企業が陥った進化の袋小路を鋭くえぐった入山章栄教授。今回は、先ごろ『ネットビジネス進化論』(NHK出版)を上梓したばかりの尾原和啓氏を迎え、ネットビジネスのこれまでとこれから、日本人のグローバル化、若い世代に託した思いなど、縦横無尽に語り尽くしたオンライン対談の第3回。理論と実践に裏打ちされたお二人のやりとりを読めば、新たなビジネスチャンスを手にすることができるかもしれない。(構成/田中幸宏)

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コロナでゲーム漬けになったわが子を嘆く前に

入山:『ネットビジネス進化論』を読んで、すごくおもしろいなと思ったのは、ゲームとeスポーツの章に出てくるアバターの話です。うちの息子は中1なんですが、この2カ月、コロナでずっと家にいて、1日13時間フォートナイトをやっているんです。

尾原:ウォー! いいですね!

入山:中学受験に受かったらゲームPCを買うと約束していて、合格したので、けっこういいゲームPCとヘッドフォンを買ってあげたんです。そこにコロナが来て、いちおうペアレンタルコントロールがあって、毎週1回、何時間何を見ているかというレポートが僕に届くんですが、13時間フォートナイトやっているのがわかったんです(笑)。

尾原:それはすばらしい教育です。

入山:私はコミュニケーションを「リアル×リアル」「バーチャル×リアル」「バーチャル×バーチャル」に分けていて、今回Zoomなどで、バーチャル上でリアルな人が会う「バーチャル×リアル」が流行りましたが、バーチャル上でバーチャルな人格=アバターが会う「バーチャル×バーチャル」がこれから絶対に来ると思っています。フォートナイトも最近、アメリカの人気ラッパーがバーチャルコンサートを開いたりして。

尾原:トラヴィス・スコットが『Astronomical』をやって、ひと晩で30億円くらい収入を得たと言われています。

入山:息子には、「どうせフォートナイトをやるなら、日本一になれ」と言ったんですが、「全然ダメ。世の中にはすごいやつがいっぱいいる」と言うので、「日本で何番くらいなんだ」と聞くと、「自分より少なくとも1000人は上がいる」と言うんです。

尾原:日本で1000番台だとしても、すごいレベルですけどね。

入山:話を聞くと、グローバルでは、アジアのフォートナイトのレベルは低いけど、日本はけっこう高くて、世界中からリスペクトされている。だけど、世界最強はロシア。ロシア人には絶対に勝てないと言うんです。

尾原:そうなんです! 雪国だから、家に閉じこもってそればかりやっていて強いんです。フォートナイトの中には、今日お話ししたことが全部詰まっています。まず、ゲームは非言語だから誰でも参加できるし、1000人のバトルロワイヤルなので、見知らぬ人とチームを組まないと絶対に生き残れません。国籍も肌の色も年齢も関係ない。だから、フォートナイトに入って、たまたま娘の友だちがいたら、最初から「お願いします、僕はこっちで壁つくっておきますから」みたいな感じで、全面的に彼女に従います。彼女のほうが圧倒的に強いからです。

 しかも、ルールが頻繁に変わるんです。競争が固定化されると、一部の人だけが勝つようになってしまって、おもしろくない。だから、ルールを微妙にアップデートしたり、時々まったく違うルールの戦い方のトーナメントが開かれたりします。つまり、一つのルールを深掘りする「深化」と、プラットフォーム側による強制的な「探索」のブレンドが絶妙なんです。

入山:運営している側がわかってやっているわけですね。

 

入山章栄(いりやま・あきえ)

早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授慶應義塾大学経済学部卒業、三菱総合研究所で調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。Strategic Management Journalなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版、2012年)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社、2015年)。最新刊に、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』誌の連載をベースに、世界の主要経営理論30を完全網羅した史上初の解説書、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社、2019年)がある。(撮影:梅沢香織)

フォートナイトでリーダーシップとチームビルディングのスキルを身につける

尾原:もっとおもしろいのは、いまの小中学生くらいの子たちは、生まれた瞬間からスマホとツイッターと常時接続のゲームがあって、マインクラフトが遊びのデビューだったということです。僕らが生まれたときは、近所の公園の砂場でデビューしたわけですけど、そうすると、僕は体が小さかったから、いじめられっ子確定なんです。

入山:体の大きさで社会の序列ができる。

尾原:でも、いまの子たちはマイクラでデビューするから、体の大きさは関係なく、おもしろいものをつくったら人気者になれる。もっと言うと、城山をつくるのが上手なのか、ダンジョンをつくるのが上手なのか、鬼ごっこをつくるのがうまいのか、というふうに探索領域が広くて、それぞれでヒーローになれる。さらに、マイクラの空間はリセットできるから、何回でもトライできるんです。

入山:つまり、いままでは、保育園や公園ではルールが決まっていて、とりあえず体の強い子が勝ちという単一のルールでみんなやっていた。私の小学校でも、足が速いヤツか、頭がいいヤツだけ偉かった。ところが、いまはさまざまなルールがあって、しかもリセットできるから、いろいろなものにトライできる、と。

尾原:小さい子たちがマイクラで鍛えられて、もう少し大きくなると、次はスプラトゥーンという4対4の対戦ゲームが待っています。スプラトゥーンは5分の試合を何回も繰り返す。毎回、4人の組み合わせがバーンと出た瞬間に、4人の中で誰がいちばん強いのか、自分は誰のフォローに回るのか、それとも自分がいちばん強そうなら、今回は自分が真っ先に突っ込むか、ということを瞬時に判断しなければいけません。その判断力が磨かれていくと、コンビネーションが生まれるわけです。

 そうした読み合いの究極の形がフォートナイトで、1000人のバトルロワイヤルで生き残るためには、誰とどうやってチームをつくっていくかを瞬時に嗅ぎ分けていかなければいけません。

 バトルロワイヤルの場に放り込まれた瞬間に、いまの自分の実力や自分の装備だったら、誰とどうコラボレーションしたほうがいいか、あうんの呼吸でチームビルディングしていくわけです。そういう能力が研ぎ澄まされているので、いまの子たちはオーガニックリーダーシップ、つまりごく自然にリーダシップを身につけていると言われています。

幼稚園より保育園育ちのほうがリーダー向き?

入山:おもしろいですね。私がある人から聞いた話では、保育園のほうが幼稚園児よりもリーダーシップをとりやすい可能性がある、というんです。私は幼稚園出身ですが、日本の幼稚園は上から押し付けが基本です。一方、保育園はよくも悪くも放置して、子どもたちの自由に任せる。幼稚園は文科省の管轄で、保育園は厚労省の管轄だからで、そこが幼稚園と保育園の決定的な差です。

 自分の子も幼稚園に通っていたんですけど、「上から言われたことを正しくやりなさい」ということを、4歳児くらいから叩き込まれるわけです。よく言われる日本の教育の弊害は、実は幼稚園時代から始まっていて、個人的にはかなり問題だと思っています。なので、私はその中でも一番ゆるい幼稚園を探して、そこに子どもを入れました。一方、保育園は基本放置だから、そこは一個の社会になる。すると、たとえば砂場で遊びたいときは、一緒に遊んでくれる仲間を見つける必要がある。「この指とまれ」と言うだけでは誰も砂場に来てくれないので、砂場遊びがいかにすばらしいか。

尾原:プレゼンしなければいけないわけですね(笑)。

入山:この砂場がいかにイケてるか、砂遊び最高だぜ、ということをアピールして、仲間を集めないといけない。これはもはや立派なリーダーシップです。砂遊びに誘うリーダーがいて、それについてくるフォロワーもいて、もちろんそれに加わらない子もいる。保育園児は早ければ0歳からそういうことを経験するから、大人になってからもリーダーシップを発揮しやすいのではないかという説を持っている方がいて、なるほどと思ったんです。

 保育園ではしょせん砂場かジャングルジムか鬼ごっこくらいですが、ゲームの場合はもっと多様な場があって、選択肢がずっと広いから、いいですよね。

尾原:そうなんです。MITメディアラボは、人が高速成長するには「4つのP」が必要だと言っています。まず「プロジェクト」として、ゴールが明確になっていること。2つ目は「ピア」で、1人では物事が動かせない時代だから、仲間を集める。3つ目が「パッション」で、自分はこれがやりたいという情熱がないと人が集まらない。最後は「プレイ」で、遊びがないと人は楽しめない。この4つのPをそろえれば、人は放っておいても成長していく。

 

尾原和啓(おばら・かずひろ)

IT 批評家。1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのi モード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレイトディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、グーグル、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任。著書に、『IT ビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』(共にNHK 出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)、『どこでも誰とでも働ける』(ダイヤモンド社)、『アルゴリズム フェアネス』(KADOKAWA)、共著に『アフターデジタル』『ディープテック』(共に日経BP)などがある。(撮影:疋田千里)

キャッツアイの来生三姉妹の生き方は、副業の究極の形?

入山:アバターは複数の人格を引き出してくれるという話が尾原さんの本にも出てきましたが、私は働き方改革の文脈で、副業をもっとやりましょうとよく言っています。つまり、副業の価値というのは、お金を儲けるだけではなく、別の人格が出てくるということです。

尾原:なるほど。

入山:私は文化放送「ニュースマスター東京」というラジオ番組を持っているんですけど、そこで、究極の副業は「キャッツアイ」だという話をしたんです。

尾原:喫茶店と怪盗キャッツアイのダブルワークということですね(笑)。

入山:どちらが本業かわからないけど、来生三姉妹は昼は喫茶店をやって、夜は怪盗をやっています。次女の瞳は、昼間はけっこうおしとやかな女性ですが、夜はちょっとSっぽい。主人公の刑事・内海俊夫をあざけり笑うようなところがある。

尾原:主人公は、昼間の瞳と、キャッツアイの瞳の、両方好きになるという設定です。

入山:あれは、副業をやると複数の人格が出る究極の例です。人間は違う場にいれば、別の人格が出てくるので。

尾原:アバターになれば、さらにそれが加速されます。まもなく出る別の本『あえて数字からおりる働き方』の中では、「ギブとありがとうが自分の個性を加速する」という言い方をしています。

 人間の脳は報酬系にとらわれているから、人から「ありがとう」と言われると、ドーパミンなどの報酬が出て気分がよくなるので、その前の行動が強化されます。会社からの「ありがとう」は給料や昇進で示されることが多いので、会社のルールに自分の個性を無理やり合わせていくことにならざるを得ないんですけど、副業やボランティアという形で会社の外に出て、ほかの人たちとつながっていくと、そこにはいろいろな形の「ありがとう」がありえます。

 たとえば、Zoomのバーチャル背景を全員分設定してあげるだけで、「ありがとう」と言ってもらえるかもしれない。あるいは、フォートナイトの中で「ありがとう、壁つくってくれて」と言ってもらえるかもしれない。「ありがとう」と言われると、脳の報酬系が働くので、その部分が強化され、やがて個性になっていくわけです。

遊びをお金に換える天才

入山:これからバーチャルやアバターの世界はどうなっていくと思いますか? 昔流行ったセカンドライフのように、バーチャルの中にビジネスを取り込んでいくのか。とくにVRが普及したら、仮想空間でビジネスができると思うんですが。

尾原:僕がいちばんポテンシャルを感じるのは、日本人の遊び好きなところです。ふだんやっている仕事のほとんどは、AIで自動化されていきます。それで仕事が奪われると悲しむ人が多いんですけど、僕は逆だと思っています。AIが仕事を奪えば奪うほど、日本人は過剰の中に遊びをつくって、遊びをお金に換えていきます。日本は遊びをお金に換える天才の国なんです。任天堂やプレイステーションというプラットフォームもそうだし、カラオケというプラットフォームもそうです。

入山:カラオケもたしかにそうですね。

尾原:AIが「役に立つ」「機能価値」をどんどん実現してくれるので、僕たちはネットがつなげる過剰さの中で遊びをとことん突き詰めて、その遊びに喜んでお金を払う文化をつくっていけばいいんです。そういう時代には、実は、日本人はめちゃめちゃポテンシャルあると僕は思っています。

入山:たしかに、日本人は遊ぶのがうまい。たとえば秋に行われるハロウィン。私はアメリカに10年いたんですが、2003年にアメリカに行く前には、この文化は日本になかったんです。ところが、2013年に帰ってきたら、みんな仮装しているから、「どうなっているんだ、この国は!」と思いました。

尾原:節操ないですよね、ハロウィンはケルト文化だし、クリスマスはキリストだし。いまやハロウィンの市場はバレンタインデーを抜いちゃいました。ネットの力が、それをさらに加速します。バーチャルなら、遊びをイチから全部つくれるわけです。僕がこのバーチャル背景1枚で、自分の空間を演出できるのと同じです。バーチャルは全部つくれるので、過剰さを引き出しやすいんです。

思考の伴走者としての本の価値

尾原:最後にお聞きしたいのが、最近日本でも、骨太で良質な本が長く売れる傾向にあると思うんです。入山先生の『世界標準の経営理論』はもちろん、『ファクトフルネス』や、安宅和人さんの『シン・ニホン』、僕が藤井保文さんと出した『アフターデジタル』も、ずっとランキングの上位にある。ビジネスを取り巻く環境が変化してきている気がするんですが、いかがですか?

入山:私の本に関して言えば、ありがたいことに、いろいろな方に読んでいただいているのは、「考えることの重要性」が増しているからだと思っています。私がよく言うのは、「不確実性が高いときは答えがない。答えがないから考えるしかない」ということです。私がいいなと思う経営者やビジネスリーダーの共通点は、みなさん、めちゃめちゃ考えているんです。

尾原:自分の頭で考えるってことですよね。

入山:はい。これだけ変化が速いと、誰も答えを持っていない。でも、経営者やリーダーは「意思決定」だけはしなければいけない。答えはなくても決めるのが彼らの仕事です。自分の頭で考えて、それを言語化して、人に伝えなくてはいけません。考え抜くためには、いろいろな人の考えや経験を何度も反芻しながら考える必要があります。そのとき、自分が考えを深めていくときに伴走してくれるのは、骨太の書籍なんです。だから、あの本がいいかどうかは別として、ピケティの『21世紀の資本』(みすず書房)が売れ、ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』が売れたわけです。私の本も、そういう流れの中で読んでいただいています。読者には起業家の方が多いんですよ。

尾原:起業家にめちゃくちゃ読まれているし、僕も何冊もプレゼントしています。自分の頭で考えるといっても、一人で歩くのはつらいから、伴走者が必要だということですね。伴走者として思考の武器を与えてくれる本が読まれている。もう一つ、『サピエンス全史』は、自分のそれまでの思考の枠を取り払って、既存の知識を深化する方向ではなく、新しく探索する方向に視野を広げてくれる本でした。

入山:おっしゃるとおり、俯瞰する本ですね。私の本も俯瞰本です。

尾原:もう一個あるとすると、一回読んだだけではわからないというのが、実はけっこう大事かもしれないと思っています。昔、岡田斗司夫さんが「アゴの弱い本」と言っていたんですけど、読んでわかりやすい本はするっと頭に入ってくるから自分では考えない。でも、一回読んだだけではわからない本は、何度も読まなければいけないから、噛んでいるうちに味がわかってくる。そうすることで、自分で考えることが身についてくるという話です。

 というわけで、あっというまに時間が来てしまいました。今日は本当にどうもありがとうございました。

(終わり)


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