2000年代後半からのK-Popブームや韓国映画などをきっかけに、文化的な距離は大きく縮まった日本と韓国。K-Popも、もはやブームではなく1つのカルチャーとして完全に根付き、若年層は国内よりも気軽に韓国を旅行することも多くなり、それはまた逆もしかりで、コロナショックの前までは両国の文化的な交流は、とても盛んだった。

そしてそれはアーティストにとっても同じくで、メジャー・インディー問わずまたDJなどでも両国のアーティストがパフォーマンスをするのは、ごく自然な光景になった。FNMNLでは、さらに一歩進んで、日本から韓国に渡りキャリアを積んだアーティストや、逆に日本で生活を営んでいる韓国のアーティストに話を訊くインタビューシリーズをスタート。それぞれが隣国での生活を選んだ理由を訊く。

NOA、XY GENEに続く第三弾は親の転勤の都合で小学生の頃にソウルに渡ったValkneeが登場。最初は韓国のカルチャーに興味を持てなかったという彼女は、どのようにして韓国語を交えた曲までをリリースするようになったのだろうか。

取材・構成 : Erinam

撮影 : 寺沢美遊

– 今回は韓国に縁のあるアーティストへのインタビューということで、具体的にいつ頃韓国にいたのか教えていただけますか?

Valknee – 2000年から2005年まで住んでました。K-POPブームはまだきていなくてBoAやSHINHWAとかが流行ってた頃です。今はK-POPは大好きですけど、当時はあまりアイドルとかにも関心が湧かなくて、全然聴こうともしていなかったですね。あまりに有名過ぎて、クラスの行事に使われる曲とかは聴いていましたけど。PSYも当時から流行っていて、“Champion”っていう有名な曲がサッカーの応援曲に使われていました。通っていた日本人学校は、日本人の先生が日本から派遣されてて。駐在員の子息がメインで、何割かクラスにミックスの子がいて。在日の方の子息で韓国在住みたいな人もいたり、両親が韓国人の子もいたりしました。

– いきなり小学生の頃に韓国に行くことになって、どう思いましたか?

Valknee – ショックでした(笑)その前の10年間は埼玉に住んでて、ずっと住むもんだと思っていたので。でもその時は理解してなかったんですけど、親の会社の社宅だったのでいずれは離れる予定だったみたいなんですけど、ずっと地元にいると思っていたからめちゃくちゃショックで。早く日本に帰りたい、日本の漫画や番組が見たいんだけどって感じで、いつも不満がありましたね。

– その当時は日本の音楽や番組を観ていた?

Valknee – 全部ビデオを送ってもらって観てました。ビデオにMステ録ってもらって送ってもらうとか。あとは会社が月に何冊か本を送ってくれる制度があって、家族の人数分送ってもらえるから、「ちゃお」や「ピチレモン」を頼んで(笑)中学ぐらいになると教保文庫(※編注 : 韓国の書店チェーン)が日本の本を取り扱うようになって、「教保文庫で待ち合わせね」みたいな感じで『ONE PIECE』とか買ったりしてましたね。ずっと輸入し続ける生活でした。あとはWinnyが流行り出した時期だったので、友達の兄ちゃんに詳しい人がいてBUMP OF CHICKENの曲をゲットする、みたいな(笑)

– その時にはもうハロプロがお好きでしたか?

Valknee – めちゃめちゃ好きでした。おばあちゃんとかがモー娘。のCDを送ってくれる子がいたりして、その子に借りてクラスで交換したり。ハロプロは一時期モー娘。が衰退した時期は離れて、Berryz工房が出てきてから私は戻ってきたんですけど。中にはBerryz工房や℃-uteが出てきた時に韓国からオーディションを受けたい子がいたり、「私受けて落ちて今韓国来てるよ」みたいな転校生がいたり。その子は転勤になる前にオーディション受けてて。

– 確かにモー娘。って入りたかったですよね(笑)

Valknee – 入りたかったですね(笑)でも「韓国にいるから受けられないじゃん」みたいな不満があったり。

– 今は韓国に練習生にいくことはありますけど、その逆ですね。女の子のアイドルグループが当時韓国にはあまりいなかったですよね。

Valknee – 全然思い当たらず。でも当時から韓国の服とかは好きで、当時一番栄えてるのは明洞(ミョンドン)だったんですけど、「明洞衣料」っていう500円くらいで服が積まれてるヤバいビルがあって、そこに小学生同士で行く、みたいな。遊びに行ったりはしてました。あと狎鴎亭(アックジョン)に一軒だけ日本から輸入されてるプリクラ屋さんがあって、プリを撮るためだけに狎鴎亭に行ったり(笑)

– 韓国に住んでたときはあまり興味が無かったとのことですが、実際にK-POPを好きになったのはいつ頃なんですか?

Valknee – 多分2010年ぐらいの第二次K-POPブームのときで、SUPER JUNIORがめっちゃ好きになって。その時期は大学の授業も出ないで、学校の売店みたいなところでずっとSUPER JUNIORの話してて(笑)その時は好きになりすぎて、上半期の単位がゼロになっちゃったんですよ(笑)いけないと思って自分を律するようになって。お金も単位も失って、ハッとする時があったんですよね。「私は音楽が好きだったんじゃん」って。アイドル自身にめちゃくちゃハマってしまったので、「私が良いと思って聴いてる歌も、もしかしたらそんなに良くないのかもしれない」と思ってMVを観るのをそこからやめたんですよね。一旦冷静になろうと思って、それ以降は数ヶ月に一回韓国でリリースされたアイドルの曲をさらって聴いて、気に入ったものだけピックアップするっていう期間が3年ぐらいありました。アイドルにハマってからは韓国の曲を定期的に聴く習慣が出来ましたね。日本の現行のヒップホップを聴いてて、KOHHもフィーチャーされていたKeith Apeの“It G Ma”が出て来て。それで「韓国にも現行のヒップホップが並行してあるんじゃん」ってことに改めて気づいて、そこからチェックするようになりました。

– 住んでいた当時は音楽番組などは観てなかったんですか?

Valknee – 音楽番組もあったんですけど、イ・ジョンヒョンとかが結構流れていて、私の中の韓国のポップスがああいう、トロットが少し残ってる電子音楽っていうイメージで。明洞とか行ってもそういうのが流行ってて、古臭いんだけど、知らない音楽が流れてたんです。

– 90年代とか2000年初頭の韓国の番組を観ると、vexや小室ファミリーとトロットがミックスされた謎の音楽が流れてるんですよね。芸能事務所の社長のインタビューを読んでも「90年代ぐらいのavexを参考にしていた」みたいな話が出て来たり。

Valknee – 買い物に行くとそういう音楽がかかってて、魅力を感じるというよりはちょっと「面白」みたいに聴こえてたと思います。

– SUPER JUNIORとかに対しては「面白」とは違う形で聴いていたんですね。

Valknee – そうですね。普通にカッコいい音楽として、「こんなアイドルがこんなに硬い四つ打ちをやるんだ」とか「言葉が面白い」とか、改めて認識に変化がありました。めちゃくちゃ盛り上がってた時期だったので、そこでハマりましたね。それまでは全然。

– イケてるイメージとかも、住んでるときは無かったんですよね。

Valknee – 無かったですし、今の韓国とは全然違って。もっと汚いし、韓国料理以外の美味しい料理もなくて、全然輸入されてなくて。ケーキ屋とかもなぜか上にトマトが乗ってるんですよ。フォトジェニックさがゼロで(笑)イケてる場所って感じじゃなかったと思います。服とかも、日本で流行ってるような着たい服じゃないんですよ。その中で、日本の109に売ってそうな物を頑張って掘っていく感覚を持っていたと思います。憧れはずっと日本でしたね、『ROCKIN’ON JAPAN』を読んでたし。でもカオスの中を探す面白さはあったかもしれないです。

– じゃあ今行くと、逆にその混沌感は無いと。

Valknee – ちょっと薄められちゃいましたね。街とかも整理されて。ゴミ屋敷みたいに商品が積まれた服屋も市場に行かないと無いから。屋台の感じはあまり変わってないですけど、だいぶ街自体が洗練されましたね。だから韓国がイケてる場所として認識されていく様が面白かったです。

– この10年とかですよね。梨泰院(イテウォン)とかも危ない場所だったんですよね?

Valknee – 米軍の人が出入りしてて。でも本場のインド料理とかが食べられる場所があって、本場の店に行くなら梨泰院が良い、て感じで行ったりしてました。今はあんなに栄えてびっくりです。弘大(ホンデ)は当時知らなかったですね。梨大(イデ)は服を買いに行きましたけど聞いたことも無いぐらいの感じでした。当時はただの大学がある街だったんですかね。明洞ばかりに行ってました。

– でも10年ちょっとでそれぐらい変わるのが面白いですよね。日本だったら、多分渋谷は10年前からイケてたと思いましたし。韓国は5年に一回流行る街が変化しますよね。中の社会問題的には凄く深刻ですが。

Valknee – 潰れるのも速いですよね。今は面白くてそれを消費してる側ですけど、罪悪感もありますよね。どうしたら貢献出来るんだろう、とか思うんですけど。ただの面白がりだけではいられないというか。

– 音楽もそうですよね。回転が速くて、新しい人が出て来て終わって。『Show Me The Money』をやると優勝する人が流行って。

Valknee – 手放しで楽しめないような気持ちはちょっとありますね。自然と息の長いものに魅力を感じるような気持ちを申し訳程度に抱いています。

– それで高校で日本に戻ってきたんですよね。

Valknee – 日本人学校が中学校までなので、みんな日本にそのタイミングで帰るのがメインのコースでしたね。夏休みを利用して塾に行って、春休みを利用して受験してって。帰国生入試があるところを利用して高校に行ってました。

– じゃあ、小中学生の頃はヒップホップなどには興味無かったんですね。

Valknee – 興味ないというか、もうRIP SLYMEとかだけって感じでしたね。韓国でも2000年ぐらいにはヒップホップ流行ってたみたいですけど。

– Jin DoggさんはFNMNLのインタビューで「日本人学校に行っていたときDeepflowっていうラッパーが流行っていて、それを聴いていた」と言っていました。

Valknee – それは…彼だけ聴いてたんだと思います(笑)ヤンチャ系の子がJin Doggともう一人だけいたんですけど、その子たちが聴いていたのかも。全然耳に入ってくる感じじゃなくて、後から「そんなのあったんだ」って感じですね。

– ヒップホップは幼い頃に通っていなくて、音楽に入ったきっかけがハロプロと言っていましたよね。ハロプロを好きになった経緯はどんなものですか?

Valknee – 最初は親が車で流すためにカセットを作ってくれていて、それにハロプロとかが松田聖子とかサザンとかその頃の曲が入っていたんですよ。とりわけハロプロのシャッフルユニットが好きで、韓国に転校するまで聴き続けて。中2ぐらいで椎名林檎やBUMP OF CHICKENとかも音楽を好きになるんですけど、並列して松浦亜弥を聴いていて、アイドルが好きな自分と、バンドが好きな自分との2軸があったんですよ。モー娘。が衰退する時に一回離れちゃうんですけど、音楽好きは変わらなくて高校で軽音部に入ったりしてて。バンドを聴く中でTelephonesやPolysicsみたいな四つ打ちが入ってる日本のバンドが入ってくるときがあって、「これ好きかも」ってなって結構打ち込みの音楽を聴いていって。ある時に「Berryz工房ってそっち系の音だよ」って言ってくる友達がいて、「今ハロー!ってこんなに音が熱いんだ」ってことに気づいて浪人生から大学生ぐらいにそっちに行って、クラブミュージックとハロプロを同時に聴いて、踊れるものとして認識したのが大学生時代。当時『申し訳Night』とか日本語をクラブミュージック解釈で流すイベントがあって、そこでハロプロが多くかかってたので。ヒップホップも日本語だったらかけてよくて、それでヒップホップを聴くタイミングが出来たって感じでした。ちょうどPUNPEEが『Movie On The Sunday』をリリースした時期でした。

– その時はもう自分で音楽を作っていたんですか?

Valknee – その時はバンドをまだやっていて。ベースとシンセもやって、曲も私が作ってました。ピコピコした曲をやってたんですけど、不仲で上手くいかなくて(笑)「人とやるの面倒くさいな」ってなってた時に、lyrical schoolのメンバーや嫁入りランドが大学の先輩にいて、女の人がラフにラップしてるのを聴いて「私もやりたいかも」ってなって。「ちょうど学祭とか出れるのあるし、それに向けて作ってみようか」ってやり出したんです。tofubeatsが同い年の星みたいになってたから「ああいう方法あるんだ」って感じで私も始めました。

– ライブをし始めたのはもうちょっと後なんですよね。

Valknee – そこから4年後くらい。その間はSoundCloudに発表してただけで。

– プロデューサーのANTICさんとの出会いもSoundCloudですか?

Valknee – もっと後で去年とかなんですよ。大学卒業してからブラック企業というか、結構キツい会社で働いてて、ラップをやる意欲が無くなってしまって。でもSoundCloudに曲をぼつぼつあげてイベントは遊びに行ける日は行くみたいな生活が3年ぐらい続いて。そのあと初めてイベントに出て、ハロプロのビートジャックだけでライブに出たことがあって。アイドルオタクのコミュニティの中でラップをしたりDJを3年くらいして、たまたま神奈川のspareっていう箱でレギュラーでラップとかDJをさせて頂くことになって。そこでANTICさんに出会いました。あっちもトラックずっと作りながら「ラッパーを見つけたい」って時で、私もトラックメイカーが見つかればいいなって思って活動をしてたんですね。「ハロプロの曲でビートジャックしていれば見つかるだろう」っていう算段でやっていたんで、「出会えた!」っていう(笑)その前後に別のトラックメイカーが作った曲もあるんですけど、しっくり来て活動出来るようになったのは2019年です。それまではずっとただのお客さんだったって感覚です。

– 当初から曲に韓国語が入ってたので「韓国語でラップしてる人がいる!」と思って気になってて。最近の曲でも混ぜていますが、それは意図的に始めたんですか?

Valknee – 韓国アイドルが好きだから自然と語呂が良くて使う意欲が湧いて。住んでいた当時は便利な言葉とかしか習得出来なかったんですけど。韓国語は日本語よりも踏みやすくて、語尾のところでちょっと鋭いパッチムとかがあってニュアンスを出しやすいと思ってて。日本語だけだとちょっと難しいかな、ってところで英語と韓国語を両方入れればバリエーションになるかなって意図でやってます。でもJin Doggくんが同じ学校にいたのも影響を受けてるというか、彼も韓国語を入れてる曲もあったし。その辺の影響もありますね。

– “ASIANGAL”で「idol rapper 모두 좋아 (アイドルラッパーみんな好き)」というリリックがありますよね。アイドルラッパーって日本にはあまりいないけど韓国には物凄く沢山いるじゃないですか。影響を受けた人などもいますか?

Valknee – あれは「アイドルもラッパーもみんな好き」っていう意味もあって。そうなのか分からないですけど、DPR LIVEとかギリギリのところですよね。「ラッパーをアイドル視するな!」みたいな流れをTwitterで見ていて、「いやいや、アイドル視っていうのは結構デカい要素だぞ」って私は思っていて。前に出る人なら意図しなくてもアイドル視されたりして人気が上がっていく、みたいに思っていて。この前弘大のTHE HENZ CLUBでライブしたときも『Show Me The Money』の面子が一緒に出てて、みんなオープンの時からそのメンツを待っていて地蔵状態で。「やっぱり韓国もこういう感じじゃん」って。私はそういう人たちをファンに組み込むことが成功の秘訣なんじゃないかと思ってますね。演者側が拒否することじゃないと思っていて、ずっとそれを主張し続けていますね(笑)

– HENZはどうでしたか?

Valknee – 出番が結構最初の方で、DJの時間が2時間くらいあって私が出て、後ろに『Show Me The Money』の子たちがいて、真ん中にグライムのMCの子たちがいっぱいいてってごちゃ混ぜのイベントだったんですよ。みんな『Show Me The Money』の子たちまでは前の方で携帯をいじってる感じで、「DJも凄く魅力あるのに気の毒だな」って思いながら、自分のライブの不安もありつつ。出演者に女性のラッパーがいなくて、皆アイドル視してる男のラッパーを見に来てる感じだったので、「なんか悪いな」と思いつつ出て行って、ちょっと韓国語でMCしたりとかしたら、みんな「なんか知んないけどラッパー出てきた」って感じで動画撮ってくれて(笑)女の子が前の方に密集してたのもあって、“NUNA”って曲とかは多少聴き取れていたら何かを感じ取れたんじゃないか、っていう揺れ方をして下さって。「よかったよかった、ギリギリ大丈夫だった」っていう認識でした。

– 現地の人に対して韓国語でラップすることの緊張感はありましたか?

Valknee – 韓国語の曲を選んだんですけど、「このプレッシャーに打ち勝つぞ」って自分に対して試練を与えて(笑)自分の韓国語は絶対に間違ってる韓国語なんですけど。あれも知ってる単語プラス調べて作った曲たちだったので、それに対する韓国語詳しい人たちからの修正のメールを貰ったりしてて。「こんなに間違ってるんだ」っていう状態でライブするのって、緊張というかヒヤッとしますよね。「分かってるけどやるぜ」って。心を大きく持ってやりましたね。あと、韓国人の友達とかに聴かせたら多分間違えすぎて笑えるんだと思うんですけど、「何この歌」って爆笑してて(笑)ちょっと面白いものとして見せることが出来たので、まあいいかって。この後も韓国語の曲を作ると思うので、上達していくところを見せたいですね。自分がアイドルが好きっていうのもあって、日本語のMCがどんどん上手くなっていく韓国のアイドルを見て「素晴らしいな」って思ったりするから。日本のアイドルでもスキルがアップしていく様って感動的ですよね。それが自分がアイドル好きな理由なんで、アイドルではないですけど、そういうストーリーがラッパーにあってもいいんじゃないかって思います。

– アイドルといえば、Twitterで『PRODUCE 101 JAPAN』の投票を呼びかけていましたよね。あれも日韓のミックスカルチャーですが。

Valknee – あれも結構反応ありました。「ラッパーのValkneeちゃんが応援してくれています!」って小さいファンダムの子がシェアしてくれたり。「Valkneeさんの韓国語の曲はこれです!」って“NUNA”を勧めてくれたり。本来意図してたところではあるんですけど、意外なところに拡散されて。「一緒のアイドルファンだよね、うちら」みたいにやってくのも良いのかなって。オカモトレイジくんとかがファンとそれでコミュニケーションしてる所を見てたので。日本はまだアイドルとラッパーに壁があるというか、なぜか分からないけどSKY-HIさんのことをヘッズの子たちは別枠に見てて。「SALUはあっち行っちゃったしね」みたいなムードも。韓国はもうちょっと壁が無いように思います。

– たしかにアイドルとラッパーの分断があまりされてないですよね。

Valknee – アイドルのスキルが高いのもあると思うんですけど。アイドル的なところからアイドルラッパーみたいな段階にスライドしていく人もいますし。日本はそういうグラデーションがないと思うので、JO1の子たちがそれを成し遂げて欲しいですね。

– 中間に立つ人があまりいなくてお互いにちょっと距離がある感じですよね。

Valknee – アイドル側の人も「好きだし聴くけど、そっちには行けないな」みたいな考えがあるんじゃないかなっていう。男性でもそうだし、女性はそもそも土壌も無いので。例えばアイドルラッパーやアイドルだった人を私がフィーチャリングで呼んだりしたら、1つためにはなるのかなと思います。

– Lyrical Schoolが4月にリリースした 『OK!!!!!』に収録された”HOMETENOBIRU”にリリックを提供してますよね。まさにアイドルに歌詞を提供するという形だと思うんですけど、いかがでしたか?

Valknee – 元々「アイドルにラップを提供したい!」と思っていて。ハロプロにもラップをディレクションする人がいるから、そういうことをやりたいと思って。自分が演者としてだけでやっていけるとは思っていなくて、並行して進むプロジェクトがいくつか欲しくて、ゴーストライターとかPodcastを、並行してやりたくて。アイドルのプロデュースはその中の1つですね。EPを出したりする前も、知り合いとアイドルに見立てた曲を作って遊んでたりして。それを多分リリスクの運営の人たちに見てもらえてて、あとは多分歌詞を書く人に女性が今までいなかったみたいで、「誰かここらでやりたいよね」っていうのでちょうど私の名前が上がったみたいで。私は「しめしめ」というか、「やったぜ!」って。一個目標が叶いました。

– アイドルの文脈も理解してますもんね。

Valknee – あと、女の子に対して今は歌詞の内容で「自己愛」を活性化したいというか、ガールズエンパワメントをしたいというのがあって。それをアイドルの子たちにやってもらうことで注入したいというか。アイドルは媚びなきゃいけない、とかもありますけど、考えるきっかけになって欲しくて。

– Valkneeさんの歌詞を見て思うのが、モラルが凄くあるんですよね。Valkneeさんはルッキズムに対するディスとか広告代理店のモラルについてとか、その対象がそういう社会的な事象だったりして。その辺もアイドルの女の子に伝えたいことと繋がっているのかなと思います。



Valknee – そうですね、そういうことを過去に言ってきた人とかに対して、攻撃してる面もあるんですけど、大きく言って大きい問題に見せてる(笑)でも一応意識してそういう感じにしてますね。

– SNSに対する不満や怒りもありますよね。

Valknee – 多いですね。半径5メートル以内の話ばかり書いてるからそうなると思うんですけど。普通のOLなので大きい事件とか起きなくて、ラッパー間の小競り合いとかも起きないし。だから自然とそういう方向に行くんですかね。

– それがリアルだと思うんですけど。ValkneeさんのやっているPodcast『ラジオ屋さんごっこ』でもヒップホップ特有の地元愛や「ここから俺たちが世界に行くぜ」みたいな意識が無い、みたいな話もしてましたよね。

Valknee – 韓国に行ったのもそうですけど、結構転勤が多かったから地元とかが無いんですよ。今も引っ越しをしてる最中で。だからといって居場所作りをしたい訳でもなくて、緩く繋がるコミュニティがあれば良くて。よくある「No New Friend」みたいな、フッドの友達だけでいい、みたいなのがゼロなんですよ。どんどん新しい友達になっていくし、自分の思想が強いからかもしれないですけど、昔仲良かった子と遊び続けるのが辛くなったりして、どんどん新しい人と遊んだりするようにしてる最中で。だからそういうスタンスで良いのかな、みたいな感じです。

– 場所に捉われるよりネットで繋がったりとか。

Valknee – そうですね。韓国にライブに行けたのもそれをやっていたからだと思いますし、韓国以外でも例えばタイとかに行ってライブしたいと思うんですけど、「ここに足がついております」っていうのは無くていいと思ってます。ずっとフットワーク軽めでやりたいですね。

– Podcastを始めたきっかけは何ですか?

Valknee – ずっと宇多丸さんの『ウィークエンドシャッフル』を聴いてて。『申し訳ないと』に行ったのもそれがきっかけで。宇多丸さんは話すことや凝り固まった考え方じゃないところが好きで、深夜ラジオを聴くような子たちに希望を与えてくれる存在じゃないですか。その後BAD HOPのラジオにめっちゃハマる時期があって。めちゃくちゃ面白いから好きになって、活動するにあたってパーソナルな部分を知れる面積が多い方がいいなと思うようになって。内面が全然分からない人もいる中で、私は中身を見せてる人が好きだったので、自分もそういう場を作りたいなと思って。たまたま一緒にやりたいって言ってくれた人がいたんですよ。全然ヒップホップも知らない人たちですけど、その友達と一緒に始めました。

– 全然知らない人がTohjiについて語る回も面白かったです(笑)

Valknee – 「今のTohjiはKAT-TUNの赤西みたいなものだ」とか、めちゃくちゃなことを言ってて(笑)私は打算的なところもあってやってるんですけど、他の二人は友達として遊び感覚でやってますね。

– 韓国で撮った”ASIANGAL”のMVも、確かネットで声をかけられたのがきっかけなんですよね。

Valknee – そうです。DMが来て、「自分韓国在住で撮ってるんだよね。一緒にやらない?」って。英語で来たんですけど。

– コミュニケーションに問題は無かったですか?

Valknee – うーん、ちょっとあったと思います(笑)言葉数が少なくなっちゃって。私も最小限でやりとりして、「今度旅行で行くからその時撮ろうよ」って。曲とかはあっちの人がビートを探してくれるから、「全部やるよ」って話で。「じゃあお願いします」って言ったんですけど、会ったら南アフリカ人のおじさんで韓国人でもなかったんですよね(笑)

– Valkneeさんから「韓国にMV撮りに行くよ」って話聞いた時に「誰ですか?」って聞いたら「どこの人かも分からない」って言ってて(笑)

Valknee – 「韓国在住」っていうので思い込んじゃってたんでしょうね(笑)私は便利な韓国語ならちょっとは分かるので、それだったらコミュニケーション出来ると思って行ったら、韓国語が出来なくて南アフリカ訛りの英語を話す方で。スタジオとかも準備して下さってたんですけど。全然1から10までやってくれて、ビートやマスタリングから配信までやってくれたんです。ネット繋がりですね。

– SNSの使い方が気になってたんですよね。Tinderでのプロモーション活動も(笑)

Valknee – 思いついてやったんですよね。一番目の写真を自分の盛れてる写真にして、2枚目からApple Musicでリリースした曲の画像にして、4枚目に直近のフライヤーを入れて、「ラップしてます、Twitterとインスタはこれです」って書いて。最初はみんなに表示されるから良いかと思って全部OKにしてたんですけど、それをやってるとスパム認定されるみたいで凍結されちゃって(笑)今は2個目のアカウントで、適度に「nope」を交えながらやってます。

– 実際にライブに来てくれた人はいましたか?

Valknee – いたんですよね。後は、私の友達とマッチングして友達が連れてきてくれたり(笑)Pairsのコミュニティも作ってもらって、そのコミュニティの人同士が「行かない?」って言って来てくれたりとか。そんなに有効じゃないんですけど、局所的な盛り上がりが面白いかなと思ってやってます。今の会社で働く前に美容整形の広告をする会社で働いていて、それでSNSの「中の人」をやってたんですよ。インフルエンサーをアサインして広告をやってもらう部署にいて、その話をリリックに入れたり。そこで得た知識も多かったりします。そんなに熱心にやってたわけじゃないんですけど、マーケティングの部分に少しは理解があると思ってSNSを使ってますね。Tinderは 表示されるだけでも、友達間で話題になるかなと思って。「ラッパーがいたんだけど」ってなって、「見てみる?」ってお酒の席でなるかもしれないし、曲を再生されるかもしれないし。「東京でヒップホップが好き」みたいな人たちって凄く数が少ないと思っていて。少しでもマーケットが広い方が良いと思ってアジアでやったりしてます。

– アジアでやったり、意外なところで出会った人を連れて来たり、特定のファンじゃ無いところを広げていく感じですよね。

Valknee – 自分はヒップホップが好きだからヒップホップをやってると思ってるんですけど、あまりヒップホップアーティストとして感じてもらわなくても良いですし、例えばヒップホップのイベントをやる時にValkneeをブッキングすれば、いつもは大森靖子ちゃんを好きだったりする全然違う客層を呼べるからブッキングしよう、ってなって欲しくて。

– もしまた韓国でやることになったら一緒にやってみたい人はいますか?

Valknee – さっき話したHenz Clubでのイベントの時にMoldyっていうグライムのラッパーの子と知り合ったんですけど、その子はすぐに「一緒に曲作ろうよ」ってメッセージを送ってくれて。だからその子と一回作って、すぐ旅行とか行くと思うんでその時にビデオを撮れたらいいなと思って。あと、韓国の女性のラッパーのYUZIONちゃんと作りたい。単純にリスナーとして好きで、個人的に良いかなって感じです。Jvcki Waiともやりたいけど、もっと有名になっちゃったので(笑)



– 女の子のラッパーも韓国には多いですよね。

Valknee – この間知り合った子がフォローしてる子で、みたいに、まだ規模が小さいラッパーの女の子を見つけようと思って今めっちゃ見てます。好きで聴いたりはしてるんですけど、良いなって思う人は韓国のファンの母数が大きいからやっぱりフォロワーが10000人以上なんですよね。こっちの体感で「まだフォロワー3000人くらいだろう」と思って見に行くともう10000人を超えてる、みたいなことがよくあって。だからもっと潜って同規模の人を見つけて、一緒にやりたいと思っています。

– やってみたい箱などはありますか?

Valknee – 全然知らないんですけど、でも新都市でやりたいです。この間行ってみて「ここ良いな」って。あとは普通に弘大の道端でやりたいです。

– 最後に今後の展望というか、話を聞いて来た中でSNSやガールズエンパワメントから韓国まで色々な在り方を考えてると思いますが、全部含めてどういった考えで今後活動していきたいですか?

Valknee – 今は業務委託でフリーランスみたいに仕事を受けて平日ありつつ、ラップをやってるんですけど、だんだんラップの割合を増やしていきたいなって。普通に自分が生み出したものでお金が発生する状態にしたいですね。今は全然出来ていないので。だから最終的には…Charaみたいな(笑)Charaとかは確実に長くいるし、メイクマネーしてるし、親になってもずっと新しいエッセンスを入れて進化しながらずっとやってますよね。そういうアーティストになりたいと思うんですけど、なかなか音楽だけは厳しいな、とか、日本のヒップホップの客層だけでは、厳しいな、ってところで、もっと聴いてもらえる工夫をし続けたいです。自分の活動が上手く行った段階で裏方の仕事とかもしたいですね。極端なメジャー志向ってことは全然無くて、今面白いことを布教したい、っていうシンプルな気持ちでやってます。数年後にはタイにハマって、「タイの音楽めちゃめちゃ面白い」とか言ってるかもしれないです(笑)

– 捉われないところが面白いですよね。変にこだわりを持つよりは、フットワーク軽くあちこちに行って。

Valknee – 「韓国に住んでたことをアイデンティティにしよう」とか、そういう気持ちもそこまで無いというか。今自分が韓国にハマってるし、曲とかがイケてるなと思うから取り入れたいし、シェアしたいという気持ちでやってます。

– ありがとうございました。

日本と韓国 : 隣国で暮らしてみて
Vol.1 NOA

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