一月三十一日、黒川弘務東京高検検事長(当時)の定年が延長された。黒川氏を検事総長に就けるための恣意(しい)的な決断とされた。

 一方、世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスによる感染症を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に当たると宣言したのが一月三十日。なかなか決断しないことに国際社会から批判を受け、背中を押されるようにして発したメッセージだった。

 新型コロナの感染拡大はとどまるところを知らない。日本は今月二十五日に緊急事態宣言を全面解除。安倍晋三首相は「流行をほぼ収束させることができた」と強調したが、その後、東京都や北九州市などで感染拡大の傾向も見え始めていて「第二波」の懸念も語られる。収束には程遠い。

 黒川氏の人事を「後づけ」するとも評価される検察庁法改正案は国会に提出され、五月に審議入り。改正に反対する声が会員制交流サイト(SNS)であふれ「ツイッターデモ」と注目された。政府・与党が法案の今国会成立を断念したのは十八日。しかし、これで終わりではなかった。黒川氏が新聞記者らと賭けマージャンをしていたことが発覚。黒川氏は辞職に追い込まれた。こちらも一件落着とはいかない。

 検察庁法改正とコロナ。全く異質の問題だが、ほぼ同じ時期に、とてもよく似た展開をみせてきた。検察庁法改正案については「コロナ対応に専念すべき時に、不要不急の法案になぜ時間を割くのか」と批判された。時系列に比較すると「コロナ禍に国民の目が向いているうちに、成立させてしまおう」という悪意があったという疑念さえも抱いてしまう。

 そもそも、日本中の人が明日の生活の不安におびえている時に、国家公務員の任期を延長する議論をしていいのか、という主張がほとんどなかったのは寂しい。

 安倍内閣に対し国民が怒っている。毎日新聞などが二十三日に行った世論調査で内閣支持率は27%。二十三、二十四日に朝日新聞が行った調査は29%。どんな評判の悪い政策を行っても「三割の岩盤」の支持があると言われてきた安倍内閣だが、その岩盤に亀裂が入った。スピード感がなく、国民のニーズとずれた施策が続くコロナ対応、そして検察庁法改正への不満が吹き荒れているのが実証されたのだ。

 二つの調査では内閣支持率とは別に政党の支持も尋ねているが、いずれも内閣の支持より自民、公明の与党支持が上回った。安倍氏が二〇一二年に首相に返り咲いて以来、安倍内閣は総じて安定的な支持率を維持し、それが「安倍一強」の力の源泉になっていた。政府が与党より力を持つ「政高党低」だ。しかし、今回の調査のように内閣の支持が与党の支持を下回る状態が続くと永田町の「気圧配置」は「党高政低」に変わる。それは与党内に「安倍降ろし」の機運が出ることを意味する。

 夏から秋にかけてコロナ禍の影響による経済への打撃の全貌が見えてくる。それと並行する形で「ポスト安倍」をにらんだ動きが与党内で顕在化するのではないか。


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