【参考記事】
『Exclusive: Electrify America Will Transition To Pay By kWh Pricing, And More』 by Tom Moloughney on 『InsideEVs』

可能な州では早々にkWhベースの課金制度に移行

『InsideEVs』では、2020年5月13日の記事で、フォルクスワーゲンの子会社として設立され、カリフォルニア州を中心にアメリカ国内の電気自動車用急速充電ネットワークを展開する『Electrify America』社のCEOである Giovanni Palazzo氏への独占インタビューを伝えています。

内容のポイントは、タイトルにもあるように Electrify America の充電器を利用する際の課金体系が、充電器を利用した時間に応じた料金体系から、「Pay By kWh Pricing」、つまり充電された電力量に応じた「従量課金」へ移行するというものです。

移行のタイミングについては「2023年までに」という意欲的なコメントが紹介されていますが、明確な時期はまだ示されていません。また、基本的に電力会社は電力の再販を認めていないため、電気自動車急速充電の従量課金制を認める制度を整備したカリフォルニア州など「従量課金が可能な場所から提供していく」としています。

Electrify America の現在の課金制度は?

Electrify America 公式サイトより引用

Electrify America の現在の課金方法は、分単位の時間課金制です。ただし、実際の充電時の出力によって、段階的に利用料金が設定されています。また、1分40セントの「idle fee applied after a 10 minute grace period」つまり、充電終了後に車両を放置した場合の追加料金が課せられます。

実際の出力レベルによる段階的な料金設定や、充電終了後の放置へのペナルティ課金は、日本でもテスラのスーパーチャージャーではすでにそのようになっています。

Electrify America については、この『EVsmartブログ』でもしばしば情報をお伝えしてきています。参考までに、過去の Electrify America に関する記事へのリンクを貼っておきます。

【Electrify America 関連記事】
『カリフォルニア州の充電器設置プランが公開』(017年4月10日)
『Electrify Americaの充電スポットでは、今後はCHAdeMOのサポートは最小限に』(2018年5月15日)
『Electrify America社が独・Hubject社と提携し、充電器に繋ぐだけで認証可能なサービス開始へ』(2019年1月17日)
『Electrify Americaが電気自動車用の新しい充電料金とモバイルアプリを発表』(2019年5月17日)

Electrify America の充電器はスマホアプリで認証や操作が可能。

従量課金のメリットとは?

電気自動車ユーザーでない方、また急速充電をあまり利用しない方には、「なぜ従量課金が必要なのか」という理由がよくわからないかも知れないので、端的に説明しておきましょう。

ユーザーの不満軽減

まず、急速充電器を利用する電気自動車ユーザーの不満を軽減するためです。Electrify America の場合、時間課金とはいえ出力レベルに応じた段階的な料金が設定されていますが、日本に広く普及しているNCS(日本充電サービス)加盟の急速充電器では、出力はまったく考慮されません。

つまり、出力が20kWしかない充電器を使った時も、出力が90kWの充電器を使った時も、1分間の利用料金は同じです。まして、駆動用電池の温度管理システムが脆弱な場合、極端に寒かったり暑い日などには受け入れ可能な出力が大きく落ちることがあります。わかりやすく具体例を示すと、たとえば20kW器で30分に8kWh充電した場合、1分間に充電できる電力量は約266Wh、つまり0.26kWhだけ。対して、90kW器で30分に40kWh充電できたとすると、1分当たりの充電量は約1.3kWhになります。

NCSのビジター充電だとすると、0.26kWhでも1.3kWhでも利用料金は1分当たり50円。実態としては5倍ほどの利用料金格差が生じてしまうことになります。また、20kW器であまり入らない急速充電を行った際には、1kWhの充電に200円近い料金(家庭用の電力料金の目安としては1kWh27円程度)を払うことになるのです。

アメリカの電気自動車ユーザーにとっても、自分が充電した電力量に見合った料金を支払いたいという要望が強く、今回の方針表明は、そうしたユーザーの不満を解消するための「正しい方法」であると明言されています。

充電器設置事業者の収益性を健全化

低出力の急速充電器の設置コストや維持コストは、当然、高出力器よりも安価です。どちらを設置しても利用者から得られる料金が同じだとすると、設置事業者としてはコストがかからない「低出力器でいいか」となるのは、人として、商売人として責められることではないでしょう。だから、とはいいませんが、日本国内の、ことに道の駅など一般道路沿線の商業施設などには、20〜30kW程度の出力の小さい急速充電器が増えてしまいました。

でも、電力量に応じた従量課金が可能であれば、設置事業者にとっては高出力の充電器を設置したほうが、同じ利用時間から得られる収益が向上します。電気自動車ユーザーのニーズを見極めながら、高出力器を導入していこうというモチベーションにもなるでしょう。

Electrify America の場合、すでにコンボ規格の150kWや350kWという高出力器のネットワークを構築していますから、投資に見合った収益構造の健全化を推進することにもなるといえます。

低出力器でも、充電器がないよりはマシですけど、大容量電池を搭載した電気自動車が増えつつある世界の流れを勘案すると、チャデモ急速充電器としてたくさん設置されている44kWや50kW器でもすでに「力不足」になりつつあります。最近登場した「チャデモ1.2規格」による新電元の90kW器や、今後、さらに高出力規格に基づいた150kW以上の高出力器を日本国内に増やしていくためにも、実際の充電電力量に応じた課金体系を整えることが大切だと思われます。

充電インフラのルールは誰が決める?

「Electrify America が従量課金へ移行」というニュースに触れて感じるのは、アメリカの急速充電サービスは、少なくともユーザーに視線を向けて発展しようとしていることです。この記事をどうまとめようか考えていた5月24日の朝、Facebookでグループのメンバーになっている『日産リーフ オーナーの会』で、あるリーフオーナーの方が「充電器に先客がいたら、残り時間を確認しに行きますか? 私はトラブルになりそうな気がして見に行けません」という主旨の問いかけをしていました。

急速充電器の液晶表示には、充電の経過時間などが表示されています。先客がいたら、残り時間を待つか、次の充電スポットを目指してスルーするかを決めるために、経過時間を確認したいのが人情です。でも、車内で待っている方のなかには、液晶を覗きに来られると急かされているような気がして不愉快に感じる人もいるのでは? という配慮ですね。

私自身は、車内に人がいるのがわかったら会釈などしつつ、当然のこととして液晶を確認しに行きます。でも、どうするべきかという明確な「ルール」はありません。電気自動車というまだ数少ないモビリティを利用していると、インフラ整備や、それを利用するための制度やルールが発展途上であることによって、戸惑ったり、腹立ちを感じたりするようなことがあるのです。

「液晶の残り時間を確認するか」というのは、要するに人と人とのコミュニケーションの問題だと思うので、ちゃんと挨拶を交わしてみんなで便利に使いましょう! ということになるでしょうが、日本の充電インフラがユーザーの頑張りだけではどうしようもない火急の課題を抱えているのも事実です。今までにも他の記事で繰り返し触れてきたことでもありますが、いくつか、具体的に挙げておきます。

●高速道路SAPAへの複数台設置
ことに首都圏や関西圏などの都市近郊で、高速道路SAPAでの充電渋滞多発が深刻になりつつあります。欧米や中国では充電スポットごとに複数台の急速充電器を備えるのが当然のこととして整備が進んでいます。日本でも、ことに高速道路網の充電スポットにおける複数台設置は必須の課題となっています。

複数台設置が広がれば充電渋滞は減り、先客への妙な気遣いが必要な場面にぶち当たることも少なくなります。

●高出力充電器の計画的な配置
チャデモ新規格の記事でも書きましたが、今後、150kW以上の高出力器の整備が始まっていくことでしょう。ただ、初期コストが高額になったり、電力供給の負担のことなどを考えると、どこもかしこも高出力になる必要はありません。高速道路のおもなSAや、主要都市間の距離を勘案して「拠点」となるべき適切な場所に、計画的に配置していくべきではないかと思います。また、たとえば1台の150kW器の出力を2〜3台の電気自動車が分け合って、同時に利用できるマルチアームなどの工夫をしていくことも大切です。

●認証&課金システムをわかりやすく簡単に!
たとえば、テスラのスーパーチャージャーは、充電プラグをクルマに挿すと自動的に認証されて、登録しているクレジットカードに課金されます。一方で、日本の高速道路などに設置されている充電器の認証や課金システム(NCS認証が中心)は、残念ながら使い勝手がいいとはいえません。まだ、日本国内での電気自動車本格普及が始まる前だからこそ、合理的で便利な認証&課金システムが確立されることを願っています。

●「目的地」には普通充電器の複数台設置を
充電インフラを話題にすると急速充電器ばかりが注目されがちですが、実際に電気自動車を使っていると、宿泊施設や商業施設、レジャー施設などの「目的地」に、十分な数の普通充電器があるといいな、ということです。ホテルや旅館などで電気自動車用の普通充電器や200Vコンセントを備えたところが増えてはきましたが、まだまだです。普通充電設備は急速充電器に比べて設置コストが安価で、電力供給への負荷も小さいので、駐車場を備えた目的地施設には複数台の電気自動車用充電設備があって当然、という日本になってほしいと思います。

●充電器利用のルールやマナーの策定と周知
急速充電は、電池容量の80%を超えると遅くなるといったことや、急速充電に対応したプラグインハイブリッド車は50kWなどの高出力器を使っても20kW程度の受け入れ能力しかない、といったことは、電動車ユーザーでも知らない方も多いのでしょう。また、充電が終わっているのに充電スペースにクルマを放置したままだったり、エンジン車がEV用の充電スペースを占拠しているようなこともよくあります。何をルールとして、誰が、どのようにそのルールを周知していくのか。これから電動車が増えていくなかでますます大事なことになっていくでしょう。

アメリカの話題から、日本の課題についての愚痴になってしまいました。それにしても、Electrify America のCEO自らが「従量課金に移行するぞ!」とメディアのインタビューに対して宣言できるアメリカの状況には、好ましい風通しの良さを感じます。日本でも、インフラ整備やルールづくりについてはぜひともより多くの電動車ユーザーの声を反映し、誰もが使いやすい電気自動車社会が醸成されていきますように!

(文/寄本 好則)

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