前回の『「私の専門ではない」に愕然』の続きです。

 2020年春の第1波の頃は感染者、死者数も多く、「負け組」の様相を呈していた英国でしたが、冬になるまでには緊急時に医療者が集まれるよう、あらかじめシステム構築を進めていました。ほとんどの医療者や看護師は既に英国国立保健サービス(NHS)の政策のもと、オンラインで人工呼吸器の使い方を学び、冬場のピークの新型コロナウイルス感染症診療に向けてベッドの確保を行いました。

 それでも昨年冬、病床が予想以上に逼迫してくると、内科医はもちろんのこと、外科医までも新型コロナ診療に駆り出されました。「いくらなんでも専門外の医師に支援を求めるのは不条理だ」と思われる方も、当然ながらいるかもしれません。しかし英国の医療は軍隊のように国営色が強く、病院も大規模なため、このような人材の調整が日本と比較して容易だったのかもしれません。

 英国ではピーク時の今年の1月には陽性数が一時毎日5万人以上、入院数は2万人を超えました(BBCのサイトを参照)。これは日本の陽性者数ピーク時の7790人(2021年1月9日)の約6倍超を上回る数でした。これだけの新型コロナ患者を診るためには相当な工夫が必要だったはずです。けれども第1波の頃のような病床の逼迫は避けることができたようです。

人材不足を「連携」で補う

 「医療者の人材調整」といった観点からは、英国では既に既存の基盤があったことが大きいと言えます。まず英国では圧倒的に人材面で「総合診療専門医の割合が多い」ことは人材調整において有利でした。総合診療専門医(GP)は英国では医師の約4割に当たる約5万人、米国は約10万人ですが、日本では約900人とまだ低い値です。英国ではその年の地域のニーズに合わせてGPの研修枠を適宜調整しています。GPを地域に多く配置していたことで、GPが軽症の新型コロナ患者を自宅管理し、重症患者は病院と初期から明確に機能分担することができていました。

 またGP以外の専門医でも、英国では総合診療的な研修が必須だったことも、人材を最大限に活用できた要因の一つでした。英国では内科専門医や救急専門医は初期研修の2年に加え「最低3年間の内科や救急を含めた他科のローテーションを経験」することが長い間、必須でした。そのため緊急患者においては全ての病院で救急専門医や内科医が各病院に多く24時間配置できる体制だったため、「たらい回し」は最小限に抑えられていました。

 つまり英国では経時的に総合診療を担う人材を養成していたため、緊急下でも「医療キャパシティーをフルに活用しやすい環境」であったと言えます。

医療人材育成の優先

 新型コロナウイルス感染症は世界、日本の社会構造そのものに大きな衝撃を与えていますが、日本の医療も例外ではないと思います。

 今回のコロナ鍋で起きた病床逼迫の「予盾」の背景には、「総合診療専門医の不在」とそれに伴った非効率な人材活用も一つの要因です。日本は単に新型コロナの病床数が足りないだけでなく、それを診る地域、救急、病床など臓器を問わず、診ることができる総合診療医の数が圧倒的にたりません。

 大切なのは一人で一通り広く病気を診ることができる総合診療医を今より多く配置することです。しかし現状日本ではそうした優秀な総合診療医を育てられる医療施設は、数えるほどしかありません。今回の騒動は病院機能の見直しだけでなく、医学教育の在り方なども含めた地域医療全体像を考えるための良い機会になってほしいと願います。

 次回は「総合診療医育成を目指す医療機関へ一言」を予定しています。

 

佐々江龍一郎

NTT東日本関東病院総合診療科医長兼国際室室長代理

1981年4月生まれ。2005年英国ノッティンガム大学医学部卒業。英国の家庭医診療専門医の資格を取得し、キングスミル病院、ピルグリム病院、テームズミードヘルスセンター、WEST4家庭医療クリニックなど、英国内の医療機関で約12年間家庭医として活躍。2016年に日本の医師免許を取得し、帰国。2017年からNTT東日本関東病院総合診療科、国際診療部に勤務。


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