『人工知能は人間を超えるか』(KADOKAWA)などの著書でも知られる松尾豊さん



一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)が4月17日に開催した「第二回全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2021(DCON2021)」の本選において、福井工業高等専門学校(福井高専)が優勝した。実行委員長を務める東京大学大学院工学系研究科 教授の松尾豊さんは「DCON発で、日本のなかに新しいイノベーションの形を作っていきたいと思っています」と語った。

DCONは高専生が日頃培った「ものづくりの技術」と、人工知能(AI)分野でとくに成果を出す深層学習(ディープラーニング)技術を活用して、事業の評価額を競うというもの。本選には書類審査による1次審査、プロトコルによる2次審査を勝ち抜いた10チームが出場し、事業化を想定して作品をプレゼンする。

郷治友孝さん、川上登福さん、松本真尚さん、仁木勝雅さん、河合将文さん(左上から順番に)


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審査員には株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC) 代表取締役社長の郷治友孝さん、株式会社経営共創基盤 共同経営者(パートナー)マネージングディレクターの川上登福さん、株式会社WiL, LLC 共同創業者/ジェネラル・パートナーの松本真尚さん、株式会社ディープコア 代表取締役社長の仁木勝雅さん、DBJキャピタル株式会社 ディレクターの河合将文さんが集まった。

技術審査員には松尾豊さんに加え、早稲田大学基幹理工学部表現工学科 教授で、早稲田大学 基幹理工学部表現工学科 教授で、産産業技術総合研究所 人工知能研究センター フェローの尾形哲也さんが参加している。

渡瀬ひろみさん、田中邦裕さん、渋谷修太さん、香田哲朗さん、草野隆史さん、小野裕史さん、岡田陽介さん、伊豫愉芸子さん、岩佐琢磨さん、佐藤聡さん(左上から順番に)

各チームのメンターは株式会社アーレア 代表取締役社長の渡瀬ひろみさん、さくらインターネット株式会社 代表取締役社長の田中邦裕さん、フラー株式会社 代表取締役会長の渋谷修太さん、株式会社アカツキ 共同創業者 代表取締役 CEOの香田哲朗さん、株式会社ブレインパッドの草野隆史さん、17LIVE Inc. Group CEOの小野裕史さん、株式会社ABEJA 代表取締役CEOの岡田陽介さん、RABO, Inc. President & CEOの伊豫愉芸子さん、株式会社Shiftall 代表取締役CEOの岩佐琢磨さん、connectome.design株式会社 代表取締役社長の佐藤聡さんが担当した。

企業評価額は6億円 誰でも簡単に打音検査できるシステム

ヒャダインさん、松尾豊さん、田中邦裕さん、小島瑠璃子さん(左から順番に)

それでは、さっそく気になる優勝チームを見ていこう。数ある高専生によるチームがあるなか、1位に輝いたのは福井高専のプログラミング研究会。企業評価額は6億円、投資額は1億円と評価された。

福井高専 プログラミング研究会

プログラミング研究会は、学校にいる際に天井からコンクリートの一部が落下してきたことをきっかけに、トンネルや橋の点検の際に実施される打音検査を低コストで実現するシステム「D-ON」の開発に乗り出した。

2012年12月2日に山梨県大月市と同県甲州市の間にある笹子(ささご)トンネルで起きた「笹子トンネル天井板落下事故」では、天井板のコンクリート板が落下し、9名が死亡した。国土交通省はトンネルや橋には老朽化のため、5年に1度の検査を義務づけている。

ところが、現在の打音検査は「熟練の検査員による判断が必須」「既存のシステムは大がかりで、高額」「対象物の材質や形状、ハンマーの処理など状況によって環境が違うため、それらすべてに対応ができない」といった課題を抱えている。プログラミング研究会が開発した「D-ON」はエッジAIとクラウドAIを巧みに活用することで、小型軽量で安価に、誰でも簡単に打音検査を可能にする。

本システムはきわめて画期的だ。ハンマーに付けたマイコンで打音データを集め、パソコンにSDカードを挿入。Webアプリで打音データをアップロードし、オリジナルモデルを簡単に学習できる。打音検査をする際は出来上がったオリジナルモデルをダウンロードしてSDカードに入れ、マイコンに戻すだけだ。精度は93.3%を発揮し、熟練の検査員とほぼ同等のレベルを実現した。

プログラミング研究会は本システムを開発にあたり、ヒアリングしていくうちに「人の命を守る大事なアイデアだ」「需要がある」といったコメントをもらったという。メンバーは「どんな物でも必ず劣化はしていきます。私のたちの会社はすべての老朽化から人の命を守ります!」と意気込む。

元・高専生から現役高専生に起業のバトンは受け継がれた

川上登福さん

審査員の株式会社経営共創基盤 共同経営者マネージングディレクターの川上登福さんは、本システムについて「作ったものは必ずどこかで壊れます。インフラはどんどんメンテナンスの世界に入っていきます。そんななか、打音はいろんなところで実施されていますが、それをシンプルな構造にして、小さなデバイスにしたのは素晴らしいなと思っています」「いろんな企業の方もぜひこういう発想でアーキテクチャを組んでまねてほしいと思うぐらい、素晴らしいと思います」と絶賛した。

田中邦裕さん

プログラミング研究会のメンターを務めたさくらインターネット株式会社 代表取締役社長の田中邦裕さんは「実は、こういうと怒られるかもしれませんが、ディープラーニングの技術的にすごく深いかと言うと、そういうことはありません。ただ、アイデアが素晴らしい。技術力とかCPUとかGPUを使うと、すごく大きな結果が出ますが、それではなく『アイデアでいかに安く済むか』を徹底して、そのおかげで今のビジネスにつながった。それがすごく素晴らしいところだと思います」と語った。

田中邦裕さんはプログラミング研究会の優勝が発表された際、感激のあまり椅子から落ちたという。実は、田中邦裕さんも舞鶴工業高等専門学校の在学中である18歳にさくらインターネットを起業した経験を持つ。プログラミング研究会のメンバーはヒャダインさんに起業の意思を聞かれ、「名前が起業資金と書いてあるので、しなきゃいけないのかな」と笑みを見せる。高専生出身者から現役の高専生に起業のバトンは受け継がれたと言えるかもしれない。

松尾豊さん「日本に新しいイノベーションの形を作りたい」

松尾豊さん

松尾豊さんは総評として、「半年という非常に短い期間のなかで、本当によくここまでやってくれたなと思います。正直、バリエーションは前回を下回ると思っていましたが、2位のチームでも前回優勝と同じで、非常に素晴らしかったと思います」と語った。

本大会について、松尾豊さんは「昨年のメンターの方に言っていただきましたが、勝つことが最終目的ではなく、大きな事業を作り出していくことが最終目標だと思います。プレ大会では優勝の長岡高専、準優勝の香川高専、昨年では優勝チームの東京高専がそれぞれ会社になっています」と話す。

このような流れを受け、松尾豊さんは自身が理事長を務める日本ディープラーニング協会がDCONに出場した高専生の起業を支援する基金「DCON Start Up 応援 1億円基金」を設立すると発表した。本基金では1年間で5社にそれぞれ200万円、あわせて10年間で1億円を支援する。1社あたり200万円の内訳は会社設立の資本金および設立費用、普通株にそれぞれ100万円ずつあてる。

松尾豊さんは「DCON発で、日本のなかに新しいイノベーションの形を作っていきたいと思っています。今回、入賞したチーム、過去に入賞したチームを含めて、成功例がどんどん出てきてほしい。入賞できなかったチームからも、実際の事業では『俺たちのほうが上なんだ』ということを見せてもらえればと思っています」と今後の展望を語った。


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