【マスターズ制覇 松山英樹「現在・過去・未来」】#4

 日本中が感動した松山英樹(29)のマスターズ優勝。日本ゴルフ界の悲願成就に涙した人は少なくない。

 1997年、T・ウッズの初優勝から、マスターズは12回取材したゴルフライターの吉川英三郎氏もその一人だ。

「まさか生きているうちに、日本人がグリーンジャケットを着る日がくるとは……。マスターズに招待された日本人選手が厚い壁に阻まれ、オーガスタを去っていく姿を何度も見てきました。その壁がついに破られた。松山選手にはありがとうと言いたい」

 その吉川氏が「気になった」というのが、夕暮れに行われた表彰式(グリーンジャケット・セレモニー)だった。

 オーガスタ・ナショナルGCのフレッド・リドリー会長の挨拶後、松山は前年覇者のダスティン・ジョンソンからマスターズ優勝者だけに贈られるグリーンジャケットを着せてもらい笑顔がはじけて万歳。その後リドリー会長からマイクの前へ促され優勝スピーチが始まった。

「えー、この素晴らしいオーガスタ・ナショナルで、ここに立てることがすごくうれしく思っています。そして多くのファンの皆さまありがとうございました」

 松山の言葉をマネジャー兼通訳のボブ・ターナー氏が英語に訳した直後、松山は大きな声で「センキュー!」と言った。通訳のターナー氏はこれでセレモニーを締めたらまずいと思ったのだろう。松山の耳もとで「メンバーへの挨拶も」と囁いた。松山は「えーと、あと、オーガスタ・ナショナルのメンバーの皆さんありがとうございました」と言って、その言葉をターナー氏が訳し、再び「センキュー!」と言ってスピーチは終わった。

■感謝の言葉だけでも

 前出の吉川氏が言う。

「最初から最後まで英語でスピーチをすることはありません。でも、松山選手は2013年から米ツアーを主戦場にし、すでに5勝を挙げている。誰しもが認める立派なツアーメンバーです。コロナ禍でパトロンの入場者数は制限されていましたが、例年以上に大会を開催するための苦労は多かったでしょうし、それは松山選手も知っているはず。せめてオーガスタ・ナショナルGCのメンバーとボランティアには、自分から英語で感謝の言葉を述べて欲しかった。通訳が事前にペーパーに書いて渡してもよかったと思う」

 国内で実績を上げたサッカー選手が欧州のクラブに移籍すると、長い、短いの違いはあっても、みんな入団会見は現地の言葉で挨拶する。日本人メジャーリーガーの多くも入団会見ではメモを片手に英語をしゃべる。

 国内女子ツアーでプレーする韓国選手も、短期間で日本語を覚え、できるだけ日本語でインタビューに応じる。

 それはファンや、ともに戦う選手たちにいち早く受け入れてもらおうという思いもあるだろうが、何より郷に入れば郷に従え。現地を主戦場にする以上、可能な限り現地の言葉を使うのが道理であり、ファンに対する最低限のマナーでもあるからだ。

「優勝スピーチが日本語だからといって、松山選手の偉業がかすむわけではないが、ちょっと残念でした」(吉川氏)

 画竜点睛を欠くとまではいわないが、最後の最後でつまずいたということか。


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