アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社 プリンシパル 濱田悠氏による「カーボンニュートラルを見据えた自動車業界のチャレンジ」を自工会が開催

 自工会(日本自動車工業会)は3月8日、アーサー・ディ・リトル・ジャパン プリンシパルの濱田悠氏を講師に迎えたカーボンニュートラルに関する勉強会「カーボンニュートラルを見据えた自動車業界のチャレンジ」をオンライン開催した。

 濱田氏は自動車業界を中心に、競争戦略やR&D戦略立案などを手がけ、経済産業省における自動車/モビリティ産業政策企画の経験を有する人物。今回の勉強会では「カーボンニュートラルを取り巻くマクロ環境」「電動化に向けた課題」「取り組みの方向性」の3章に分け、日本の自動車業界がカーボンニュートラルに向けて取り組むべき方向性などを語った。

勉強会では3つのテーマ別に解説を実施

取り組みの方向性

車両の電動化を進める一方で燃料の革新にも取り組み、“適地適車”での対応が非常に重要だと濱田氏

 最後はカーボンニュートラルに向けて日本の自動車業界が取り組むべき方向性について。ここまでに解説されてきたように、その地域における最適なパワートレーンは、使われ方やエネルギー環境などの要素を十分に考慮して変化することから、本質的に該当マーケットにふさわしいクルマは“適地適車”での対応が非常に重要だと説明。自動車業界でカーボンニュートラルが話題になると電動化ばかり議論となるが、燃料におけるカーボンニュートラル化も重要だと述べ、日本にとってもこれまで培ってきた内燃機関、燃料開発といった技術を結集することで、各地域で最も適切なソリューションを提供する取り組みを続けることが基本になるとした。

 カーボンニュートラルな燃料では、まずFCVで利用される水素について紹介。水素は地産地消型でエネルギーを創出しやすいことがメリットであり、資源国ではない日本にとって意義のあるエネルギー源になり得るとしたほか、グローバルで再生可能エネルギー化を進めるにあたり、どうしても出てしまう余剰エネルギーの受け皿として注目が集まっているという。このため、自動車業界だけでなくエネルギー業界も含めて水素への取り組みが活発化している。

水素は地産地消型のエネルギーとして自動車業界だけでなく注目されている

 日本はトヨタが2014年12月にFCV「ミライ」を発売するなど先行しているが、一方で「ガラパゴス化しているのではないか」との懸念が出ることもあるという。しかし、2015年~2050年という長期的なロードマップにおいて、輸送領域で水素需要が大きな位置を占めると示されている。米国の政府機関の公開する水素ロードマップでも、同じく2050年の水素需要で輸送領域が最大の割合を占めると位置付けている。

 EVのイメージが強い中国においても、環境対応をクリアする新たな一手として燃料電池や水素エネルギーに着目し、より広い視野でのカーボンニュートラルの取り組みを始めているという。

欧州の水素ロードマップ
出所:FCH JU(燃料電池水素共同実施機構)hydrogen roadmap(2019年1月発行)

米国の水素ロードマップ
出所:ROAD MAP TO A US HYDROGEN ECONOMY(FCHEA)より

中国でも2036年~2050年にFCV500万台を目指している
出所:INTEGRAL Report「2019年中国の水素燃料電池の動向」(2019/8/15)をもとにADL作成

 FCVは航続距離や出力の観点から、トラックでの商業利用が拡大していくと見られており、各国で自動車メーカーが開発を推進中。商用車に注力しているダイムラーでもFCVのトラックを普及させるため、車両開発と並行してロイヤル・ダッチ・シェルといったエネルギー会社とも連携。インフラとセットでの社会実装に向け取り組んでいることを紹介した。

トラックでの商用利用に向けた取り組みも多数進行中
出所:三菱ふそうトラック・バスHP(2020)、Daimler「FCCC Debuts Production MT50e All Electric Chassis(2020/2)」、elecftrek「Tesla Semi electric truck to have up to 621 miles of range, says Elon Musk(2020/10)」、Cnet Japan「電動トラック「Tesla Semi」の予約台数を追加、3倍増の130台へ。ウォルマート・カナダ(2020/10)」、日本経済新聞「トヨタとコンビニ3社、配送に燃料電池車実証実験、利便性を検証(2020/12)」、トヨタHP「セブン イレブン・ジャパンとトヨタ、CO2大幅排出削減を目指した次世代型コンビニ店舗の共同プロジェクトを2019年秋より開始(2018)」、Volvo truck HP(2020)「Daimler Trucks presents technology strategy for electrification world premiere of Mercedes Benz fuel cell concept truck(2020)」、トヨタ自動車プレスリリース(2017/4/19)、Forbes「EVトラックの「ニコラ」が上場へ、燃料電池車の製造を加速(2020/3)、NikolaHP(2020/12)「Nikola One, Zeo Emission Truck 燃料電池搭載の電動トラック(2016/9)」、China5e「氢燃料电池开启重卡时代(2020/6)」等より作成

欧州でFCVを推進するための「H2アクセラレート」が2020年12月に結成された
出所:日本経済新聞「ダイムラーやシェル、水素トラック普及へ団体結成(2020/12)」及び公開情報を基に作成

 このほか、カーボンニュートラル燃料として合成燃料の「e-fuel」についても紹介。e-fuelは再生可能エネルギーで発電された電気で水を電気分解。取り出した「Green H2」と呼ばれる水素と工場や発電所で回収されたCO2を組み合わせ、燃料に変換する新しい技術となる。

 この技術ではe-fuelを既存の燃料と同様に扱えるため、既存インフラであるパイプラインやタンク、ガソリンスタンドなどをそのまま利用できるメリットもある。この取り組みはすでにアウディも開発に着手しており、燃料の革新として期待されている。

 クルマ以外の運輸領域でもCO2削減を目指した活動を行なっており、クルマと同様に電動化が拡大していくと予想されているが、それに合わせて合成燃料、バイオ燃料、水素などの利用が拡大していくと見られており、状況に応じて自動車業界も他分野の輸送業界と連携して「電気+α」の可能性を模索していく意義があるだろうと語った。

「e-fuel」は再生可能エネルギーの余剰分の受け皿となるほか、工場などで排出されたCO2を活用し、既存インフラで運用できるなど多彩なメリットを持つ
出所:日系クロステック 2020年7月3日「トヨタ・日産・ホンダが本腰、炭素中立エンジンに新燃料e-fuel」より作成

アウディが開発を行なっている「e-diesel」のプロジェクトイメージ
出所:Audi HP、MotorFan記事

他分野の輸送業界と連携して新しい可能性を模索する意義についても語られた
出所:経済産業省「自動車新時代戦略会議(第1回)資料」(2018/04)、「Energy Technology Perspective 2020」IEA(2020/09)

 カーボンニュートラルに向けた取り組みは業界を問わず求められる重要な要素となっており、ここにしっかりと向き合うことが社会貢献そのものになるとしつつ、カーボンニュートラルで注目されている電動化はEVとイコールではなく、LCAの視点から本質的に環境を考えるならHEVやカーボンニュートラル燃料といったソリューションを合わせて提案・提供できる体制を整えておくことが極めて重要だとの見解を示した。

 それは地域ごとにエネルギー環境やクルマの利用形態がそれぞれ異なり、そこに寄り添う姿勢が今後さらに求められていくことでもあると指摘。この点は日本の自動車産業がこれまで得意としてきた強みそのもので、産業の競争力維持・強化につながっていくだろうとした。

勉強会のまとめ

 終盤には勉強会の参加者との質疑応答も実施。「政府目標である2050年のカーボンニュートラルを実現するにあたってどの技術に注力していくべきか?」という質問に対して濱田氏は「シングルソリューションが解にはならないと考えています。同じカーボンニュートラルという課題に対しても、国や地域ごとにエネルギーのミックスが異なるのでアプローチが違ってくるのかと思います。また、それぞれの国で持っている産業基盤や強みなども考慮してアプローチを図る必要があります。中国が一気にBEV化を目指したのもコンベンショナルな技術がなかったからですが、言い替えればコンベンショナルな領域が強い国は、むしろカーボンニュートラル燃料をしっかりと進めていくべきという人もいます。政策的な観点も含め、(カーボンニュートラル燃料は)エネルギー業界側で非常に不確実性が高い領域でもありますので、当面は『ここに張るのが勝ちにつながる』といったスタンスはむしろ取らず、日本としてはこれまで比較的広く技術基盤を蓄積してきているところが強みそのものだと思います。『全方位』という言い方をするとネガティブに捉えられてしまうこともありますが、持っているものをうまく活用しながら適切にプライオリティを付け、地域ごとにソリューションとして組み上げて提供していくことを当面は続けていくことになるかと思います」と述べた。

 続いて「日本独自の規格である軽自動車が広く普及しているが、この市場環境における電動化はどのような課題があると考えているか?」との質問に濱田氏は「ここはよく議論になる部分です。軽自動車は地方都市を含めて廉価な移動の足として重要なモビリティに位置付けられています。少なくとも現状のバッテリーコストでは(軽自動車の)EV化は、社会的意義の観点からもふさわしくないとの見方をせざるを得ないと思っています。そこだけを取り上げて軽自動車について議論するのではなく、日本全体としてのカーボンニュートラルに向けてどんなパワートレーンミックス、どんな車両ミックスにしていくのかという視点で、移動の足を確保するという点も含めて議論が行なわれる必要があると認識しています」と回答。

 最後に「EVの普及が必ずしもベストではない理由として日本では火力発電の割合が大きいことを挙げたが、今後電力構成を変えていく必要があるのか?」という問いかけに対して濱田氏は「ここは自動車業界が単独で取り組むような点ではなく、政府、行政、エネルギー業界と連携して議論を深めていく必要があると思います。日本ではなかなか再生可能エネルギー化が進みにくい環境にありつつも、少しずつ電動化、再生可能エネルギー化を進めていくことが大きなコンセンサスとして存在すると思っていますので、このボトルネックを解消しながらどれだけ割合を高めていけるのかがクルマの電動化と連動して非常に大事な観点になってきます。また、原子力についてはこれからもさまざまな議論が続いていく部分で、そこがどうなっていくかもミックス全体として不確実性の高いところだと考えています」と答え、今回の説明会は締めくられた。


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