トランプ政権下で「米国は孤立主義に向かう」と見られていたが、最近の調査では一般市民、外交エリートともに「外向き」志向が強いという結果も出ている。筆者は「バイデン政権が国際主義的な対外政策路線を追求する余地は思われている以上に広い」と指摘する。

2016年の大統領選でトランプが当選したとき、アメリカは孤立主義に向かう、国際主義が後退する構造的な変化が起きているとする見方が一気に広がった。トランプの公約は、それまでの国際主義路線を否定するものであったので、そうした懸念や危機感が広がったのも無理はない。トランプ当選はアメリカの内向き傾向を反映しているとも言われた。とりわけトランプの国際貿易や同盟に対する否定的な言動や批判は、アメリカ主導の国際秩序を下支えする基本的な国際制度を揺るがしかねないとして、他の諸外国が強く憂慮するところとなった。

今般の大統領選挙では、ジョー・バイデンの勝利がほぼ確定したが、アメリカの分断をこれまで以上に印象づける選挙となった。この分断が今後のアメリカの国際主義やバイデン政権の外交にどのような影を落とすのかが注目されている。そこで本稿は、最近発表された意見調査の結果を見ながらアメリカの一般市民の対外観の傾向をいくつか指摘し、バイデン政権の全般的な対外姿勢を予備的に展望して、日米関係へのインプリケーションについて述べて結びたい。

市民、専門家ともに志向は「外向き」

アメリカの一般市民は、アメリカが世界への関わりを後退させるべきだと考えているわけではない。シカゴ世界問題評議会(CCGA)が2020年9月に公表した意見調査(※1)の結果によれば(調査は同年7月に実施)、アメリカが国際問題に積極的に関与すべきとの意見は64%(17年)から68%(20年)に増加。関与を控えるべきとの意見は35%から30%に減った。(※2)

同盟についても、50%以上の回答者がアメリカと同盟国の双方に恩恵をもたらしているとしており、恩恵を受けているのはもっぱら同盟国だとするただ乗り論の割合は、東アジアについては、前回17年調査の21%から今回は17%に減少し、欧州についても26%から21%に減少している。(※3)さらに国際貿易がアメリカ経済にとって好ましいとする意見は59%(16年調査)から74%に増え、消費者にとって好ましいとする意見も70%から82%に増加。アメリカの雇用創出にとって好ましいとする意見すら40%から59%にまで増えている。(※4)トランプは、同盟と貿易はアメリカにとって好ましいものではないとする前提に立った言動をとってきたが、同盟や貿易を好ましいと考えるアメリカ人が増えている事実をデータは示している。

類似の結果は、ユーラシアグループ財団(EGF)が20年9月に発表した意見調査結果でも確認できる(調査は8月実施)。(※5)アメリカは気候変動、人権、移民などをはじめとする諸問題について諸外国と交渉し、国際機関、貿易、条約への参加を「増やすべき」とする意見は55.6%に上ったが、「減らすべき」との意見は22.8%であった。(※6)

CCGAはテキサス大学オースチン校とともに本年8月から9月にかけて、外交エスタブリッシュメント(約3分の1は政府職員経験者)に対する意見調査を行っており、その結果によれば、アメリカが対外関与を強化すべきとの意見は97%、国際貿易はアメリカ経済にとって好ましいとする意見は99%、NATO(北大西洋条約機構)に対するアメリカの防衛義務を減じるべきとの意見は9%だった。(※7)

要するに、トランプ政権期にアメリカは内向きになっているとの見方が蔓延していたが、データはそのような見方を否定している。外交・国防エスタブリッシュメントの対外観と一般市民のそれとの間にギャップはあるが、それは広がるというよりも狭まる傾向が見て取れる。

軍事力と外交

アメリカが外向きであるということ以上に重要なのは、どのような形で諸外国に関与しようとしているのかということであろう。この点、EGFのサーベイは、以下のような興味深い類型を設けて、意見の分布をプロットしている。

出典:Mark Hannah and Caroline Gray, “Diplomacy & Restraint: the Worldview of American Voters,” Eurasia Group Foundation, September 2020, p.10.

上記のデータをみると、約7割が外交や国際制度、貿易を支持しているものの、アメリカが軍事力の面で卓越的地位を保つべきとする意見は約3割で、約4割はそうした卓越した地位の保全にこだわらないと考えていることが分かる。また国防費については、トランプ支持者の56.7%は現行水準を維持すべき、29.9%は増額すべきとしているのに対して、バイデン支持者の47.8%は減額すべき、39.3%が現行水準を維持すべきとしている。(※8)

日本やアジア諸国としては、今後アメリカが中国とどう向き合い、アジアにおける米軍兵力についてアメリカ人がどう考えているかが気になる。EGFのサーベイによれば、近年中国が相対的なパワーを増し、国際的な影響力を増やす中、韓国や日本の米軍基地に兵力を追加配備すべきとする意見は、2019年の42.4%から20年は50%に増加した。しかし、これはトランプ支持者とバイデン支持者とでは考えが異なり、トランプ支持者の62.3%が米軍兵力を日韓に追加配備すべきとしたのに対し、バイデン支持者の56.2%はアジアでの米軍プレゼンスを削減し、同盟国が防衛努力を強化し地域安全保障の責任を担う方向へと移行していくべきと考えている。(※9)

しかし、バイデン支持者が同盟国の防衛を放棄すべきと考えているわけではない。前述のCCGAのサーベイをみると、アメリカが同盟国の安全を守ることについて、民主党支持者の間では、これまで以上に取り組むべきとする意見が43%、現行水準が適切との意見が42%である。(※10)前述の米軍兵力の削減論と併せてこのデータを読むと、その含意は、アメリカが同盟国の防衛コミットメントを放棄するわけではなく、米軍の前方展開兵力を削減しつつも同盟国による防衛努力を支援するということであろう。(これはいわゆるオフショア・バランシングというアメリカのグランド・ストラテジーに類する発想である(※11)

なお、共和党支持者は、アメリカが同盟国の安全を守ることについて、これまで以上に取り組むべきとの意見が28%、現行水準が適切との意見が53%で(※12)、取り組み強化について民主党支持者の方が前向きであるのは興味深い。ただし、これは外交・国防エスタブリッシュメントではなく、あくまで一般市民の意見だということに注意する必要がある。

バイデン政権での国際的リーダーシップ

前述のCCGAのサーベイは、向こう10年間でアメリカの死活的な利益に対して深刻な脅威をもたらすものとは何かという質問を設けている。これに対する回答は、以下の抜粋の通り、共和党と民主党とでは、かなり異なっている。

出典:Smeltz et al., “Divided We Stand: Democrats and Republicans Diverge on US Foreign Policy,” Chicago Council on Global Affairs, September 17, 2020, p.5より筆者抜粋

重視すべき脅威について、ほとんど重なりがないというのが特徴である。ただし、感染症対策や気候変動は、中国も関係する課題であるので、中国がアメリカの対外政策上の優先課題となり続けるのはほぼ間違いない。対外政策を直接手掛けるワシントンの外交・国防エスタブリッシュメントは、中国を最大の挑戦課題と捉えるであろう。

上記に見た通り、実は一般市民は思われている以上に外向きで、アメリカの軍事プレゼンスを大きく損なうことなく、外交を積極的に繰り広げて国際問題を解決すべきという見方をしている。党派別に優先課題が異なるにせよ、こうした一般的な対外観があるとすれば、バイデン政権が国際主義的な対外政策路線を追求する余地は思われている以上に広いと考えられる。

これまで一般市民とワシントンの政策エリートとの間に大きなギャップがあるのではないかと言われてきたが、それは政策エリート側の思い込みであり、両者が全く対照的な見方をしているわけではないことがCCGAとテキサス大学オースチン校の合同調査によって明らかになっている。(※13)そして政策エリートの間でも、自由主義的民主主義国家の再生と権威主義国家への対抗という観点から、政治・経済・技術・情報という多分野で競争を展開するための超党派の合意が形成されつつある。ジャーマン・マーシャル・ファンドの「民主主義を守るための同盟」プロジェクトの超党派タスクフォースの提言は、そのような可能性を示している。(※14)このタスクフォースにはバイデン政権中枢に入ると取りざたされている専門家たちも入っている。

では、バイデン政権下のアメリカは、国際的リーダーシップをどのように発揮すると考えられるのだろうか。国際的なリーダーシップという場合、問題解決のための連合形成(coalition-building)という要素と、問題解決のためのリソースの提供という要素があると考えることができる。民主党政権は伝統的に多国間協力を是とする傾向が強く、おそらく連合形成の面で、外交を積極的に展開すると見込まれる。

バイデン政権は国際機関や地域的な枠組み、同盟やパートナーシップへの関与を強化し、アジェンダを設定して、諸国家の協力を糾合するとみられる。リーダー国として積極的に振る舞う分野は、やはり大統領や民主党が重視する政治アジェンダであり、前記の表でも示したように、感染症対策や気候変動といった分野では早い段階でイニシアティヴを打ち出してくる可能性がある。世界保健機構(WHO)と気候変動に関するパリ協定への復帰は速やかに行うとしているが、WHOでどのような改革を進めるのか、そして気候変動・環境対策の分野でいかなる新たなイニシアティヴを打ち出すのかが注目される。

リソースの面では、国防・対外援助予算が大幅に増額されるとは考えにくく、1~2年ほど横ばいで推移してから削減に向かう可能性がある。新型肺炎に伴って発生した公衆衛生・経済面での打撃への対応などで、すでに巨額の財政出動をしており、遅かれ早かれその影響が国防予算や対外援助予算などにも及ぶとみられる。したがって、バイデン政権が国際協調をうたうということは、協力相手の国に対してコストやリスクを負うように求めるという含意があることを理解する必要がある。また、世界各地における米軍のプレゼンスの再編が進められるとすれば、おそらく中東やヨーロッパでのプレゼンスが先行して縮小され、東アジアないしインド太平洋地域でのプレゼンスはなるべく縮小しないような方策がとられるかもしれない。

日本は米国の戦略的判断に理解を

日本としては、アメリカと共有するさまざまな政策課題で協力して連合形成を進めていくとともに、バイデン政権の戦略的関心が東アジアに向けられるように努めることが大事であろう。かつてオバマ政権の時に、ウクライナやシリアでのアメリカの対応が抑制的だったため、これを受けて尖閣諸島防衛のコミットメントも弱まるのではないだろうかといった不安の声が聞かれた。

しかし、こうした反応はアメリカが世界中の国際問題に軍事的に対応する事を前提として、それ未満の対応は総崩れを意味するといった極端な理解に立つ反応であり、過剰な期待を前提にして域外のアメリカの行動に一喜一憂する反応はもうやめるべきであろう。リソース制約に直面している現実のアメリカを直視して、バイデン政権が東アジア以外の地域への武力介入を自制し、外交的解決を模索する場合には、そうした現実的な戦略上の判断を支持すべきである。

また、もし仮にアジアに前方展開する米軍兵力を削減する動きが出てきたとしても、同盟国の防衛コミットメントの放棄だと騒ぎ立てるべきではない。新たな戦略環境とリソース制約に直面するアメリカが戦力態勢を調整するのは当然の事であり、むしろその過程と連動して日本をはじめとする同盟国の能力強化や役割拡大に前向きな姿勢を示すかどうかに注目すべきだ。日本としても受け身でいるのではなく、積極的な能力強化と役割拡大のイニシアティヴをとっていくべきである。

軍事面でアメリカが「世界の警察官」という役割から身を引こうとしているのならば、「アジアの警察官」としての役割を果たそうとするアメリカを支持・支援するとともに、外交面での連携を最大限に強化して日本がルールに基づいた地域秩序の形成を主導して、ともに地域の平和と安定を積極的に支えるべきである。バイデン政権下の日米間の課題は、防衛協力面で地域の安定を担保する抑止力について両国間ないし日米豪の三国間で相対的な役割・任務・能力の配分に関する調整を進めつつ、外交面で経済、技術、情報通信、開発援助といった諸分野で日米、日米豪、日米豪印、そして地域諸国との多層的な国際連携を緊密にしていくプロセスをいかに着実にスピード感をもって進展させられるかということになろう。

バナー写真:米デラウェア州ウィルミントンで記者会見するバイデン前副大統領=2020年11月16日(ゲッティ=共同)

(※1) ^ Dina Smeltz, Ivo H. Daalder, Karl Friedhoff, Craig Kafura, and Brendan Helm, “Divided We Stand: Democrats and Republicans Diverge on US Foreign Policy,” Chicago Council on Global Affairs, September 17, 2020, at https://www.thechicagocouncil.org/publication/lcc/divided-we-stand.

(※2) ^ Ibid., p.10.

(※3) ^ Ibid., p.11.

(※4) ^ Ibid., p.13.

(※5) ^ Mark Hannah and Caroline Gray, “Diplomacy & Restraint: the Worldview of American Voters,” Eurasia Group Foundation, September 2020, at https://egfound.org/wp-content/uploads/2020/09/EGF_Diplomacy_And_Restraint_The_Worldview_of_American_Voters_September2020.pdf.

(※6) ^ Ibid., p.8.

(※7) ^ Jonathan Monten, Joshua Busby, Joshua D. Kertzer, Dina Smeltz, and Jordan Tama, “Americans Want to Engage the World,” Foreign Affairs Online, November 3, 2020, at https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2020-11-03/americans-want-engage-world.

(※8) ^ Hannah and Gray,“Diplomacy & Restraint: the Worldview of American Voters,” p.16.

(※9) ^ Ibid., p.18.

(※10) ^ Smeltz et al., “Divided We Stand,” p.20.

(※11) ^ アメリカにおける最近のグランド・ストラテジー論をめぐる論争と、オフショア・バラシングの含意と評価については、次の拙稿を参照願いたい。森聡「アメリカのリトレンチメント論争―リベラル・ヘゲモニー戦略と『ブロブ』の功罪 —(前編)(後編)」、SPFアメリカ現状モニター、笹川平和財団、2020年10月6日。

(※12) ^ Smeltz et al., “Divided We Stand,” p.27.

(※13) ^ Monten et al., “Americans Want to Engage the World.”

(※14) ^ A Task Force Report, “Linking Values and Strategy: How Democracies Can Offset Autocratic Advances,” Alliance for Securing Democracy, German Marshall Fund, October 2020, at https://securingdemocracy.gmfus.org/linking-values-and-strategy/.メンバーにはミシェル・フローノイやジェイク・サリヴァン、アヴリル・ヘインズらが加わっている

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