2003年、東京・台場に大江戸温泉物語の温浴施設をオープンし、その後地方の温泉旅館や温浴施設を次々と再生させ、全国40近い施設を経営・運営するまでに成長した大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツ。地方経済への貢献や、日本の温泉文化の発展に寄与し続けてきた同社にも、新型コロナウイルス感染症の拡大は試練を与えました。

「政府の緊急事態宣言の発令に伴い、政府・都道府県の要請に基づく形で当社が運営するすべての施設を一時的にクローズしました。」

そう語るのは同社の全社改革担当として、今回の未曽有の事態に立ち向かい、対応方針の陣頭指揮をとった中塚亘氏です。今回、同氏にプロジェクトを推進していく中での苦心や打開に向けた打ち手づくりのストーリーについて語ってもらいました。

大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツ 全社改革担当 中塚 亘

社内外に跨る横断的な事象をとらえ、課題の洗い出しから解決までを行う全社トランスフォーメーションプロジェクトマネジメントオフィスのヘッドとして参画。以前は複数の外資系戦略コンサルティングファームで消費財メーカーやサービス企業をクライアントとして戦略立案から実行まで幅広く支援。海外のホテル・レストランのスタートアップにて最高執行責任者の経験も有す。慶應義塾大学、IEビジネススクール(MBA)卒。

お客様と従業員の安全を第一に考え、一時的に施設をクローズさせたのは言うまでもありませんが、先が読めない未曽有の事態の中で、まずは解くべき問いを設定する必要がありました。それは「Withコロナ時代におけるお客様の価値観や求めるサービス」はどう変わっていくのか。お客様に戻ってきていただいたときに我々スタッフは何を「約束」できるか。さらには「培ってきた温泉文化や地域経済への貢献をどのようにして引き続き強化していくのか」という大きな問いでした。

かくして私のWithコロナ時代の「誰もがほっとひといきつける温泉旅行」づくりのプロジェクトはスタートしました。

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未曽有の事態… 何が正しく、何が有効なのかの模様

まず私が行ったのは国や業界から発令されている新型コロナウイルスと対峙していく上で守るべき「業界ガイドライン」の洗い出し。大江戸温泉物語はお台場の温浴施設だけでなく、全国約40の温泉旅館・ホテル、テーマパーク、そしてそれらの施設では歌謡ショーやお笑いライブなどのイベントや、屋内外のプール、卓球・カラオケ・ボウリング・ダンス会場とその事業領域および提供サービスの範囲は多岐にわたっています。

改めて大江戸温泉物語の事業や提供サービスの広さを痛感しました。あらゆる業界団体や各自治体とかけあい、合計30を超えるガイドラインを対象に、一項目一項目つぶさに読み込んでいきました。

そのうえで、我々としても取り組むべき対策、安心・安全を考えたら他社はやっていないけど我々はコストをかけてでも行うもの、を喧々諤々の議論で詰めていきました。

なぜ「業界ガイドライン」の読み込みからスタートしたかというと、当時、既に厚労省やWHOから新型コロナウイルス感染症対策として有効なものとそうでないもののある程度の科学的見地が出されており、その方針に基づいて発信された「業界ガイドライン」は大江戸温泉物語独自の対策モデルをスピーディに創り上げる上で有効だと判断したのです。

とにかく、先が見えないのが今回の難しいところでした。いつ新型コロナウイルスの拡大が止まるのか、ずっと続くのか。当時は1か月後には元の社会に戻っている、といった論調もありました。しかし我々にできることは、お客様がまた温泉旅行に行きたいと思って動いていただいたときに、最高のおもてなしと安心・安全を提供する準備をすることだけでした。

家族や友達が集う、温泉旅館としての“場”の普遍的な価値は守りたい

大江戸温泉物語独自の感染症対策モデルが急ピッチで創り上げられる中、私はコンペティターの動向、そしてお客様のパーセプションにも目を向けます。

日本よりも状況が悪化していた米国や欧州を中心に展開するグローバルホテルブランドの対策はつぶさに分析しました。そもそもホテルや旅館はどうしても人が集う場所があります。それは当社だけでなく、すべてのグローバルコンペティターも一緒のはず。グローバルブランドと比べれば我々の資本力は小さいですが、大きな投資をせずとも、知恵を使ってどうやってお客様に安心・安全を届けられるかを日々考えていました。

グローバルブランドや国内大手は資本力を背景に、密を避けるための施設の大規模改修や最新鋭の消毒噴霧機器などを相次いで導入し、目先のお客様を失わないように必死に動きました。あまりに未曽有のできごとだったが故、我々を含め多くの事業者はどうしても近視眼的になり、「目先のお客様・利益を失いたくない」という力学が働いてしまっていたのかもしれません。

私たちが提供しているサービスの根幹は“温泉でほっとひと息”や“家族や気の置けない友人で語らう”などの代え難い“場”の提供です。お金を大量にかけて施設や提供サービスの内容を変えるのは簡単ですが、お客様が体験される価値の本質がぶれないよう、知恵を絞って対策を練り上げていきました。

Withコロナ時代でもお客様が求めている根幹の価値は普遍。その強い芯をもって、変えるべきところは変える、継続する部分は安心・安全を優先して知恵を絞る。そのような過程を経ながら、徐々にWithコロナ時代の大江戸温泉物語のオペレーションの輪郭を明らかにしていきました。

例えば、当社の全ての宿泊施設で提供している「まんぞくバイキング」。もともと、有名バイキングレストランの著名な料理人を当社顧問として迎え、時間をかけて作り上げてきたものです。一度来ていただけるとお分かりいただけますが、おそらく見たことないような華やかさ、圧倒感、品質にびっくりされるはずです。

実際、泊まられたお客様の満足度も極めて高く、Withコロナ時代であっても、このバイキングの“場としての価値”を提供し続けたい、と強く思っていました。

リスクがあるといわれるバイキングを止めて、違う食事形態の導入も検討しました。ただ、我々は“どうやったら今のバイキングに安心・安全の付加価値をのせられるか”の追求をし続けました。

Withコロナ時代の新しい集う場の形… 専門家やお客様の度重なるフィードバックの末に

大江戸温泉物語 伊勢志摩       大江戸温泉物語 TAOYA志摩

6月初旬。国内の新規感染者数が減少を続け、徐々に医療体制のひっ迫した状況も和らいできた頃、先に緊急事態宣言が解除された東海地方の大江戸温泉物語の施設(伊勢志摩、TAOYA志摩の二店舗)の営業を再開しました。所謂自粛期間、外出を控え、レジャーや癒しを待ち望んでいたお客様が続々と押し掛ける中、これまでの議論の集大成となる光景が広がっていました。

  • お客様は入場前に検温実施、健康チェックシートへ記入し、滞在中の“万が一”に備える
  • チェックイン列には一定間隔で足跡ステッカーが示され、ソーシャルディスタンスを保っている
  • バイキング会場では全員がマスクとビニール手袋を着けて“安全に”料理やお飲み物をお楽しみいただいている
  • 会場のトング等は高頻度で交換され、ドリンクバーにはシールドを設置し、ドリンクバーのボタン等接触部位は15分置きにスタッフがアルコール消毒を行っている
  • お風呂の入場者数を少なくし、密を防ぐようレイアウトし、スタッフによる声がけが行われている

私たち、大江戸温泉物語の宿泊施設や温浴テーマパークでは、実に200以上の感染症対策の取り組みを行って再スタートしました。特に人が集う“場”であるバイキング会場やお風呂での取り組みは、感染症専門医にアドバイザーとして科学的視点から見ていただき、徹底的に安心・安全に拘ることで、「大江戸温泉物語式あんしんバイキング」として生まれ変わりました。

営業再開後も定期的にお客様からのフィードバックや、アドバイザーからの助言を集め、より安全性と満足の両輪を担保できるようなオペレーションに日々昇華させています。また、同じように厳しい感染症対策の視点を踏まえた上で、お客様にお楽しみいただく上で欠かせない「大衆演劇」や「直行バス」も一部施設を対象に“安心・安全バージョン”として生まれ変わり、再開することができました。

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Withコロナの時代になっても、家族や友達のコミュニケーションは減らないでしょう。むしろ、絆を深める、確かめ合うための“場”の重要性はこれからもっと増していくのではないでしょうか。こういう時代だからこそ、安心・安全に集える“場”の価値はますます意味をもっていくに違いありません。

当社には“温泉と旅の楽しさをもっと気軽に何度でも”という思想があります。Withコロナ時代になり、多くの感染症対策を施していますから、実際のところ追加のコストやオペレーションの負担はあります。しかし、その負担をお客様に求めようとは思いません。つまり販売価格はこれまでと一緒で、こういう時代だからこそ“安心・安全に集える場”を提供し続けるのが地域活性化にもつながりますし、社会的使命だと考えています。

いまのところ、施設における感染症対策に対する満足度は極めて高く、安心してご利用いただけています。パーセプションとして安心なだけでなく、当社は科学的にも安全が担保されるよう、専門家のアドバイスによって消毒頻度や取り組み内容の高度化をしているので、目に見えない意識下で安心・安全をしっかりお伝えできているのだと思います。

Withコロナを契機に生まれる新コンセプト ~お客様と一緒に創る未来の温泉旅館~

Beforeコロナの時と比べ、お客様にも変化が見られています。“安心・安全”は「サービサー(事業者)が提供するもの」という一方通行の関係から、「サービサーとお客様で一緒に創り上げるもの」という変化です。具体的にはお客様のマスク着用やソーシャルディスタンスを守る取り組みへの協力度の高さです。

暗い話がどうしても多くなってしまいがちですし、いつまでこのWithコロナが続くのかわかりませんが、これを契機に新たに生まれるエコシステムやコンセプトもありうる、ということではないでしょうか。

大江戸温泉物語ではお客様と一緒に、“気の置けない仲間や家族と集う場”という普遍的で誰にとってもかけがえのない温泉旅館・温泉テーマパークとしての価値を創出し続けていきたいと思います。

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