古都、ジョクジャカルタへの旅といえば、ボロブドゥール寺院遺跡群など2つの世界遺産は欠かせない。しかし、寺院もクラトン(王宮)もマリオボロ通りもなく、澄んだ空気の中で自然を満喫するのも悪くない。新型コロナウイルスの影響で鉄道の旅はまだ不自由だが、閉塞感に疲れた今だからこそ、マイナスイオンのシャワーを浴びるあんな旅をまたしたいと思う。 

 ちょうど1年ほど前、ジャカルタでぽっかり5日間ほど自由時間ができた。そこでふらっとジョクジャへ。前夜に切符をネット予約し、ガンビル駅から早朝の列車に飛び乗った。ジャカルタ~ジョクジャ間は約8時間。車内販売の弁当を食べたり、田園風景を見たり。インドネシアで列車の旅は初めてでもあり、飽きることはなかった。

 車中の最重要ミッションはホテルの予約だ。旅の趣旨に合わせ、ジョクジャ南郊の小さな森の中にある民宿に決めた。到着してみると、いわゆる古民家でエアコンもない。しかし、夜半になると気温は20度近くまで下がり、夜風がなんとも気持ちいい。人工的な音はなにもなく、虫の音を聞きながら深い眠りに落ちた。

 翌日は朝食を断り、日の出を見ようと夜明け前に宿を出発。朝もやの中を走っていると、やがて田園風景が見えてきた。学校に向かう小学生たち。畑仕事に精を出す農民。田んぼに流れ込む水の音。そんな牧歌的な風景の中で朝陽を浴びていると、凝固した細胞がひとつひとつ溶け出すようで、実に心地いい。

 さあ、体が温まったら、朝食の算段だ。地図を見るとイモギリ地区の伝統市場が近くにあった。ここで朝食を摂りながら、次の目的地は「ウータン・ピヌス(Hutan Pinus)」と決めた。森の中に巨大オブジェが立ち並ぶ公園で、内外の観光客がフォトジェニックな風景を楽しんでいた。

 ここで旅の中間報告をSNSですると、それに気づいたバリ渡航中の日本人音大生が合流したいという。宿に戻ってスタッフに相談すると、よさげな店を紹介してくれた。オーナーはドイツ人。「ジョクジャに来たその日から気に入った」と居着いてしまったそうだ。レストランは高台にある古民家を改装。田畑を吹き抜けてくる風に体を委ねながらのランチは、彼女も大満足だったようだ。

 中部ジャワの料理は「甘ったるくて…」という声をよく耳にするが、この旅行に限っていえば大当たり。ジョクジャの市街地では、「Milas」というベジタリアン料理専門店に行ったが、料理も雰囲気も特筆すべきレベルにあった。

 ボロブドゥールもプランバナンも見逃す手はないが、目的を定めずふらっと立ち寄っても楽しめるジョクジャ。次回は「美人の宝庫」と聞くウォノギリを抜け、インド洋まで走ってみよう。(長谷川周人、写真も)


クレジットソースリンク