ロビン・レヴィンソン=キング、BBCニュース(カナダ・トロン

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ピース・アーチ(平和のアーチ)は英米戦争を終結させたガン条約を記念して、1921年にカナダとアメリカの国境線上に建てられた

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)がアメリカで拡大し続ける中、アメリカとカナダの国境で緊張が高まっている。国境を越えて来るアメリ人が、何をもちこんでくるのか、カナダ人の懸念が高まっているのだ。

アメリカ・ワシントン州ブレインとカナダ・ブリティッシュコロンビア州サリーに接する国境に建つ、高さ約20メートルのピース・アーチ(平和のアーチ)は、両国の緊密な関係の証だ。

アーチの片側には、「この門が決して閉ざされることがないように」と刻まれている。米英戦争終結後、アメリカとカナダを隔てる全長8891キロ近い国境は非武装化されている。

100年近くもの間、この言葉は守られてきた。新型ウイルスのパンデミックの影響で事実上、無期限に国境が閉鎖されるまでは。

両国の合意のもと、3月21日に国境は閉鎖された。夏の間に何度か期間が延長され、9月21日まで閉鎖されることになっている。

「8月半ばにもなって、まだ国境が閉鎖されたままなんて、思ってもみませんでした」と、ブレイン在住で二重国籍のレン・ソーンダースさんは言う。

「延々と長引いて、終わりが見えないような気がします」

国境閉鎖は、国境沿いで暮らしていたり、国境の反対側に愛する人がいる数百万人に経済的な、そして個人的な影響を与えている。その一方で、カナダ人の大部分は閉鎖の継続を望んでいる。

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アメリカとカナダの国境は3月22日から閉鎖されている。写真は、国境閉鎖を知らせる電光掲示板と米税関職員

パンデミックがアメリカ全土に拡大し続けていることで、アメリカ人ドライバーとカナダ人住民の間の緊張も高まっている。

必要不可欠ではない移動は禁止されているものの、商品を配達する商用ドライバーや、不可欠な仕事のために越境する必要がある人は通過が認められている。

カナダへ入国する正当な権利があるにも関わらず、アメリカのナンバープレートが付いた車で移動した人が嫌がらせを受けたり、車を破壊されたなどといった報告が上がっている。

ソーンダースさんは移民問題専門の弁護士で、多数のクライアントが仕事のために定期的に越境している。その多くが、現状を怖がっているという。

「みんな、ロウアーメインランド(ブリティッシュ・コロンビア州南西部)を車で移動するのを怖がっています。破壊行為に遭ったり、嫌な顔をされたり、『恐ろしいアメリカ人』として扱われたりしないかと」。ソーンダースさんはBBCにこう話す。

クライアントの1人の建築家は、国境閉鎖中にカナダで働くことを認められたが、車を見た人から「国へ帰れ」と言われたのだという。

ブリティッシュ・コロンビア州のジョン・ホーガン首相が州外のナンバープレートが付いた車を持つカナダ人に対し、バスか自転車に乗るべきだと提案したほど、緊張が高まっている。

多くの人が避暑用の別荘を持つオンタリオ州ムスコカ地域では、こうした敵意に警察の注意が集っている。

オンタリオ州警察によると、ハンツヴィル在住のカナダ人男性が、車の米フロリダ州のナンバープレートをめぐり、男性2人が挑発してきたと訴えたという。

「直近では、この週末にハンツヴィルへ向かう男性が車に給油していたところ、近づいてきた男性2人に『おまえはアメリカ人なんだから、ゴーホーム(帰れ)』と言われる出来事がありました。給油していた男性が『私はカナダ人でここに住んでいる』と答えましたが、2人組は文字通り、パスポートを見せなければ信じないと言ったようです」と、ハンツヴィル近郊ムスコカ・レイクスのフィル・ハーディング市長は地元メディアCP24に述べた。

「いささか攻撃的になっていて、住民は命の危険を感じています」

ルール違反で捕まった場合、深刻な結末を迎える可能性がある。

ブリティッシュ・コロンビア州グランド・フォークスでは、7月24日に盗まれた車で違法に川を渡ったとして、王立カナダ騎馬警察(RCMP)が男を2時間以上追跡した。「川くだり追跡」は川幅が狭くなっている場所で終了した。警察は居合わせた人たちの力を借りて川に入り、男を岸まで連れ戻した。

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カナダ国境を越えた男は、裸で川をくだって警察から逃れた

国境制限に違反した場合、最大75万カナダドル(約6020万円)の罰金と6カ月の禁錮刑が科される可能性がある。「差し迫った死や身体的危害を及ぼす恐れがあった」場合には100万カナダドル(約8020万円)の罰金と3年の禁錮刑が科されることもある。

こうした高額な罰金が科されるのは、故意に違反した人に限らない。

カナダ警察は12日、オンタリオ州と米ミシガン州の間を流れるセント・クレア川で毎年行われる川くだりに参加するアメリカ人に対し、誤ってカナダ側へ横断した場合にも高額な罰金を科す可能性があると警告した。今よりも緊張感のなかった2016年当時は、風でコースを外れた参加者約1500人を、カナダ警察が和気あいあいとアメリカ側へ送り届けていた。

それでも、国境閉鎖が両国の小さな町に与える影響は、決してささいなことではない。

新型ウイルスの感染拡大以前は、毎日約30万人が越境していた。その中には、アメリカのアウトレット・モールやガソリンスタンドで取り引きするために日帰りで移動するカナダ人や、ナイアガラの滝を散策するアメリカ人観光客も含まれていた。

カナダ入国管理局(CBSA)によると、今年3月以降、非商用目的で陸上国境を越えてカナダへ入国する人の数は、95%近く減少している。

「カナダのあらゆることに、大打撃を与えるはずです」と、ソーンダースさんは言う。

しかし、旅行者に対する国境閉鎖が経済に与える影響は、新型ウイルスが再び拡大して2度目のロックダウン(都市封鎖)を余儀なくされた場合と比べれば大したことないと、トロント大学のアンバリシュ・チャンドラ経済学教授は指摘する。

「旅行業は、旅行者が訪れる地域社会に多大な経済的影響を及ぼします」と、チャンドラ氏は言う。

「ですが、アメリカでのパンデミックの状況を踏まえると、アメリカへの渡航を制限するのは理にかなっています。無期限で閉鎖が続くかもしれません」

チャンドラ教授は、カナダ政府は経済が外国人観光客に大きく依存している国境の町に支援を提供すべきだとしつつ、パンデミックが収束するまでは閉鎖を維持すべきだと話す。

「長い目で見れば、オンタリオ州、ナイアガラ滝の全てを救済するほうが、3~4週間ごとにトロントを封鎖するよりもずっと損害は小さい」

カナダはほぼ全ての事業を数カ月間閉鎖した。その後、国内の感染者数は減少しつつあり、現在は経済活動再開の真っ只中にある。1日の新規感染者数はピーク時の5月3日の2760人から数百人にまで減少している。

ほとんどの主要都市では、レストランや店舗が少なくとも数週間は営業を続けている。

こうした中、アメリカは感染者数を押さえ込もうとしている。ピーク時の7月17日には7万5821人の感染が確認された。

こうした感染者数が原因で、アメリカ人渡航者に対する多くのカナダ人の不安は募る一方だ。

「私たちの真南に位置するモンタナ州では現在、感染が再び拡大しています。国境で制止される人に同情はしないとでも言いましょうか」と、アルバータ州クーツ市のジム・ウィレット市長は言う。

「国境開放を急ぎすぎれば、国境の南(アメリカ)で起きているような問題が起きるのではと、心配です」

クーツは、アメリカ住民がアラスカ州へ移動する際にカナダへ入国できる5つの国境の町の1つだ。このいわゆる「アラスカの抜け穴」をめぐっては、7月末にCBSAが取り締まりを行った。

アラスカ州はほかの米州と州境を接しないことから、陸路で同州へ向かう際、アメリカ人はカナダを通過できる。つまり、「抜け穴」だ。

国境が閉鎖された後、多くのカナダ人がアメリカ人ドライバーがこの「抜け穴」を悪用して、ヴァンクーヴァー島やバンフ、ジャスパー、レイク・ルイーズといったカナダで最も風光明媚な場所を散策しているのではと、懸念を示している。

RCMPは今年6月、アルバータ州で観光していたとして、アメリカ人それぞれに1200カナダドル(約9万6000円)の罰金を科した。

「何もせず、まっすぐアラスカ州へ行ってください」とブリティッシュ・コロンビア州のホーガン首相は述べた。

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アルバータ州バンフ国立公園。国境が閉鎖されているにも関わらず、バンフ国立公園などの景勝地でアメリカ人観光客が目撃されている

こうした抜け穴や、ルールが徹底されていないことをめぐる不満が、取り締まりにつながった。

国境当局は7月末、アラスカ州への渡航者について入国地点を限定するほか、目的地まで最短ルートで移動し、アラスカ州へ向かっていることを示すタグを車につけなければならないと発表した。

また、移動中のカナダでの滞在は「妥当な滞在期間」に制限され、国立公園やレジャー施設、そのほかの観光地を訪れることも禁止されている。違反者には厳しい罰則が科せられる。

より厳格なルールが制定されて以降、越境する車両を「それほど心配しなくなった」と、アルバータ州クーツ市のウィレット市長は言う。

「昼夜問わず、かなり多くの人がやってきますが、ほとんどの人は非常に協力的です」

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