新型コロナウイルス感染症の拡大により大きな影響を受けている旅行産業。コロナ禍の中でのキャリアチェンジに躊躇はなかったのか。

LINE株式会社、楽天株式会社、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社といった名だたる大企業の技術部門長と執行役員を歴任し、2020年5月にオンライン旅行サイト「ベルトラ」の最高技術責任者(CTO: Chief Technology Officer)に就任した坂水健一郎氏に話を聞いた。

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― これまでの経歴を教えて下さい。

マイクロソフトやLINE、楽天など、米国と日本で25年以上ソフトウェア開発に携わっています。前職のウォルト・ディズニー・ジャパンでは、Technology Head として定額制動画配信サービスの立ち上げやアプリの開発などを統括してきました。

― 入社して2ヶ月ほど立ちましたが、ベルトラという会社や社員の印象は。

3月よりベルトラはテレワーク(自宅勤務)を徹底しているため、実は入社後からつい先日まで一度もオフィスに出勤したことがありませんでした。そのためチームメンバーとも画面越しのみでコミュニケーションを行っていますが、全く問題ありません。皆さん旅行が好きで非常に真面目という印象を持ちました。

― 入社後すぐにVELTRA Kite(ベルトラ カイト)の企画を立ち上げました。

最初は、コロナ禍で現地パートナーさんに対して何が貢献できることはないか、という思いから始まりました。世界中のリアルな「今」の情報を求めている旅行者と、旅先のリアルタイムな情報を配信できる現地パートナーを繋ぐ立場にあるベルトラだからこそできるサービスを作りたいと考え、立ち上げたのがカイトです。

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ニュース等では各国の感染者数などの情報ばかりが報道され、地域ごとの実態をキュレーションした情報がありませんでした。地域毎の情報を伝えることで、近い将来にお客様が旅行を計画する決断にも役立つと考えました。ウィズコロナ、アフターコロナの時代においても、世界中にネットワークをもつVELTRAだからこそ可能な細やかな情報サービスを提供していくつもりです。

将来的には旅のメディアとしてサービスを拡充してゆくことを目指しています。

― なぜ次のキャリアとして旅行産業を、その中でもVELTRAを選んだ理由は。

個人的に旅行が大好きだからというのもありますが、事業会社の本社で経営戦略に深く関わりたいと考えていました。そんな折、VELTRAのCEOの二木氏から、そういった希望を叶える事ができるまたとない機会をいただき、ぜひ挑戦してみたいと思いました。また、企業理念にもある「パートナーや地域コミュニティといった全てのステークホルダーへに貢献し、共存繁栄する」という考えと、これまでの堅実な事業展開に共感したのも大きな理由です。

新型コロナの影響は確かに大きいですが、どの業界も今は同じ状況。 旅行業界と同様、エンターテインメント業界も大きな打撃を受けています。

― テクノロジーが旅行業界もたらす変化をどう予測するか。

前職では主にSVOD(定額制動画配信サービス)の開発を担当していたのですが、参入時のマーケットは既に競合がひしめくレッドオーシャンでした。そのため機能面の違いのみでユーザーを獲得するには限界があり、差別化のカギはいかにユニークで魅力的なコンテンツを提供できるかにかかっています。事実、Netflixはコンテンツの制作に多額の予算を投じ、既存のテレビにはない独自のコンテンツを充実させることで成功しています。

エンターテインメント業界と同じく、旅行業も価格面での競争だけではなく、ユーザーにとって魅力的でユニークなコンテンツの提供が重要になると思います。

旅行自粛の動きを受け、旅行業においても既に多くのオンライン体験が各社から提供されていますが、ここからさらに進んだVRとMRを利用した仮想旅行マーケットには大きな可能性があると思います。

また衛生面の不安から、大人数のグループ旅行ではなく、個人や家族などの小規模グループでの旅行スタイルに移行することは間違いありません。旅行のパーソナライズ化にいかにテクノロジーが適用できるかが問われるでしょう。

―マイクロソフトやディズニーといったグローバル企業と楽天のような大手日本企業での経験から、働き方について大きな違いは。

欧米企業では、チャレンジできる機会がより多くあるように感じます。また失敗にも寛容で、その失敗から新たなサービスの創出に繋がることもありました。日本企業もあまり保守的にならず、失敗しても良いような環境を作れば、日本発の独創的なサービスが生まれるのではないでしょうか。

反対に、欧米の大企業ではステークホルダーが多く、意思決定に長い時間を要することがありました。また部門間の調整や海外本社との交渉にもかなりの時間がかかります。ベルトラカイトのように起案から2週間でサービスをリリースすることは不可能だったと思います。

―エンジニアがチャレンジしやすい環境とは。

最近は日本のITスタートアップでもフラットな構造になり、若手でも意見を言いやすくなっているのは良い傾向だと思いますが、典型的な日本企業では年齢や役職が重要視され、若い開発者がチャレンジしやすい環境とは言い難い。

とはいえ若手の開発者が上司に意見したり、チャレンジしやすい環境を作れるかどうかは、日系でも外資でも、上司のスキル次第だと思っています。その点、これまでの経験もあり、部下の意見を積極的に聞き、年齢やレベルに関係なく新たな意見を取り入れるようにしています。

―ウィズコロナ時代においてエンジニアに求められることは。

コロナ禍においては全てが流動的で、企業は迅速な意思決定プロセスと行動力が求められます。そういった意味では、先に述べた年功序列や「出る杭は打たれる」といった日本的発想は、アジャイル開発の大きな障害となります。承認の数をできる限り減らし、すぐに行動に移せる環境がなければ、短期間でのアウトプットは出せません。いかに意思決定のスピードを早めるか、そのための権限委譲の体制を整えることがアジリティには重要と考え、組織を設計しています。

ITは変化が早い業界であるため、エンジニアの方々には色々なことに興味を持ち、積極的に自らのアイデアや考えを周囲に共有し、失敗を恐れず能動的に動くことが求められると思います。

―移動制限解除の動きが国内を中心に進んでいるが、OTA(Online Travel Agency)の勝機は。

これまで国内のアクティビティは、旅行者が直接現地で申し込みすることが多く、オンラインでの事前予約のニーズは低かったといえます。今後、ウィズコロナの時代においては国内旅行のオンライン化が加速すると考えています。例えば、施設側では安全対策のため入場規制が必要になりますし、それに伴う事前予約や顧客情報の取得が必須となる。接触を避けるためにチケットのデジタル化も進むでしょう。

そういった意味で、我々のようなオンライン予約サービスの需要はより高まるでしょうし、市場シェアを拡大する機会にもなり得ると考えています。予約テクノロジー開発を通じて国内旅行のオンライン化を加速させることで、旅行者や事業者により安全・安心な旅の提供に繋げていきます。


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