7都府県に緊急事態宣言が発令され自粛要請が続く中、新型コロナウイルスの感染者を「たたく」声が上がり、感染した著名人が謝罪を発表する事態になっている。感染症専門医の岩田健太郎神戸大学教授は、そうした風潮が感染をむしろ広めかねないと警鐘を鳴らす。実際に、感染経路をたどれない陽性患者が増えているためだという。陰性になっても警戒が必要だという新型コロナウイルス。どう向き合うべきか、岩田氏に尋ねた。(ジャーナリスト・森健/Yahoo!ニュース 特集編集部)※取材は4月9日。オンラインを通じて行った。

感染者を非難するのも、感染者が謝罪するのも「間違い」

──日本では3月の3連休後から新型コロナウイルスの陽性患者が急増しはじめました。その際、海外旅行やパーティに参加した大学生がネット上で非難されたり、芸能人が謝罪したりする事態が起きました。

あの時点で、国は大学生に対して何か指示していたわけではありません。小中高校についてはすでに休校要請を行っていましたが、大学生に対しても明確な規制をしておくべきでした。しかし、実際に政府がしていたのは曖昧な「お願い」だけ。これで感染が起きて学生をたたくというのはひどいと思います。

そもそも、感染した患者を非難したり謝罪を求めたりするのは、二重の意味で間違っています。

第一に、感染したこと自体は非難の対象にはなりえません。いま俗に言う「3密(密閉、密集、密接)」を避けて、感染を防ごうとしていますが、集まっていなくてもうつる人はいます。ウイルス側には、うつろうと思ってうつるような人格などありません。単に感染しやすいところで感染しているだけです。

第二の理由はもっと重要で、感染者をたたく風潮が広がると、感染経路を追えなくなる可能性が出てくるからです。つまり、夜の街に出た、パーティーに出たという情報で叩かれるようになると、陽性患者は自分の寄った場所や会った人などの感染経路を隠蔽してしまう。そうなると、感染経路が追跡できなくなるのです。これは感染防止対策にとってきわめて問題です。

──4月上旬現在、東京などの都市部では感染経路がわからない陽性患者が半数以上を占めています。

もう感染経路の隠ぺいは実際に起きていることです。仮に感染がわかって入院したとしても、その前の行動について口をつぐんで、保健師や医師に教えないようになっている。

ほかの国では情報公開の名の下、感染者がどこの店に行ったか、あるいは、どういう動きをしたかまで把握できるようなところもあるようです。こういうことは一見よさそうですが、感染対策としてはよくないです。感染症のアウトブレイク時に、感染者に伝えるべきことは「あなたのプライバシー情報は守る、その代わりにあなたが行ったところを全部教えてください、あなたが責められることは一切ありません」ということです。そういう取引によって、医療者や当局だけが感染経路を特定し、感染防止をするのです。

──新型コロナウイルスに感染した患者への差別などが懸念されます。

そもそも医療者の立場で言うと、患者に対していい人や悪い人という善悪で見ることはしません。そういう判断を入れると、「こいつは悪い奴だから手を抜いてしまえ」というような考えに結びつくし、そんな邪な考えになれば治療に抜けが出てしまう。当然、医療の質は落ちて、治療成績も悪くなります。

岩田健太郎(いわた・けんたろう)。神戸大学大学院医学研究科教授、同大学附属病院感染症内科診療科長

陰性になってもウイルスはしばらく出続ける

──4月10日現在、感染の勢いが落ちたわけではないですが、日本でも12%以上、クルーズ船(ダイヤモンド・プリンセス号)乗船者では約9割は退院に結びついています。一方で、一度「陰性」になった人が再び「陽性」になる例も出ています。

まず「陽転」するメカニズムはまだ突き止められていません。

ただ、ウイルスをもっていることと、せきや発熱など病気になっていることは同じではありません。ウイルスが出るか出ないかは検査の問題で、無症状の人からウイルスが見つかることはよくあることです。また、一度陽性になった人に対するウイルス検査をする日々の中で、(検出結果に)上がったり下がったりのブレはあるものです。つまり、ある程度の時間をかけて(り患者のウイルス量が)下がっていくとき、たまたまその値がすごく下がったときに陰性という検査結果が出ただけかもしれない。

緊急事態宣言は誰でも感染しうるという前提

──感染した人は、どれくらいの時間が経過すれば、他人にうつすことを気にせず生活できるのでしょうか。

一度感染した人は、陰性という結果が出たとしても、数週間はウイルスを出し続けているという認識をもっておくべきです。


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