もうすぐ夏休み。海に行こうか山にしようか。それとも足を伸ばして海外旅行はどうだろう…。いつもならば計画を考えるだけで心躍る時期だ。しかし、今年は違う。家にいるのはさすがに飽きた。移動の自粛は緩和されたのだから羽を伸ばしたい。でも、感染拡大の第2波が心配だ。旅行に出かけていいものか…。ためらう人もいると思う。「日本の観光地は、どうなるのか」リゾート運営の第一人者、星野リゾートの星野佳路社長に、コロナショックを乗り越える秘策を聞いた。(経済部記者 加藤ニール)

リゾートのプロにも未経験の打撃

星野リゾートは、北海道から沖縄、それに海外で40を超えるリゾートを運営している。そのトップ、星野佳路社長は30年にわたって観光産業に携わってきた。日本各地で経営破綻した旅館を復活に導き、“リゾートの再生請負人”とも言われる。

リゾートを知り尽くした星野さんにとっても今回のコロナショックは経験したことのない事態だという。

星野佳路社長
「緊急事態宣言が出された、この4月、5月は、もう強烈なダメージだった。お客様が8割9割減となり、過去にないことが全国的に起きた。インバウンドも含めて需要が元に戻るには、治療薬、ワクチンが登場しないと難しいと思います。1年半、2年はかかると覚悟しないと」

インバウンド消滅の衝撃は

星野リゾートは外国人旅行者の利用も多い。しかしインバウンドは壊滅的な状況だ。

5月に日本を訪れた外国人旅行者数はたった1700人だった。1年前の277万人から99.9%の減少だ。わずかに訪れた旅行者も、留学生や技能実習生などの再入国者で、純粋な観光客は、ほぼゼロだったと見られる。

ダメージはかなり大きいはずだが、星野さんは、違った見方を提示した。

星野社長
「日本の観光市場全体を見れば、実はインバウンドは全体の17%の4.8兆円なんです。80%を超える20兆円以上が、実は日本人による日本国内観光です。観光産業が生き延びていくためのマーケットは、国内に十分、存在しているんです」

この夏、安心を提供できるか

星野さんは、観光業にとって、この夏が勝負だと語る。

星野社長
「ダメージがあと3か月、4か月続いたら、それはもう絶望的だったと思います。ただ、緊急事態宣言が解除されて、7月、8月は観光シーズンに入っていく。ここで戻すことができれば、先が見えてくる。このあと第2波、第3波があるかもしれないが、最初の緩和期となる、この7月、8月に、どれだけしっかり安全な旅を提供できるかが、試されている」

この夏、おそるおそる旅をする人たちに、徹底した感染症対策で安心感を与えることができれば、観光復活の道が開けるのではないか、ということだ。

車で2時間圏内の旅

では、どういう風にお客さんは戻ってくるのだろうか。星野さんが活路を見いだしているのは、“マイクロツーリズム”だという。

星野社長
「お客さまが戻ってくる順番は、近場から戻ってくると思うんです。私は、マイクロツーリズムと呼んでいますけれども、この概念が、いま非常に重要になっています。観光地から1時間、2時間圏内で自家用車で行ける。これが1番、安全な旅だというふうにお客様は思っている」

車でくる近場の観光客を獲得するためには、サービスの内容も見直す。例えば外国人旅行者に人気だった東京都内の施設は、近場で旅館気分を味わいたいというニーズを掘り起こす。ほかの客との接触を避け、チェックインから食事、温泉の入浴までを味わえるプランをつくった。

星野佳路社長
「コロナ期には、お客様の行動パターンは変わり、旅に求めるものも変わります。地元の方々は、海外の方と違って、地域文化や地域食材についてよく知っています。地域らしさを感じることは目的にはならない。だから地域文化を紹介するよりも、ちょっと違った食材の食べ方を紹介し、非日常を感じてもらう。そういうニーズがあると思います」
「マイクロツーリズムの商圏であれば、春夏秋冬4回来ていただけるチャンスがある。サービスの内容を変えていくことで、私たちが生き残れる可能性は高くなります」

沖縄や軽井沢のリゾートでは、通信環境を整えて、リモートワークでの利用も提案する。

コロナ対策も工夫次第で

街では“新しい生活様式”が定着しつつある。レストランやカフェでは席が間引かれ、飛沫感染を防ぐため、透明のシートやついたてが置かれる光景にも見慣れてきた。

だが、コロナ対策はやはり窮屈な感じは否めない。リゾートでも、ある程度の窮屈さを我慢しなければならないのだろうか。星野さんは、発想の転換で旅行の醍醐味となる“非日常”が提供できるという。

星野社長
「工夫次第だと思っています。レストランの席は、3密を避けるため減らしますけれども、この夏の間は、ピックニック朝食を提案します。リゾート地や観光地には、外に魅力的なところがあります。だから、ただ3密回避の目的でレストランを避けるというだけでなく、自然の中で味わうピクニック朝食って楽しいよね!という新しい形の魅力を提案します。3密を回避しながら、非日常を味わえるように、いろいろな発想を出していきたい」

感染拡大の影響で中止になった地域のまつりを、違った形で楽しんでもらう仕掛けも考えている。

青森県のねぶた祭は中止になったが、青森県三沢市のホテルでは、館内のレストランを作業場として開放し、地元の職人達にねぶたの制作に取り組んでもらう予定だ。ねぶたの制作現場を間近で見てもらうことで、祭りを別の形で味わってもらおうという狙いだ。

コロナ前より観光力を

星野社長
「観光産業は、地方の人口減少への対策や雇用の維持、そして新しい経済基盤に貢献できる産業だ。そのため、観光産業がなんとか、このコロナ期を生き残り、ただでは起き上がらないという精神で復活することが非常に重要です。この時期だから、できることをしっかりやって、コロナ期の前よりも観光力をつけて復活したい」

厳しい逆風にさらされる観光業の現状を語る星野さんの表情は険しく、先行きも、感染の第2波、第3波がやってくる前提で、計画を組み立てていた。ただ非常に前向きな語り口が印象的だった。感染対策をも、旅の魅力に変えようとする発想には、はっとさせられた。

しばらくはコロナと付き合っていかざるを得ない。発想の転換が、コロナ期を生き抜くヒントだと感じた。

経済部記者
加藤ニール
平成22年入局
静岡局、大阪局をへて
現在、国土交通省担当

クレジットソースリンク