京都のインバウンドツアーのイメージ。新型コロナの影響の貸切バスへの影響は、まず中国発のツアーに現れた(成定竜一撮影)。

(乗りものニュース)

世の中が新型コロナの影響から少しずつ次のステップへ踏み出していくなか、ツアーの需要減により苦境の長期化が予想される貸切バス。しかし、変革は新型コロナ以前から求められており、「昭和」からの脱却が今後のカギになりそうです。

コロナ禍が最初に訪れ、回復も遅れる貸切バス

 バス業界は、地域交通を担う「路線バス」、都市間輸送の「高速バス」、そして団体輸送の「貸切バス」という、おおむね3つの分野に分かれます。そのなかで、最初に新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けたのが貸切バスでした。そして、路線バスの乗客数が回復を始め、高速バスも運行再開が相次ぐのとは対照的に、今後も険しい道のりが続きそうなのも、貸切バスの分野です。

 2020年1月末、中国政府が海外へのツアーを禁止しました。中国発のツアーを中心に請け負っていたバス事業者の多くは、予約がすべてキャンセルになりました。ついで、老人会など団体旅行のキャンセルが始まりました。一斉休校が始まった2月末以降は、国内の旅行会社のツアーや、学校行事や企業のイベントなども中止が続き、ほとんどの貸切バス事業者が完全休業に追い込まれました。

 各事業者は、乗務員らを休業させ、国の助成金を原資に企業体力の温存と雇用の維持に努めています。国土交通省のまとめでは、事業を休止や廃止としたのは全国約4000社中43社(4月末時点)ですが、これはあくまで国に届出をした社数であり、現実に事業継続を断念した事業者はもっと多いと見られます。

 今後は、2020年7月10日に観光目的で県をまたがる移動も自粛が緩和される見込みで、公共交通機関である高速バスは徐々にですが需要回復が期待できます。一方、貸切バスを利用する団体旅行の需要は、回復が遅れることが懸念されます。

「新型コロナ前」はよかった? 貸切バス業はどう成り立ってきたのか

 たとえば、授業時間不足を補うため、今年度は遠足や修学旅行を縮小する学校が多そうです。「夏の甲子園」など大規模イベントも中止が相次いでいます。旅行会社のバスツアーの中心を占めていたシニア層は、感染リスクが大きいとされ、出控えるかもしれません。

 長期的な見通しも不透明です。そもそも日本は、団体旅行の市場が大きく、それが貸切バスの需要を支えていたわけですが、昭和の時代から引き継がれたその旅行スタイル自体に、新型コロナ以前から変革の必要性も指摘されていたからです。

 戦後、大手旅行会社らが、職場や町内会といった、「ムラ社会」日本ならではのコミュニティを対象に慰安旅行を売り込みました。まだ貧しかった当時の日本人には、貴重なレクリエーションとして喜ばれました。家族旅行や新婚旅行も、鉄道や航空、高速道路網が充実する前は、旅行会社が企画、募集するツアーに参加するのが現実的でした。

 高度経済成長を経て豊かになると、自家用車の普及もあって個人旅行が増加します。ところが、団体旅行市場も縮小はしませんでした。バブル経済最盛期の1990(平成2)年ごろには、会社の費用で宴会やゴルフを楽しむ、豪勢な社員旅行が目立ちました。

 2000(平成12)年には、バス事業における需給調整規制が撤廃され、貸切バスに新規参入が増加します。これにより、高止まりしていた貸切バス運賃(チャーター代)は下落し、手軽な格安バスツアーなど新しい市場を生み出しました。そして2006(平成18)年ごろからはインバウンドツアーの市場も拡大します。貸切バスの年間輸送人員は、規制緩和の前年(1999年)から15年間で約3割も増加しました。

インバウンド頼りも難しくなっていた貸切バス 新しい動きも

 ただ、小規模で法令順守の意識も乏しい事業者が増加したことで、大事故も相次ぎました。そこで、2014(平成26)年、安全面の規制が再強化されるとともに運賃・料金制度も改正され、「安売り」が禁止されます。制度改正の本来の目的は安全性向上の原資確保でしたが、事実上、皆で一斉に値上げできたことで、事業者の経営を安定させる効果もありました。

 その一方で、需要は減少を始めます。もともと、職場や町内会を単位とする「社会的な旅行」が下火になっていたのに加え、実質的な運賃値上げにより、旅行会社のバスツアーは格安を売りにできずコース設定数が減少。急増するインバウンドも、団体ツアーではなくFIT(個人自由旅行)が主流になり、高速バスや鉄道に流れました。そして2020年、新型コロナウイルスによる危機が訪れたのです。

 先行きは相当厳しい貸切バスの分野ですが、新しい動きも生まれています。外出自粛によりウェブ通販の市場が拡大した結果、物流センターの従業員が増加、その通勤を担う送迎業務の依頼が急増しています。路線バスや路面電車の、ラッシュ時の「密集」を避けるため、自治体らの費用で貸切バスを運行させ、乗客を分散させる例もあります。

 事業者自身の工夫も見られます。大型バスを改造したキッチン車両を使い、「自粛」期間中、地元の有名レストランなどとのコラボレーションにより「ドライブスルー・レストラン」として営業したクールスター(札幌市。札幌観光バスのグループ会社)や、ウェブ会議システム「Zoom」を使う「オンラインバスツアー」を企画し数々のテレビ番組で紹介された琴平バス(香川県琴平町)などです。南薩観光(鹿児島県南九州市)は、車庫で車両が眠っているタイミングだからこそと、多くの車両を連ね、地元の観光名所でプロモーションビデオを撮影しました。いずれも、逆境を逆手にとってブランド力を強化させた例です。

旅行会社も苦しかった「昭和の旅行」脱却なるか

 新型コロナ危機が来る前から、変革の必要性は叫ばれてきました。通り一遍に有名観光地を巡るツアーに、旅行者は飽きています。その地域ならではの観光や体験を提供するためには、地域をよく知る地元の旅行会社とバス事業者が、現地集合のツアーを企画するのが一番です。

 また、標準的な貸切バス車両の座席数が「45席」であるのは、小学校のクラス定員が40人であったことの名残りに過ぎません。少人数の学級が増えているいま、大人の利用も考えると、座席数を減らし、そのぶん広く豪華な座席やトイレ付き車両を望む声も少なくありません。

 貸切バス事業者はかつて、「旅行会社が安い運賃を押し付けるから安全確保にお金が回らない」と、旅行会社を悪者にする主張を繰り返しました。しかし実際には、その旅行会社自身が低い利益率に苦しんでいました。彼らもまた、「ムラ社会」を基盤とした団体旅行の文化や、有名観光地を総花的に回るバスツアーといった「昭和の旅行」から脱却が求められていたにも関わらず、変化に挑戦するための体力を失っていたのです。

 貸切バス事業者も、そのパートナーである旅行会社も、残念ではありますが新型コロナ危機に際して淘汰は避けられないと筆者(成定竜一:高速バスマーケティング研究所代表)は考えています。しかし、いやそれだからこそ、この危機を無事に潜り抜けられた会社には、あらためて消費者のニーズ変化と向き合い、新しい旅行スタイルを提案することが求められています。

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