文化

海外旅行の楽しさは、自国にはない文化や風土、歴史に触れることにある。しかし、日本の観光地にある英語の案内板やパンフレットは、日本語を直訳しただけで、日本文化のバックグラウンドのない外国人には意味不明な内容だったり、初めてその地を訪れる人には不親切だったりする。日本を熟知する英語圏のライターや編集者の力を借りて、観光庁が取り組んだ訪日外国人向けの解説文作成マニュアルには、分かりやすく、深く理解できるように伝えるノウハウが詰め込まれている。

若一王子神社を訪ねて

先月、長野県大町市に滞在していた私は、休日、市内にある若一王子(にゃくいちおうじ)神社を訪れた。1200年ほど前に創建されたという由緒ある神社で、広々とした境内には、16世紀半ばに造られた本殿を中心に、1711年に建立された立派な木造の三重塔や、1973年の伊勢神宮式年遷宮で譲り受けた古材で建立された拝殿がある。また、全国でも珍しい「子ども流鏑馬」が、毎年行われているという。さらに、北アルプスの麓ということもあり、神社敷地内には、立派な「日本アルプス遭難者慰霊碑」も建っていた。

名前も知らない神社だったが、深い緑に囲まれ、歴史ある建造物に富み、子ども流鏑馬という伝統的行事が今も続く若一王子神社の散策を楽しんだ。ただ、残念ながら神社のウェブサイトや境内の案内板は日本語しかなかった。簡単な英語の案内板があれば、ふと立ち寄った外国人観光客にとってより思い出深いものになるのではないか……。

日本文化の理解の一助に

現在、新型コロナウイルス感染拡大は日本経済、特に旅行業界に大打撃を与えている。2019年の訪日外国人数は約3190万人と7年連続で史上最高を更新したが、これがパタッと止まってしまった。2020年2月には前年比58%減となり、3月は94%減少した。1日当たりの訪日外国人数でみると、4月はついに99.9%も減少した。

このままでは、年間4000万人の外国人観光客を日本に呼び込みたいという日本政府の目標達成は難しいだろう。しかし、このコロナ禍でインバウンドに逆風が吹き荒れている現状下で、観光業界が長期的に成長できるような地盤作りや、外国人観光客が日本を訪れた際の満足度を高めるための地道な努力が続けられている。

そのひとつが、観光庁が進めているプロジェクト「地域観光資源の多言語解説整備支援事業」だ。訪日外国人が訪れる観光地には、施設や歴史を説明する観光案内の看板が充実している所もあれば、ほとんど無い所もあり、むらがある。また解説内容が不十分だったり、間違っていたりするなど、外国人観光客に観光地の魅力が伝わらないという声が上がっていた。そこで、観光庁が文化庁や環境省と連携し、英語圏出身のライターや編集者に実際に観光地を訪れてもらい、旅行者の目線で分かりやすい解説文を作成してもらう取り組みを2018年度から始めた。開始3年目に当たる今年4月24日、観光庁はこれまでのプロジェクトの成果をウェブサイトで発表した。

神社仏閣を英語で説明するには

そのひとつが、歴史的文化財や国立公園などの観光拠点について、訪日外国人が理解しやすい解説文を作成するための、詳細なライティングマニュアルだ。日本語と英語で作成されており、観光庁のウェブサイトから無料でダウンロードできる。

例えば、寺院や神社の名称を英語で表記する際のルールが載っている。神社、神宮、天満宮、大社、稲荷大社、寺、院という神社仏閣に関連する用語は、日本人でも違いを説明できない人が多いのではないだろうか。これらを英語で説明するときにどのように表示すれば良いのか―templeを使うのか、Shinto shrineを使うのかなどについて解説している。

2020年度は公募などを通じて、国内の世界文化遺産、国立公園、祭り、社寺など計65地域の観光資源について、英語解説文を作成することが決まっている。ライターや編集者、コピーエディターといった言葉のプロが各観光地の人たちと協力しながら、膨大な量の解説文を作りあげていく作業は時間と労力がかかる。しかし、この積み重ねがさまざまな観光資源に関する英語解説文作成のノウハウの蓄積や、外国人旅行者の満足度向上につながっていく。

今後、地方の観光協会や観光施設などが英語で解説文を作成するときには、このライティングマニュアルをぜひ、活用して欲しい。将来的にはこのプロジェクトが中国語や韓国語など英語以外の外国語解説文作成へと広がっていくと良いと思う。外国人観光客が戻ってくるときに備えて、今やれる準備を進めていこう。

(原文英語。バナー写真:長野県大町の若一王子神社。神社の歴史が書かれている案内板。筆者撮影)

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