コロナ禍で重症化防止などの効果が期待されてきたのがワクチンだ。しかし、高齢者以外の接種はまだまだ道半ばだ。そんな中、接種を受ける人に特典を提供する試みが各地で進められている。接種を促すには「ニンジン」をぶら下げるのが効果的と考えられているようだが、それで万事解決になるかと言えば疑わしい。本当に必要なのは何なのか。(宮畑譲、荒井六貴)

群馬県がワクチン接種の特典にするスバル「XV]=SUBARU提供(実際に特典となる車と色は違います)

◆若者にターゲット

 「接種促進というのが目的の1つ」。今月10日、奈良県の荒井正吾知事は新型コロナウイルス対策本部会議でそう発言した。

 知事が手掛けようとしているのはワクチンを2回接種した人に特典を提供する試みだ。県内の飲食店などで利用できる3000円のクーポン券を配布するという。

 接種を促すために特典を用いる手法は、他の自治体も採用している。特に目を引くのが群馬県のケースだ。9月末までに2回接種した20~30代に対し、抽選で車や県内旅行券を提供する。車の方は、スバルが提供するスポーツタイプ多目的車(SUV)を1人に、旅行券は2万~5万円分を計350人に贈る。県の担当者は「若い人に振り向いてほしくてインパクトのある特典をつけた」と話す。

 東京都は2回接種した20~30代の約340万人を対象に、スマートフォンのアプリでポイントやクーポンなどを付与するキャンペーン事業を行う。時期や内容の詳細は検討中だが、アプリの開発費など10億円の予算案が8月の臨時議会で可決された。愛知県は2回接種した若者向けに1万円分の食事券を抽選で2万人に贈る。

◆加藤官房長官「差別に当たらない」

 特典をもらえる人ともらえない人が出るのは不公平と感じなくもないが、加藤勝信官房長官は「接種していない人に不利益が生じなければ、一定の利益を与えるのは差別に当たらない」と述べている。

 米国には抽選で1億円を提供する州があると報じられた。そこまではいかなくとも、日本国内の各自治体が競うように接種促進策を打ち出すのは、「高齢者以外の接種は道半ば」という状況があるからだ。

 政府などによると、2回接種した全国の65歳以上は今月13日現在、88%に上る一方、64歳以下は36.3%にとどまる。都の場合、12日現在で2回接種した80歳以上は87.4%、70代は86.8%、60代は77.2%。一方で30代は33.6%、20代は30.1%だった。

◆「つられる」のは4割程度

 ただ、特典をつければ接種がどんどん進むのかというと、そうとも限らないようにも思える。渋谷区が8月に実施した住民アンケートによれば、接種未定の人らに「インセンティブ(動機づけ)があれば接種したいと思うか」と尋ねたところ、「あれば行う」「内容によって行う」と答えたのは4割程度にすぎなかった。

 東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害リスク学)は、若者世代を中心に接種率が伸び悩む理由について「若い人の方が副反応は強く、感染しても軽症の可能性が高いと言われている影響もあるだろう。若者特有の楽観主義もあるかもしれない」とみる。その上で「(接種を受けることによる)社会的メリットを理詰めで粘り強く訴えていくべきで、金銭的なインセンティブを与えるのは邪道だ」と指摘する。

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