画面越しに読者から寄せられた悩みに答える小出将則さん=名古屋市中区の中日新聞社で

 感染拡大が止まらない新型コロナウイルス。自粛生活が長びく中、WEBセミナー「分断のウイルス・コロナ 孤独とどう向き合うか」(中日新聞<東京新聞>生活部主催)が十五日、ビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」を使って開かれた。講師の精神科医、小出将則さん(59)は、環境が変わる新年度の始まりと感染の第四波が重なったことを挙げ「うつ病や五月病のリスクが高まっている」と注意を呼び掛けた。 (細川暁子、植木創太、海老名徳馬)

 インフルエンザウイルスとの比較で小出さんが注目するのは、症状が長引き、季節を問わず一年中流行する点だ。影響を受ける時間が長い分、ストレスが蓄積されやすい。加えて、感染者の多くが無症状であることも挙げる。気づかないまま他人にうつすのではないか、うつされるのではないかという不安は大きい。

 敬遠されがちなストレスだが、生きる上では必要という。数日〜十日ほどと短期間なら、アドレナリンなどが分泌され、病気への抵抗力が一時的に高まるためだ。一方で、月単位など長期になると、ボディーブローのようにじわじわとダメージが広がる。長く不自由な生活を強いるコロナは、まさに「体も心もむしばむウイルス」と強調する。

 加えて、進学や就職などに伴い生活が変化する新年度のスタートと、第四波ともいえる感染拡大が重なったことを危惧する。もともと年度替わりは、別れや出会い、寒暖差などで心や体が揺れる時季。大型連休を前に、適応障害の一つ、いわゆる「五月病」への影響も心配される。二〇一六〜二〇年を見ると、夏から秋にかけて著名人が相次いで亡くなった影響があったと推測される昨年は例外として、自殺者が増えるのは毎年三月と五月だ。

 「新型コロナは分断のウイルス」と小出さんは繰り返した。分断の形はさまざまだ。例えば、自身が営む愛知県一宮市のクリニックに通う四十代男性はコロナ禍による業績悪化で人員整理を任され、社内で孤立。うつ状態に陥った。子育て中の三十代主婦は、休校期間中、夫は仕事が忙しく、頼りにしていた保健師とも連絡が取りづらくなって疲れ切った。外出自粛やマスク着用などに応じない人を攻撃する「自粛警察」は社会の分断を招いている。

 ウィズコロナを乗り切るキーワードとして挙げたのは「敵を知り己を知れば百戦危うからず」だ。まずは「コロナの正体を自分なりにつかむこと」と、新聞などで正確な情報を集めるよう助言。一方で、スマートフォンやパソコンに触らない「デジタルデトックス」の日を週に一回は設け、玉石混交のインターネット上の情報や会員制交流サイト(SNS)から離れることも勧める。それは自分を見つめる時間に結びつく。

 そして、何より意識してほしいのは「人を信じ、自分を信じること」と強調する。日本では「甘え」という言葉を嫌う人も多いが、信頼関係を背景に、上手に甘えることが大事という。「自立」を求める傾向が行きすぎると、特にコロナ禍の中では「絆がばらばらになる」と懸念する。

 ただでさえ、マスクで相手の顔が見えにくい今。「せめて心のマスクは外しませんか」と締めくくった。

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 どうしようもなく孤独、社会が変化する中でどう生きればいいか分からない…。事前に参加者から寄せられた質問は多岐にわたる。セミナー後に取材した内容も加えながら、心が楽になるヒントを紹介する。

【ヒント1】五感を刺激する

 「コロナの影響で仕事を失った」とつづったのは、愛知県の六十代女性だ。同居する親に感染させてはいけないと、外出も控える日々。「社会とのつながりが薄れ、閉塞(へいそく)感が募る」と切実だ。「高齢の義母が外出できないイライラをぶつけてくる」と書く岐阜の女性は「私も心のバランスが崩れそう」と訴えた。

 閉じこもりがちな生活が続くことから来る「コロナうつ」に有用なのは「五感をフル活用すること」と、小出さん。オンラインでまかなえる視覚や聴覚に加え、アナログ的な嗅覚や触覚、味覚も使って外からの情報を「入力」し、自分を刺激することが大事という。

 「インスタントコーヒーをやめ豆からひくなど、ちょっとした変化を取り入れると気持ちが前向きになりやすい」。会えない人に、香りのいい花や、互いにとって思い出深い食べ物などを贈ってアナログな感覚を刺激するのもいい。「相手を思う気持ちが伝わったり昔がよみがえったりして、離れていても関係が密になる」と話す。

【ヒント2】周りと比べない

 「新しい生活様式」が叫ばれるなど、この一年で価値観はがらりと変わった。「古いものや時間をかけて磨かれたものが好き」という東京の女性は「変わることを快く受け入れられず、社会と衝突しているように感じる」とつづった。

 小出さんは「『変わりたくない』というのは、守りたいものがあるプラスの感情」と理解を示す。「『変わりたくない』気持ちが全てなのか、気が付いていない無意識の部分も含め『変わりたい』と思う自分はいないか、心の中で問い掛けてほしい」と促す。難しければ無理することはないが、周囲との比較はやめた方がいい。

【ヒント3】のりしろ大事に

 ステージ4の乳がん患者・名古屋市の加藤那津さん(42)は、コロナ禍前は「死ぬ時に後悔しないためのリスト」を作り、旅行などを生きがいにしてきた。しかし、今はリストにある項目をかなえることができない。

 がんに限らず、重い病を患う人にとって、したいことができない現実は治療への気力も奪う。「病気の一番の敵は孤独」と小出さん。「新聞の企画を通じ、間接的にでもあなたと出会えてうれしい」と言い、人とのつながりを保ち続けるよう呼び掛けた。

 社員約2万人を抱える愛知県大口町の自動車部品メーカー「東海理化」の人事部からは3人が参加した。同社は昨年3月から出社する人を半数程度に減らすことを目指し、5人以上の会議や宴会なども禁じてきた。部下や同僚とのコミュニケーションに悩む社員は多い。

 強調したのは「制約がある今こそ、助け合い、高め合う存在として、互いを見ること」。仕事上のデータやノウハウを共有する「オープンシェア」が重要になってくるという。その上で「かつて日本企業は終身雇用を掲げ、大きな家族のようだった」と指摘。さいころの形を例に「のりしろがないと立方体にはならない」と言い、オンラインでも、雑談など「余白」を大事にするよう訴えた。

<こいで・まさのり> 1961年、愛知県生まれ。84年、中日新聞社に入社し東京社会部で活躍。7年後に退職、信州大医学部で学び精神科医になった。17年には殺人罪に問われた滋賀の元看護助手の精神鑑定を獄中で実施。本紙記者たちの報道とともに再審無罪確定を助けた。生活面のコラム「Dr.’sサロン」の執筆者の1人。

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