コロナ禍以前には、東京や大阪の繁華街に中国人旅行者があふれ、旺盛な彼らの購入欲に目を見張った。トランクに入りきらないほどの商品や土産物を抱える彼らは、日本人以上に裕福に見えた。

   本書「中国人のお金の使い道」を読み、その秘密がわかった。副題は「彼らはどれほどお金持ちになったのか」。中国の都市部の世帯は、持ち家を平均1.5軒持っており、北京市の平均世帯資産は1億3392万円にのぼるという。

   本書は急激に豊かになった中国人の資産の増やし方や消費傾向を紹介し、彼らのライフスタイルや価値観の変化を浮き彫りにする。コロナ禍がいずれ収束し、再びインバウンドの波が中国から押し寄せる日に備えて、彼らのお金の使い道を知っておくのも有益だろう。

「中国人のお金の使い道」(中島恵著)PHP研究所


  • 中国人は急激に豊かになった……(写真は、中国・上海)

  • 中国人は急激に豊かになった……(写真は、中国・上海)

安く払い下げられた住宅を転売し金持ちに

   著者の中島恵さんは1967年生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経てフリージャーナリストに。定期的に中国に行き、取材。社会事情、ビジネス事情について執筆している。著書に「なぜ中国人は財布を持たないのか」(日経プレミアシリーズ)、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(プレジデント社)などがある。

   第1章は「中国人が『お金持ち』になった理由」。その一つ目は、不動産の転売だという。そもそも「一つ目の不動産」は、彼らが所属する「単位(ダンウェイ)」(当時の国営企業や工場、学校、団体などの組織)から安く払い下げられたものだ。

   その後、転売が解禁されると、高値で転売したり、それを他人に貸して自分は新しい分譲住宅を購入したり、転売で得たお金を元手に新規事業を始めたりする、という人が多かったという。

   彼らはどれくらいの資産を持っているのか。中国人民銀行の調査結果を紹介している。2019年に全国30省(自治区・直轄市)、約3万1000の都市部住宅世帯のサンプル調査だ。

   総資産の平均値は317.9万元(約4770万円)だった。地域別では、北京市が892.8万元(約1億3392万円)でトップ、次が上海市の806.7万元(約1億2100万円)。最下位は新疆ウイグル自治区で127.5万元(約1912万円)。北京市の7分の1で、地域格差が大きい。

   家計資産は実物資産(主に住宅)を主とし、平均金融資産は64.9万元(約973万円)で、家計総資産の約20%を占めている。このことから、中国人の資産の多くは「住宅」であることがわかる。

   日本は1989年から2019年までの30年間でGDP(国内総生産)は1.3倍しか増えていないが、中国は30倍に増えた。不動産価格もほぼ右肩上がりに上昇。この経済成長が「不動産神話」を支えてきた。

   また、給料自体が劇的に上がっているという。通信機器メーカー、ファーウェイに勤務する27歳の男性の例を紹介している。修士課程修了で入社。初任給は手取りで2万元(約30万円)と、中国企業としては最高ランクだ。入社3年目で現在は3万6000元(約54万円)にアップした。その代わり、仕事はハードで、週末もほとんど仕事。自分の時間はほとんどないという。

   そうやって稼いだお金を何に使っているのか。第3章では、子どもの教育費と老親の介護、年金にふれている。

   広州市在住の家族を紹介している。夫婦共稼ぎで推定年収は2000万円以上。中学2年生の長女は私立中学に通っている。居住区によっては「重点学校」といういい学校に入れず、社会問題になった。そのため、居住区に関係なく入れる私立の小学校、中学校が増えているという。学費は年間75万円程度だが、中学受験の際、塾代が年間90万円かかったというから、日本以上の教育熱かもしれない。

ネットで消費する「Z世代」

   第4章以降は、「欲しいものを手に入れる若者たち」「美食と健康のためなら散財する」など、従来の中国人では考えられない思考と消費行動をする「Z世代」と言われる若者たちの姿を描いている。

   1995年以降に生まれた世代を世界では「Z世代」と呼んでいるが、中国の「Z世代」の特徴として、生まれたときからインターネットがある「デジタルネイティブ」、「SNSネイティブ」であることだ。

   消費意欲が旺盛で、自分の好きなものにお金を使う傾向が強いという。また、「メイド・イン・チャイナ」の化粧品の人気が高いそうだ。以前は「国産品はよくない」という固定観念が中国人にはあったが、若い「Z世代」にはないという。

   ネットで欲しいものを手に入れる若者たちの間で、ネットの消費者金融に手を出す人が増え、社会問題になっている。「KOL(キー・オピニオン・リーダー)」という「中国版のインフルエンサー」のような存在がネットで大きな影響力を持ち、ライブコマースで売り上げを伸ばしている。

   ネット通販、フードデリバリーも日本以上に普及している。スマホでの電子決済サービスが定着しているからだ。中島さんは、配送員の存在に目を向けている。北京や上海などの大都市で働く配送員の70%は地方出身者で、いわゆる出稼ぎ労働者だとされる。月収5000元(約7万5000円)という厳しい境遇で働いている。

   そうした都市と農村の格差は、戸籍制度の違いが生み出したものだが、中島さんは「ネットが普及してよかったと思うことの一つは、情報格差、地域格差、貧富の格差など、中国で問題になっていた格差が、ある程度解消できるようになってきたことだ」と書いている。

   日本に特化した「KOL」の女性(東京在住)は、新型コロナで中国人が日本旅行に来ることは難しくなってしまったが、仕事が減っているわけではないという。

「日本の商品や文化に興味がある中国人はこれまで以上に増えており、日本に来られないからこそ、また来たいという需要は高まっていると感じています。中国と同じく、日本でも地方自治体が地方の商品をアピールするためにライブコマースに関心を持ってくれています」

   インバウンドの中国人の買い物は、コロナ収束後はどう変わるのだろうか。いずれ、その日が来ることを期待したい。

「中国人のお金の使い道」
中島恵著
PHP研究所
990円(税込み)

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