ナショナルジオグラフィック日本版
ケニアのマサイ・マラ国立保護区では、パンデミックが始まって以来観光客を相手に文化を紹介するパフォーマーたちの仕事が減少した。国は、2020年8月1日から外国人観光客の受け入れを再開している(PHOTOGRAPH BY TONY KARUMBA, AFP/GETTY IMAGES)

米国やフランス、ドイツで新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっている。感染拡大を抑えるために再びロックダウン(都市封鎖)に入る国もある一方で、ウイルスがまん延している国からの観光客を受け入れ始めている場所がある。なぜなのだろう?

米国のレストランやバーが、経済的理由で飲食の提供再開を余儀なくされているのと同様に、エジプトやコスタリカなど観光収入をあてにしている国では、国境を閉ざしたままでは経済そのものが立ち行かないのだ。

こうした国では、国民の生命を守りながら、いかに外貨を獲得するかという難しい問題に、人々が頭を抱えている。現在、リスクと利益のバランスを取りながら、外国人観光客の受け入れを再開した人気の観光地をいくつか挙げてみよう。

観光に依存する経済

世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)によると、観光産業は2019年に3億3000万もの人を雇用していた。これは、全就業者の約10人に1人が、この業界で働いていた計算になる。ところが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)によりそのうち約1億2100万人の職が失われると、WTTCは推測している。国内総生産(GDP)の14%近くを観光業が占めるカリブ海諸国などでは、新型コロナによる国境封鎖で、とりわけ深刻な痛みを経験している。米コーネル大学ホテル経営学部教授のスティーブ・カーベル氏によると、カリブ海地域のほとんどの国では、外国人観光客の80~90%が北米からの旅行者だという。

国境を開放することによる経済的効果は明らかだが、各国がどのような考えに基づいて再開に踏み切ったのかまでははっきりしない。「決定は政府の裁量に委ねられています」と話すのは、米国のツアー会社スコット・ダンUSAの社長ジョン・スペンス氏だ。「科学的アドバイスに基づいていると思いたいですが、国内の観光業界から相当の圧力がかかっているはずです」

新型コロナ関連の規制やリスクに関する最新情報を得ることは、旅行会社にとって不可欠な重要業務だ――こう考えたスペンス氏は、情報収集専門の正社員を雇った。旅行プランの旅先に選定すべき国かどうかを判断するために、米国務省からの最新情報や、現地の米大使館ウェブサイト、英国政府による渡航情報、WTTC、その他の情報源を常に確認している。

国境を閉鎖しなかった国々

経済に占める観光産業の割合が著しく高い国には、コロナ下にあって一度も国境を閉鎖していない国もある。その1つがメキシコだ。メキシコでは、陸路での国境越えを一部制限してはいるものの、基本的に米国からの入国に制限を設けていない。また、入国時に詳しい検疫もなく、到着時に検温を求められるくらいだ。在メキシコ米国大使館は、ソーシャルディスタンス(社会的距離)や手指消毒など基本的な情報をウェブサイトに掲載する以外は特に対応策を取っていない。

外国からの観光客がメキシコ国内に落とすお金は、19年で250億ドル(日本円換算で2兆6000億円)近い。最大の割合を占める観光客が、米国からの旅行客だ。メキシコのGDPに占める観光業の割合は実に15%を超える。

メキシコ商工会議所の観光担当副会頭であるロベルト・ザパタ氏は最近、記者団に対して、20年3月以来、同国の観光業は1日当たり1億8000万ドル(約190億円)を失っていると語った。また、観光部門における20年の収益は、多く見積もっても19年の収益の45%にしか達しないだろうと予測している。

アフリカのタンザニアも、渡航制限をほとんど設けていない。タンザニアでは、パンデミック前に観光収入が年間25億ドル近く(約2600億円)あった。20年6月、ジョン・マグフリ大統領は、事実に反して国内のコロナウイルスは消滅したと宣言。その後は、新規感染者数の報告もやめてしまった。大統領は、奇跡的なウイルスの消滅は、祈りとハーブティーのおかげであると主張し、外国人旅行客にタンザニアへ訪れるよう今も積極的に呼び掛ける。だが、在タンザニア米国大使館は、同国の医療施設には患者があふれかえっており、依然として感染リスクは高いと警告している。

スペンス氏は「東アフリカならケニアの方が安全だ」と考えている。「ケニアは、国境をいつ開くか、またどのような条件で外国からの来訪者を受け入れるかを慎重に検討してきました」。ケニアでは、約200万人が観光業に従事し、国外からのフライトを4カ月近く禁止していたが、20年8月1日から再開している。


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