バンコクで昨年12月、開店準備をするウォラポン・パッタナパニット

 タイの首都、バンコク都心部の駅前にある売店から「甘くて新鮮なイチゴがたっぷり」と、ウォラポン・パッタナパニット(25)の明るい声が響く。昼休みどきの会社員や学生に、自慢のスイーツやドリンクを勧める笑顔は、国際線の乗務員として乗客に接していたころのままだ。

 「見たことのない景色や文化に、温かい人たち。いろんな国へ行ってみたい」と念願の航空会社で働き始めて1年を迎えた昨年春、新型コロナウイルスが襲った。乗務予定のフライトが突然キャンセルとなり、会社との面談で伝えられたのは「無期限の待機」。保証された基本給も、段階的に減っていった。

バンコクで3日、開店準備をするウォラポン・パッタナパニット(右)

 見切りを付けて会社を去る先輩や同僚もいるなか、思い付いたのがスイーツ販売だった。幼少から料理や菓子作りに親しみ、腕に覚えはあった。4月にデリバリー販売を始め、注文は予想以上。ただ、秋になってもフライト再開は見込めず、思い切って借金や蓄えで25万バーツ(85万円)を投じて店を出した。

 手取り収入は以前の5分の1程度になったが、「好きなことで人に喜んでもらえる仕事ができるだけでありがたい」と前向きだ。「空の仕事に戻りたいが、リストラの心配もある。自分が持ちこたえるためにも、今の店を繁盛させないと」。今後も二足のわらじを続けるつもりだ。

 国内総生産(GDP)の20%ほどを観光関連収入が支えるタイでは、2020年の外国人旅行者は前年の2割程度まで落ち込む見通し。「長期の『干ばつ』は続く」(ピパット観光・スポーツ相)ことを見据え、経営再建中のタイ国際航空は、機内食を提供するカフェや菓子パン販売など飲食事業などに本格参入した。ワライラック大のスクマン・グルムサンサイ教授(観光産業)は「コロナを教訓として、さまざまな分野に収入源を広げていく流れは強まるだろう」とみる。

 旅行会社HISのタイ法人もその一つ。入社8年のジャンジャオ(30)は、ベビー服販売や学習塾の店舗開発を手掛ける。これまでの訪日旅行の企画やセールスとは畑違いだが、「対象は旅行を楽しんできた顧客のタイ人層と重なる」と手応えを感じているという。

バンコクで4日、旅行カウンターを一部だけ残して服や雑貨などを販売するHISタイ法人の店舗

 オンライン取引に押され、業態転換を迫られているとき、コロナの波にのみ込まれた。売り上げがほぼゼロとなり、タイ国内15店舗の3分の1を統合、400人いた従業員は半数近くに減らすなか、多角化で活路を見いだそうとしている。

 進出以来20年以上かけて培った営業ネットワークを駆使し、提携先を探して家電やベビー服などを販売。カフェや学習塾まで展開し、いわば商社への転換を目指す。タイ法人社長の津田周和(47)は「迷走していると揶揄されることもあるが、いずれ世界が戻ってきたとき、必ず力になると信じている」と語った。(敬称略、バンコクで、岩崎健太朗、写真も)


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