2050年には世界人口の約7割が都市部に暮らすと予測されているなか、都市をどのように持続可能な循環型のモデルに移行していくかが世界中で課題になっている。2020年4月に世界で初めて「ドーナッツ経済」のモデルを都市政策に採用することを公表したオランダの首都アムステルダムをはじめ、ロンドンやヘルシンキなど、サーキュラーシティ(循環型都市)をビジョンに掲げる都市は数多い。

そんな中、日本国内でも地域をあげてサーキュラーエコノミーに取り組んでいるエリアがある。それが、神奈川県横浜市だ。横浜市は日本国内最大規模の政令指定都市で、これまで人口は増加の一途を辿ってきた。そんな、あまたの「人」が創り上げてきたまち横浜は、サーキュラーエコノミー推進の主軸に「サーキュラーエコノミーplus」というビジョンを掲げている。

サーキュラーエコノミーplusの概念図(一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフィスHPより引用)

この「plus」は、サーキュラーエコノミーにおける従来の「Planet(環境)」や「Profit(経済)」といった視点だけではなく、「People(人)」の視点をプラスするという意味だ。そして、サーキュラーエコノミーplusには、ローカル・フォー・ローカル、サステナブルデベロップメント、パラレルキャリア、ヘルスプロモーションの4つの領域があり、公民連携・イノベーションによってその4領域全てを横断的に実現するというモデルになっている。

2020年9月某日、この「サーキュラーエコノミーplus」ビジョンを策定した横浜市政策局共創推進課の関口昌幸氏と、IDEAS FOR GOOD編集部兼、Circular Yokohama編集部のメンバーである加藤佑が対談を行った。横浜におけるサーキュラーエコノミー推進の背景や、それに取り組む関口さんの思い、そして今後のビジョンを深掘りする。

横浜市政策局 共創推進室 共創推進課、関口昌幸(せきぐち・まさゆき)氏

多様なまち、横浜

関口氏:現在横浜市は市内各地にあるリビングラボを通じてサーキュラーエコノミーを実現していこうと取り組んでいます。そのためにまず必要となるのが、横浜が地域としてどのような課題を抱えているのかを正しく把握することです。

ただ世界でサーキュラーエコノミーが流行っているからという理由で取り組み始めるのではなく、横浜市民の生活にどんな課題があるのかを理解し、それらを解決して横浜をよりよい街にするための手段としてサーキュラーエコノミーを推進することが重要です。大事なのは横浜という都市の姿にあった課題解決をすることなのです。

横浜は375万人を抱える日本最大の人口規模を誇る政令市です。それにも関わらず都市としての歴史ははなはだ浅く、本格的に市街地が形成され始めたのは幕末に横浜港が開港してからで、まだ160年ぐらいしか経っていません。

しかも地形が複雑で起伏に富んでいて、平地が少なくて坂も多く、本来ならば人が集住し、交通・交流することで産業経済を興すにはとても不向きな地形をしています。

それが、約160年で375万という基礎自治体として日本一の人口規模を誇る大都市になりました。それは、なぜなのか?未来に対する横浜の持続可能性を考えるうえで、この問いについて答えておくことは、極めて重要なことだと思います。

横浜はそれぞれの地域の成り立ちや地形、社会・環境・産業資源の性格などから、「臨海都心部」と「既成市街地(インナーシティエリア)」、「郊外部」の三層でその都市構造を捉えるべきだと考えています。

横浜のインナーシティエリアは、中区の山手などが典型ですが、小高い崖の上にびっしりと住宅地が張り付いています。横浜開港によって横浜港に流れ込む河川流域のデルタ地帯に運河が創られ、大正から昭和の初めにかけてこの運河沿いに横浜港とつながる工場地帯が形成されました。そのため、市民は崖の上に住まわざるを得ず、工場地帯に隣接する桜ヶ丘などの崖地に住宅地が形成されたのです。

高級住宅街として知られる横浜市中区・山手。その名の通り、山の斜面に家が立ち並ぶ。

一方で内陸郊外部の市街地は、1960年代以降に東京や横浜のインナーシティエリアからのマイホームを求める大量の流入人口を受け入れることで形成されました。当時、これらのエリアは人口過密状態で大気汚染や水質汚濁もひどく、居住環境は最悪でした。そこで、不動産事業者や宅地開発事業者がこうした若年世帯の旺盛な住宅需要に眼をつけ、京浜工業地帯に近接する横浜の内陸丘陵部に大規模な住宅開発を行いました。

それまでこのエリアの土地利用は大半が農地山林で、住民のほとんどが農家でした。そのため、主食は自分の田畑でとれた米や野菜、生活用水は井戸水で、食事の煮炊きや風呂を沸かしたりするのは近くの雑木林の薪を活用した自然エネルギー、排泄物や生ゴミは畑の堆肥にといった、自給自足の循環型の暮らしをしていました。そんな農村にいきなり、大量生産・大量消費・大量廃棄の生活になじみ始めた若い都市住民の住宅がどんどんと建つわけです。これはどう考えても社会問題になりますよね。

横浜の湾岸沿いにある京浜工業地帯。かつて大気汚染なども深刻だった。

このような持続可能性の低い乱開発は、1969年の都市計画法の新たな制度によって市街化調整区域と市街化区域の線引きが実施されたり、宅地開発指導要綱等が施行されるなど、開発行為や建築行為のコントロールが行われることによって鎮静化していきます。

また、横浜の内陸郊外部は農業専用地区の指定など都市計画上の工夫により、住宅地に隣接する形で農地がかなりの面積で残されていることも特徴です。横浜が現在でも都市農業が盛んなのはこのためで、このことは、今後、横浜においてサーキュラ―エコノミーの展開を考えていくうえで重要なフックだと考えています。

このように19世紀後半から20世紀後半にかけて形成された横浜の市街地は、この地図のように東西南北と4つの圏域に分けることができます。「臨海都心部」と「インナーシティエリア」で「東部圏域」を構成し、「内陸郊外部」は南部、西部、北部の3つの圏域に分けることができます。各々の圏域で80万~110万の人口を抱えているので、それぞれが政令指定都市として独立できるだけの規模感を持っています。

横浜のシビックプライドが高い理由

関口氏:続いて横浜の市民気質についてですが、横浜市民は「3日住めばハマっこ」とも言われるように非常に開放的です。元をただせばみんな他の地域から移り住んできたよそ者だからです。

横浜以外の日本の大都市、例えば大阪や福岡、名古屋、仙台は、中世から近世にかけて武士たちが創った城下町ですが、横浜の臨海都心部は、港を中心にして、商人たちが創りあげた、現代的に言えばアントレプレナー(起業家)たちによって築かれた町です。

横浜・みなとみらいエリア

一方で、1960年代~70年代にかけて東京から横浜の内陸郊外部に移り住んできた人たちも、それまで農地山林だったところに家だけが建てられ、生活インフラも住民同士のつながりもが全くない状態から自治会・町内会などの地縁組織を結成し、自分たちの手で保育園や学童保育を開設、運営し、行政や開発事業者とも交渉しながら学校や公園、商業施設などを整えてきました。そのため、この街は自分たちが創ったまちだという意識が非常に強いわけです。

そして1980年代以降に横浜の内陸郊外部に転入してきた市民も、美しい街並みや緑豊かな自然環境を持ち、利便性もよい横浜郊外の計画的につくられた街の環境が気に入って住み続けている人が多い。

横浜市の住宅街エリア

だからこそ横浜市民は自らが住む街に愛着を持つ人が多く、市民意識調査などをすると、約8割の市民が横浜に対して愛着や誇りを感じていると答えるわけです。これは都市としての持続可能性を考えるうえでとても大切なことだと思います。

横浜市が抱える課題とは?

関口氏:最後に、横浜市の持続可能性を考える上での課題としては大きく二つ挙げることができます。

一つは、市域全体で高齢化が急速に進んでいることです。2020年1月1日現在で、横浜市内の65歳以上の高齢者の人口割合は24.7%。この20年間で10ポイント以上も上昇し、2025年には65歳以上の高齢者だけで人口が約100万人になると予測されています。インナーシティエリアの崖地の住宅地や内陸郊外部のバス圏にある住宅団地では高齢化率が40%から50%に達する地域もあり、人口減少による空き家も目立つようになっています。

平成元年の横浜市行政区別人口増加率

横浜の課題を考える上でのもう一つのポイントは、「東京」に近接しているという点です。横浜の昼夜間人口比率は91.7と100を割っており、昼間に他都市から横浜に働きに来ている人よりも横浜から他都市に働きに行っている人の方が多くなっています。

これは、世界的に見ても375万の人口を抱える大都市では余り例のないことです。なぜなら名古屋や札幌、福岡など政令指定都市クラスの大都市は民間企業や公共セクターなどを集積させることで、周辺の都市から労働人口を引き寄せるからです。

20世紀後半の横浜市は、東京から大量の流入人口を引き受けることで、いわばベッドタウンとしての住機能に特化したまちづくりを行ってきました。ところが21世紀に入ると共働き世帯や単身世帯が増えることで、交通が不便で通勤に時間がかかる郊外の住宅地を若年世代が選択しなくなってきました。すなわち人口の都心回帰現象が顕著になり、労働人口だけではなく30歳代~40歳代の働き盛りの市民の居住人口まで東京に奪われるようになったのです。

このことが市域の少子高齢化に拍車をかけています。さらに人口の割には産業集積が薄く、税収は個人市民税に依存する構造になっています。従って、このまま有効な手を打たなければ、横浜市の財政予測として、社会保障費は膨らんでいくものの逆に税収は細っていくという悪循環に陥っていきます。これは横浜市として、本当に危機的な状況です。

だからこそ、この危機を乗り越えるためには、20世紀後半の大量生産・大量消費・大量廃棄の社会経済システムからいち早く抜け出し、日本のどの年寄りも先に循環型経済へと転換していく必要があるわけです。

横浜の多様性が、サーキュラーエコノミーでは強みになる

加藤:横浜の4つの圏域は全て違う特色を持っていますが、それはとても良いことです。なぜなら、「多様性」はサーキュラーエコノミーの実現において欠かせない要素だからです。例えば、同じ業界で仕事をしている人の間では共通してゴミだと思われているものが、違う業界の人から見るとゴミではなく資源に見えることがありますよね。循環を生み出すためには、物事を違う視点で多角的に見る必要があるため、多様性は最も必要な要素です。ですから、横浜は4つの地域が違う構成をしており、違う課題を抱えているという点が、サーキュラーエコノミーの実現においては大きな強みになりうると思います。

また、人口規模は4つの圏域それぞれが80万人以上を抱えていますが、サーキュラーエコノミーの先進都市として知られるオランダの首都、アムステルダムの人口が約80万人です。80万人という数字は、イノベーションを起こすうえで小さすぎず大きすぎず、ちょうど良い規模だと聞きました。横浜の場合、アムステルダム規模の街が4つ集まった375万という大きな都市ですので、東西南北それぞれの地域が独自の地域循環を実現するうえで適した規模だと言えますし、お互いの地域がそれぞれの特色を生かして連携をしていくことで、横浜全体としてより大規模なサーキュラーエコノミーを実現できる可能性もあります。

サーキュラーエコノミーを都市政策に取り入れているオランダ・アムステルダム

関口氏:そうです。たとえば横浜をズームレンズで見ると、寄るか、引くかでまるで異なる都市の姿が見えてきます。サーキュラーエコノミー実現の一つの目安を80万人規模として捉えると、先ほどお話した東・西・南・北の4つの圏域が、それぞれ独立した持続可能な社会経済圏になります。それをズームアウトして引いてみると、例えば南部圏域では歴史文化や自然地形によって三浦半島や鎌倉と一体となった広域生活圏を形成し、また西部圏域では東海道線や相鉄線などによって藤沢や大和、海老名、厚木などにまたがる広域生活圏が形づくられています。そして北部圏域は、鶴見川や横浜線、田園都市線などによって川崎や町田と共にわが国で髄一ともいえる東京の郊外大都市圏を形成しています。こうした内陸郊外部と周辺地域との関係性を考えると、私は「グレーター横浜」と呼んでいるのですが、700~800万の人口を抱える世界でも珍しい大都市圏を持っているわけです。

一方でズームインして、寄ってみると市域は人口が10万~30万規模の18の行政区に分かれているのですが、これはそれぞれが地方に行けば中核都市になりうる人口規模ですよね。さらに市民の日常生活圏ともいえる中学校区が145校区あるのですが、それぞれが約2万人の人口を持っていて、各校区が市町村として独立していてもおかしくない規模なわけです。

このように加藤さんのおっしゃる「多様性」という面に焦点を当てて、ズームレンズで横浜を見てみると、たくさんの多様なコミュニティがクラスターのように重なり合い、つながってできている実に複雑な構造を持つ都市であるということが理解できます。

そのため、サーキュラーエコノミーの実験都市という文脈では、「グレーター横浜」や4つの圏域をそれぞれ一つのまとまりのある大都市圏として捉え、持続可能な経済政策を展開することもできますし、一方で行政区やそれよりもさらに小さな住宅地や団地を対象としたとしても、自立した経済循環圏として、十分に成り立つ得る規模なわけです。これは日本国内の他都市と比べても他にはない大きな特徴ですし、世界的に見ても珍しいのではないでしょうか。

横浜市中心部の風景。

サーキュラーエコノミー都市アムステルダムと横浜の共通点

加藤:関口さんのお話でとても面白いと思ったのが、横浜は東京や大阪とは異なり、武士ではなく商人が創った街であるという点です。サーキュラーエコノミーで有名なアムステルダムも、同じように商人たちが都市を築き上げてきた歴史があります。オランダは世界で最初の株式会社である「東インド会社」を発明した国ですよね。港町であるアムステルダムは世界を牽引する商業と金融の中心地として栄え、ヨーロッパ中から商人をはじめ多様な人々が集まり、アジアの国々と貿易するなどグローバルなビジネスを展開していました。アムステルダムの証券取引所は世界で初めての常設取引所です。

こうした新しい経済の仕組みを作り上げてきたオランダの人々が、これまでとは異なる経済モデルへの転換が求められるなかで、「サーキュラーエコノミー」という新しい経済概念の先駆者として世界をリードしているというのは、ある種必然的な流れとも捉えられます。世界で初めての資本主義システムを作り上げたのがオランダ人だからこそ、その課題を克服し、資本主義の仕組みをアップデートしていくのもオランダ人というわけです。これは、アムステルダムに根付いた商人としての経済合理的なマインドによるものではないでしょうか。アムステルダムがサーキュラーエコノミーへの移行に積極的なのは、そのほうが長期的にみて環境だけではなく経済的にも合理的だからと考えられているからです。

一方の横浜も、過去の伝統や保守的な思考に囚われず、商人が中心となって市民が自分たちで街をつくり上げてきたという歴史が、サーキュラーエコノミーという新しい経済の形を築いていく上でとても貴重な資産となるのではないかと思います。

関口氏:アムステルダムと横浜にはそんな共通項があったのですね。日本と言わず、東洋において初めて資本主義社会が導入されたのは横浜でした。横浜は関東大震災のときに、壊滅的な打撃を受け、市街地が灰燼に帰すのですが、それまで「東洋のニューヨーク」という異名がついたくらい貿易が盛んで、市域に銀行などの金融資本が多数あったため、近代的な都市計画が民間による社会投資として進められてきました。そういう意味では、東洋において初めて近代資本主義にのっとって近代的都市計画が実行された都市といえます。

その主な担い手が、既成概念に囚われず自由な思考で新しいことに挑戦しようというアントレプレナーシップを持ち、かつ経済合理性も有した横浜の商人でした。その点でもアムステルダムと同じ歴史を持っていますね。

だからこそ、横浜から「サーキュラーエコノミーplus」の輪を広げていくことに価値があるのだと思います。アムステルダムが西洋のサーキュラーエコノミーに取り組むと同時に、横浜では東洋のサーキュラーエコノミーを発信していきたいですね。

対談の様子

なぜ、横浜でサーキュラーエコノミーを推進するのか?

加藤:横浜は人口規模に比して産業の集積が希薄で、象徴的な都市資源は都心臨海部に集中していることや、郊外部は通勤・通学ともに市外への流出が多く、首都「東京」のべッドタウンという性格が色濃いという特徴は、なぜ横浜でサーキュラーエコノミーを推進するのか、という理由にも繋がってくると思います。基本的にサーキュラーエコノミーとは、一度作ったモノはできる限り長く使い続け、使用後もそれを捨てることなく再び回収して再利用やリサイクルしながら循環させ続けるという意味なので、消費者は循環のループの中で生産のプロセスに取り込まれていきます。つまり、生産と消費の境目が曖昧になり、両者の距離が近づいていくということです。

今までのグローバルな経済モデルは、生産と消費の距離が遠くなりすぎたことで様々な問題を引き起こしてきました。例えば、食品を遠くまで輸出するためには保存料やプラスチックを使った丈夫な包装も必要ですし、その輸送にも莫大なCO2が排出されます。そこで、生産と消費の距離を近づけようというのが地域内循環の概念です。横浜は消費者が中心の街だと言えますが、サーキュラーエコノミーを実現していくためには地域として自立し、横浜の中に消費者だけではなく様々な財のつくり手、生産者を増やしていく必要があります。

サーキュラーエコノミーは、まさにこの地域の中につくり手を増やし、地域の循環を増やすということでもあります。例えば「ローカル・フォー・ローカル」の考え方を例にとってみると、地産地消のために横浜市内に新しい農業の担い手を増やすことも一つです。

また、緑園都市のように労働者ではなく生活者を前提として発展してきた住宅都市では、今回のコロナによりリモートワークが推進されるなかで、まちの中にコワーキングスペースやwifiといったリモートで働くためのインフラが整っていないという課題が明らかになりました。

コロナ禍において、緑園では緑園リビングラボの主婦メンバーらが主体となり、ガーゼマスクをつくる循環型プロジェクトを発足させた。

子育てをしている世帯にとって、自宅で働くことは簡単ではありません。自宅の近くなど、まちの中に働ける場所がないと、これまで通り東京や横浜の都市部のオフィスに通勤せざるを得ず、結果としてコロナウイルスへの感染リスクも高まり、移動にかかるCO2も削減できないという悪循環が起こってしまいます。職住近接と言われるように、消費者として住む場所と、生産者として働く場所を近づけていくのも大事なポイントです。

横浜では、これまで消費者という立場でしか暮らしてこなかった人々が、今後は生産者として経済活動に関わることができるモデルを考えていく必要があります。そして、このモデルこそがまさにサーキュラーエコノミーそのものであり、だからこそ横浜は政策としてサーキュラーエコノミーを推進していく必要も、その価値もあるのだと思います。

生活サービス産業のサーキュラーエコノミー

関口氏:それは本当に大切なポイントです。そして消費者と生産者という対峙する立場から発展して「つくり手の概念」について考えてみると、サーキュラーエコノミー以前、いわゆる20世紀の工業化・情報化社会の中で重要視されていたのはやはり「ものづくり」でした。

情報化と言いながらも、パソコンやコンピューター、自動車を作るためには当然廃棄物も出ますし莫大なエネルギーやその他の資源も使います。環境汚染も起こります。もののつくり手と使い手を分けましょうというのが当時の横浜の方針だった一方で、現在は産業の中心が生活サービス産業に移行しているので、サービス産業のなかで消費者だった人がサービスの担い手となり、循環できるような仕組みが今後は非常に重要だと思います。

関口氏:このグラフは、2012年から2016年までの市内の産業分野ごとの従業者数と事業所数の増減に関するデータです。これを見ると製造業や建設業の従業員素や事業所数が著しく減っていて、マイナスになっているのがよく分かります。このように第二次産業は21世紀に入ってからはマイナス成長の傾向なのです。最新の調査データがまだ出されていないのですが、この傾向は、2016年以降の4年間でさらに助長されているはずです。

一方の伸びている産業はというと、医療福祉の分野が顕著です。これは社会全体の高齢化が進んだことによるものではありますが、そもそも20世紀後半までは、介護や子育ては、自助・共助の精神で家族や地域が無償のボランティアとして担っていたという側面があります。20世紀後半は男性世帯主中心の社会でしたから、男性は外で働き、女性は家で育児と家事、介護をするという男女の役割分担が明確に存在していました。そしてその役割を担う女性の仕事に対しては、賃金や給与は発生しません。いわゆるシャドーワークですね。これによって生活サービスが主に家庭内で内部化されていたわけです。

しかし、21世紀に入ってからは高齢化も進んできて家族や家庭だけでのシャドーワークでは賄いきれない部分が増えてきました。そしてそれが外部化され、サービス産業となりました。その産業にお金を払ってサービスを受けなくては生活が回らなくなったということです。経団連が5年前に生活サービス産業が2025年の社会を救うと言っていましたが、実は横浜は日本の中でも特に外食産業や家事代行、子育て・介護サービスといった外部化された生活サービス産業が中心となって回っている地域なのです。生活サービス産業は、ある意味地域の中でサービスが循環する仕組みとなっています。そこに注目すれば、消費の場である郊外部が生産の場であるというモデルが実現されているとも言えます。

横浜における産業の発達においては、工業社会型の、いわゆるものづくりを軸としたサーキュラーエコノミーではなく、生活サービス産業を中心として考えていくことがより地域の特徴と実情に見合ったモデルとなるのではないでしょうか。

加藤:とても面白いですね。雇用吸収力が高い生活サービス産業を軸として地域のなかに雇用を生み出していく。つまり、サービスの担い手を増やしていくことで、地域の中で完結する経済を生み出し、地域にお金が落ちていく仕組みになるということですね。

関口氏:はい。ところが生活サービス産業にも大きなジレンマがあります。それは、工業社会型のサービスとは違い、労働集約型であるという点です。もともと広義の意味での家事労働や地域社会の公的な活動が外部化されて生まれた産業ですので、他の産業と比較して生産性を高めづらいという性格があります。生産性を高めづらいということは、労働時間に対してその分野に従事している方々の給与や所得が相対的に低くなるということにつながりますので、医療福祉など公的な性格を持つ生活サービス産業の充実のためには、そこで働く方々の生活や労働意欲を保証するための賃金の底上げを行政が担う必要があります。

したがって、21世紀になって、自治体の財政状況が構造的に悪化しているのは、少子高齢化や人口減少の問題もありますが、実は生活サービス産業が産業経済の基軸の社会となりつつあるという点もその理由の一つです。それらの問題があいまって、「中長期的に税収は減り続けるが、逆に支出は増え続ける」という持続可能でない負の財政循環を生み出しているのが現状です。だからこそ、「サーキュラーエコノミーPlus」の政策を導入することで、負の循環を正の循環へと変えていけるかどうかが横浜の未来を左右すると思います。

サーキュラーエコノミーを加速させるコミュニティの社会資本

加藤:生活サービスの外部化という点では、今後は子育てや介護のような仕事を家庭の中に閉じるのではなく、地域へ開いていき、地域全体で支えていくという方向へ変わっていくと思います。これはすごく大事なことだと思っています。

少し話は変わるのですが、先日サーキュラーエコノミーのセミナーで、缶を作っている企業の方とお話をしました。最近ではラベルレスのペットボトルが話題になっていますよね。ペットボトルにラベルを貼らず、パッケージを減らすことは廃棄物や環境負荷の削減につながります。

一方、その方のお話でとても印象的だったのが、ラベルレスのペットボトルは環境には良いものの、それが売れるためにはコミュニティのなかに信頼関係がないといけないというお話です。例えば、私は関口さんが作ったラベルレスのペットボトルの水であれば安心して買うことができますが、どこの国で作られたか分からない、名前も知らないメーカーのラベルレスの水を買いませんか?と言われても、中にどんなものが入っているかも分からず怖いので安心して買うことができません。むしろ、きちんとラベルをつけて原材料や原産国を記してくれた方が、安心して購入できます。これはすごく本質的な話で、無駄なゴミを減らすなど、環境に優しい活動に取り組むためにはコミュニティの中にどれだけ信頼があるか、が鍵を握るのです。

サーキュラーエコノミーも同様です。サーキュラーエコノミーの実現にはメーカー、小売、消費者、回収会社など様々なプレイヤーのパートナーシップが必要不可欠ですが、お互いに信頼がないと、バトンを次に渡し、モノや資源を循環させていくことはできません。

結局は、循環型社会や地域を創る上で欠かせないのは、そのコミュニティの中における信頼の流通量やつながり、社会資本だということです。生活サービス産業は地域に密着した事業ですから、社会資本によって成り立つし、社会資本を作り出す装置にもなりえます。地域の中で家事や育児、介護の助け合いを通じて社会資本が蓄積されていくことは、循環型の社会や経済を実現するうえで大きな財産になるのではないでしょうか。

関口氏:生活サービス産業の可能性はまさにソーシャルキャピタル、社会関係資本が基軸になっていますよね。だからこそ、ある部分で新しいものづくりと結びついて、社会資本があるからこそモノやサービスを信用して購入することができるのですね。20世紀後半は、単につながりや絆、共助という言葉や理念が先行し、何事もボランティアベースで考えられていましたが、実は産業経済の発展においても社会関係資本、信頼はとても大事です。

コミュニティの絆やつながり、共同体などは今よりも昔の方が多くあったことは明らかです。しかし、みんなそのようなつながりが生み出すしがらみに息苦しさを感じ、田舎から都会に出ていき、さらに核家族すら解体された結果、現在のような世帯の単身化が進んできたわけです。みんなが「もう面倒くさい絆なんて欲しくないよ」と思っている社会に対して、いや、そうじゃないと。昔ながらの共同体の絆を取り戻そうということではなく、新しい社会関係資本としてお互いの信頼関係を築こうよ、ということを訴えたいのです。信頼関係が成立しないところには商売も成立しませんし、社会関係資本はまさにキーワードになると思っています。特にサーキュラーエコノミーを推進していくためには社会関係資本と経済をセットで捉え、コミュニティの中で信頼関係を構築していくことが必要です。

加藤:おっしゃる通りです。社会関係資本がきちんと存在していて初めて、サーキュラーエコノミーができるわけであって、その信頼がなければ、ラベルレスや量り売りといった世界から遠ざかってしまいます。他にも、最近は食品のコンポスト(堆肥化)をする方も増えてきていますが、どんな肥料や農薬が使われているのかが分からない食材を手に入れても、それを自分の大切な畑の土に入れてコンポストしたいとは思いませんよね。

関口氏:その通りです。リアルな経済というのも結局は信頼で動いています。また、経済においてはそうした信頼が可視化されているかどうかも大きなポイントで、そこで重要になってくるのがテクノロジーやデータです。デジタルやデータ解析の話をすると社会関係資本とは相反するものにも思われがちですが、それらが両立していないと信頼は生まれないのです。

つまり、信頼できるテクノロジーやデータがあってこそはじめて社会関係資本が生まれて、地域循環型の社会が成り立つのだ、というところが21世紀のアップデートした共同体の新しい形です。ボランティアや共同体の圧力によってやや義務的に課されていた活動とは異なる関係性のなかでの信頼が、これからの新しい経済です。

加藤:まさにそうですね。サーキュラーエコノミーにはデジタルトランスフォーメーションが不可欠ですし、例えばIoTやブロックチェーンといったテクノロジーを使うことで、サーキュラリティ(循環性)の測定はもちろん、生産者と消費者、サプライチェーン上などでお互いの信頼を可視化することができ、よりスムーズに循環をつくることができるようになります。

コミュニティにおける信頼は、横浜が掲げる「サーキュラーエコノミーplus」において非常に重要なポイントだと思います。plusが意味する「人」の部分は、まさにこの社会関係資本を表しています。人と人とのつながりや社会関係資本を培っていけばいくほど、結果的に地域の循環が起こりやすいという、言われてみれば当たり前ですが、あまり議論されていないことに真正面から向き合っていくのが、横浜らしいサーキュラーエコノミーではないでしょうか。

対談会場となった横浜市役所のビル2Fにあるブックカフェ「HAMARU」には、「サーキュラーエコノミーplus」が掲げる4つの領域に沿って選書がされている専用の書棚がある。

編集後記

IDEAS FOR GOODでは、以前にも「欧州CE特集」として、ヨーロッパ各地のサーキュラーエコノミーへの取り組みを紹介した。読者のみなさまの中には、サーキュラーエコノミーに関心を持ち、記事を読んでくださった方もいるかもしれない。

そしていま、私たちのサーキュラーエコノミーは新たな局面を迎えている。コロナ禍により社会構造が大きく変化し、私たちの暮らし方も望む望まざるに関係なく、変化を余儀なくされた。衛生管理のための包装容器やマスクの使い捨ては、果たして本当に「仕方がない」ことなのだろうか。このような未曾有の状況において、環境問題とは何か、そして環境問題の解決とは何か、自分自身にもう一度問い質したい。

後編では「サーキュラーエコノミーplus」の掲げる4つの領域、ローカル・フォー・ローカル、サステナブルデベロップメント、パラレルキャリア、ヘルスプロモーション、それぞれの概念をより深く、具体的に掘り下げていく。

 

【関連サイト】Circular Yokohama
【参照記事】マイクロソフト、2030年までに「廃棄物ゼロ」を実現へ
【参照記事】横浜市協働・共創フォーラム2020~リビングラボを中心にウィズコロナの時代の共創を考える〜 【#おたがいハマ イベントレポート】
【関連記事】サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは・意味
【参照サイト】一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス

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