ここ数年、居心地が良く歩きたくなるという「ウォーカブル」が、エリアの価値を上げるキーワードの一つとして浮上してきた。道路空間の造りを見直し、歩行者空間の拡充・利活用を図る社会実験が、各地で実施されるようになり、国は法制度の改正や予算事業を通して「ウォーカブル」の後押しに回る。いまなぜ、「ウォーカブル」なのか――。

都市は消費の場であるとともに、生産の場でもある。オフィス、店舗、文化・スポーツ、ホテル…。さまざまな施設で経済活動が繰り広げられている。その都市部でいま期待が高まるのが、イノベーション創出の場としての役割である。都市ならではの多様性を新しい産業・事業の創出に結び付けられないか――。

ソフト・ハードの仕掛けでそこに挑戦する試みが、東京・丸の内や日本橋など、大手デベロッパーがまちづくりに取り組むエリアで見られるようになってきた。新しい産業・事業を生み出すことで、エリアの価値をさらに高めていく狙いだ。

その仕掛けがいま、屋外公共空間にまでにじみ出そうとしている。国土交通省が掲げる「『居心地が良く歩きたくなる』まちなかづくり」は、その一つと言える。いわゆる「まちなかウォーカブル」の推進である。

沿道との連携を図りながら歩行者空間の居心地を高め、交流・滞在を促す。そこに、イノベーションに欠かせない「セレンディピティー」、簡単に言うなら「偶然性」を求める。オープンイノベーションに都市の多様性を掛け合わせる発想だ。

例えば大型の拠点開発が並行して進むエリア。そこでは、個別の拠点開発をエリア全体のにぎわいに結び付ける狙いから、回遊性の向上に取り組む。そこにもやはり、多様な人々の偶然の出会いと交流によるイノベーションへの期待が読み取れる。

「まちなかウォーカブル」の推進に向けていま、エリア側にはどのような試みがみられるのか。横浜市を例に見てみよう。市内で「まちなかウォーカブル」の推進に取り組むエリアには、JR関内駅を中心とする一帯がある。

関内駅周辺ではいま、複数の拠点開発が進められている。

駅西側では、学校法人関東学院が市教育文化センター跡地に関内キャンパスを建設中。2023年4月開校を目指す。またフジタを代表とする企業グループでは市横浜文化体育館などの跡地でPFI(民間資金を活用した社会資本整備)事業に取り組む。2街区に分かれた敷地の一方には横浜武道館を開設済み。敷地の他方では既存施設の解体工事を進める。メーンアリーナ施設として供用が始まるのは、2024年4月の見通しだ。

駅東側では、横浜スタジアムが1年ほど前に約6000席の増築・改修工事を終えたところ。また向かいに広がる旧市庁舎街区では、三井不動産を代表とする企業グループが「国際的な産学連携」「観光・集客」という市側が掲げたテーマに沿った活用事業に定期借地権方式で取り組む。開業は2025年下期の予定だ。

車線数や車線幅を減らし、車道狭める

市はこれらの拠点開発をつなぐ「みなと大通り」と「横浜文化体育館へのアクセス動線」という1本の道路を軸にエリア内の回遊性を向上させようと、関連道路の再整備を計画中だ(図1)。その背景と狙いを、市道路局企画課長の桐山大介氏はこう説明する。

(図1)横浜市ではJR関内駅を中心とする一帯で区間1から区間5までの道路再整備を検討している(資料提供:横浜市)

[画像のクリックで拡大表示]

「この路線は各施設間の回遊性を向上させる重要な動線だ。しかし現状は、歩道が狭く、そのままでは空間の造りとして十分ではない。そこで、車道の幅員を狭める一方で、歩行者や自転車通行の空間を拡充するなど、既存道路空間の再整備を行い、歩行者ネットワークを強化・拡充し、沿道のにぎわいの創出を図る」

対象区間は、区間1から区間5まで。市は2018年度に交通量調査を実施し、その結果を踏まえ、区間1、区間4、区間5について、再整備のイメージを描いた。

(図2)区間1の現況(上)と再整備案(下)。4車線を3車線(「ゼブラ帯」含む)に減らし、横浜市開港記念会館側の歩道部を拡幅するとともに自転車専用通行帯を整備する案を描く。図は、ハマスタ入口交差点側から横浜税関前交差点方面を見た断面(資料提供:横浜市)

[画像のクリックで拡大表示]

(図3)区間4の現況(上)と再整備案(下)。車線幅を5.5mから3.0mまで減らし、メーンアリーナ施設側の歩道部を拡幅するとともに自転車通行帯を整備する案を描く。図は、長者町3丁目交差点側から不老町交差点方面を見た断面(資料提供:横浜市)

[画像のクリックで拡大表示]

(図4)区間5の現況(上)と再整備案(下)。大通り公園方面への一方通行規制に改め、歩道部を両側とも拡幅する案を描く(資料提供:横浜市)

[画像のクリックで拡大表示]

旧市庁舎街区と横浜港発祥の地に整備された象の鼻パークを結ぶ区間1では、車線数を4車線から3車線(「ゼブラ帯」含む)に減らす一方、横浜市開港記念会館側の歩道を拡幅するとともに自転車専用通行帯を車道上に整備する(図2)。

また、みなと大通りの延長線上で横浜文化体育館再整備の2つの街区のうちメーンアリーナ施設の建設が計画されている街区に面する区間4では、車線幅を5.5mから3.0mに減らす一方、メーンアリーナ施設側の歩道を拡幅するとともに、自転車通行帯を車道上に整備する(図3)。

さらに横浜文化体育館再整備の2つの街区の間を通る区間5では、車道部分を一方通行規制に切り替え、その幅員を狭める一方、歩道の幅員を両側とも広げる(図4)。

2020年11月にはこれら3つの区間を対象に社会実験を実施し、車線数の減少、車線幅の減少、一方通行化、それぞれの施策に伴う課題を検証するとともに、拡幅した歩道部分の一部について利活用の可能性を探った。

実験期間中は車道上にカラーコーンを設置し、車線数や車線幅を制限することで、交通の流れを一時的に絞り込んだ。そのうえで交通量調査を実施し、渋滞が生じることがないか否かを見極めた。桐山氏は「全体として見れば、ひどい渋滞が生じることはなかった。ただ細かく見れば、車両の左折時への対応に工夫が求められる。そこでどういう事象が起きているか、目下分析中だ」と、実験結果を概説する。

歩道部分で利活用の可能性を探るのは、このエリアの特性や交通量調査の結果に基づく。市都市整備局都市デザイン室長の梶山祐実氏は「エリア内では大型の拠点開発が進むほか、横浜市開港記念会館などの歴史的建造物や横浜スタジアムが立地し、滞留になじむ空間と言える。交通量調査で歩行者の通行量を見たところ、拡幅後、歩道の一部にそうした空間を確保できそうな余地が見られた」と説明する。


クレジットソースリンク