波打ち際のドームテントを独り占め!

 JR西日本(西日本旅客鉄道)では2018年より、瀬戸内エリアの多様な観光資源を活用して地域の活性化を目指す「せとうちパレットプロジェクト」を展開している。その一環として、コロナ禍における瀬戸内エリアでの新たな拠点整備を目的に、鷲羽山下電ホテル(岡山県倉敷市大畠1666-2)の敷地内でグランピング事業を開始した。

「せとうちグランピング」と名付けたこの取り組みは、新たな観光スタイルとして注目を浴びる「自然」「貸切」に目を向けたもの。鷲羽山エリアは、大阪から新幹線と特急で約90分の距離で、眼前には風光明媚な瀬戸内海が広がり、瀬戸大橋や無人島といったほかにはないコンテンツがある。その気軽さと魅力、そして人が少なく安心して楽しめる旅の形として、グランピングは時代に即したコンテンツといえるだろう。

 目の前のビーチ、瀬戸内海の多島美と瀬戸大橋の眺望、クルージング、無人島ツアー、そしてBBQグリルを活用した地元料理研究家プロデュースの食事。9月から始まったこのグランピングを体験してきたので、その魅力を紹介しよう。

 なお、旅行商品としては阪急交通社や読売旅行、下電ホテルが販売しており、Go To トラベルの対象になっている。詳細はせとうちグランピングのWebサイトで確認していただきたい。

グランピングの醍醐味が満喫できるドームテント

 せとうちグランピングの舞台になる鷲羽山下電ホテルは、戦前より続く歴史ある観光旅館。「下電」とは、かつてこの地を走っていた下津井電鉄のことで、ホテル前には当時の車両(クハ24、ホカフ9)が移設されている。

 ホテルの敷地からの美しい風景は宿泊者以外に見ることができず、さらにビーチやホテルが管理する無人島もあるため、季節を問わずプライベート感のあるマリンアクティビティが楽しめる。宿泊用のドームテント、食事用のスターテントなどのグランピング施設はホテルに隣接する瀬戸内海国立公園の一部を借り上げて設営したとのことで、ホテル棟も見えずこちらもプライベート感は満点だ。

施設を見学中にヤギに雑草を食べさせている株式会社下電ホテル 代表取締役社長の永山久徳氏に遭遇。ヤギは優秀な草刈り要員だそう

ホテル売店では地域共通クーポンも利用可能。岡山のお土産も手に入れよう

 ドームテントはホテルの東側およそ100mに設営。「凪エリア」と名付けた場所は、小さな岬を挟みホテル棟が見えないため、大自然のなかに自分たちだけがいるようなプライベート感だ。また、食事の支度などはホテルスタッフが行なうため、キャンプの煩わしい部分は一切なく、ドームテントはエアコン完備でテント前のデッキにも暖房装置があり、ポケットルーター代わりになるスマートフォン型端末も設置、電源も冷蔵庫もある。ホテル棟を利用するのは大浴場とトイレだけで、アウトドア感抜群の離れかコテージに滞在している気分に浸れるだろう。

 夜間にも行ってみたが、灯りがなければ歩けないほど暗くもなく、また季節柄虫なども少ないので、仲間と語らうなどゆったりと過ごせそうだった。ただしこれからの季節は寒い日もあるので、暖かいアウトドアウェアなどは必須。防寒対策をしっかりして冬のグランピングを楽しみたい。

 今回のせとうちグランピングは2021年1月までの期間限定の取り組みだが、ぜひ春、そして海水浴も楽しめる夏場にも楽しめればと感じた。

「凪エリア」のデッキとドームテント。毎日2組が宿泊可能

 せとうちグランピングでは、ホテルルーム泊プランも用意している。ドームテント泊と異なるのは、宿泊室がホテル客室であることと、「せとうちグランピングクルーズ」(後述)がオプションになっていることで、食事内容などそのほかはほぼ同じ。食事やアクティビティではアウトドアを楽しみつつ、トイレが室内にあるなど、ホテル泊のメリットの方が大きいと考える人にはピッタリだ。

 今回の取材ではホテルルーム泊を体験した。部屋は、2009年にリニューアルした「燦燦館」の洋室ツインルームで、部屋からの瀬戸内の眺望も美しく、静かで快適だった。

「ホテルルームプラン」の宿泊室(洋室/燦燦館)

燦燦館のベランダからは瀬戸内の美しい風景が広がる

夕食は「グランピングスタイルバーベキュー」

 せとうちグランピングの料理はBBQグリルを使ったもので、料理研究家の大原千鶴氏が監修した。大原氏は岡山出身で現在は京都住まい。NHK Eテレ「きょうの料理」やBS4K「あてなよる」にレギュラー出演しているほか、著書も多数。

 BBQの食材には、食べ応え十分の大きな鰆の切り身や黄ニラといった地元岡山の地山品を多用しており、ご飯にちらし寿司、スキレットでアヒージョやチーズフォンデュもいただける。デザートはグリルを使ってバナナやマシュマロを焼いたりと、まるで高級炭火焼き店のような料理だが、自分たちのタイミングで好きなように焼いて楽しめるのはまさにキャンプのBBQの醍醐味。

「グランピングスタイルバーベキュー」と名付けたこのメニューは、ドームテント泊、ホテルルーム泊いずれもほぼ同じ内容を提供する。

 なお、夕食後の時間にはホテル前のビーチで焚き火も楽しめるのであわせて紹介。寒い季節だが炎の輻射熱はかなり暖かく、簡易カウンターでアルコールも買えるので食後のひとときを潮騒とともに楽しみたい。

キャンプファイヤーならぬ焚き火。贅沢なナイトタイムだ

炎の暖かさが心地よい季節になってきた。焚き火を囲んで語らうのも楽しそう

カウンターバーもありドリンクも注文できる

海辺でとる朝食は格別!

 朝食もBBQグリルを使ったもので、夕食と同じ場所でいただく。清涼で心地よい朝の海岸の空気を、マスクを着けず他人の目も気にせず、胸いっぱいに吸い込める貴重なチャンスだ。食事は、ホットサンドと熱いスープに、ヨーグルトのデザート付き。こちらも地元でとれた新鮮な野菜などを使用しているそうだ。美しい瀬戸内の朝の風景を眺めながらの温かい食事。シンプルだが贅沢な朝食を頬張ろう。

朝の海岸。すがすがしい空気のなかいただく朝食

瀬戸大橋を真下から見上げるチャーター船の「せとうちグランピングクルーズ」

 せとうちグランピングでは、秋や冬でも楽しめるマリンアクティビティを用意している。その1つが「せとうちグランピングクルーズ」だ。

 これは鷲羽山下電ホテルの桟橋からチャーター船で瀬戸大橋のほぼ中央まで行き、斜張橋(櫃石島橋、岩黒島橋)の下をくぐる約30分のショートクルーズ。波が少なく穏やかな瀬戸内だが、船(海上タクシー)は思いのほか高速で意外とスリリング。船内、後部のデッキ(屋根付き)、前部のデッキ(露天)の好きなところに乗って、普段見られない巨大橋を下から見上げてみよう。

 なお、このせとうちグランピングクルーズはドームテント泊に組み込まれており、ホテルルーム泊ではオプション扱いになる。

巨大な瀬戸大橋を真下から見上げる「せとうちグランピングクルーズ」

ホテルが管理する「釜島」に上陸する無人島ツアー

 鷲羽山下電ホテルから南東に約1km。ホテルが管理している無人島「釜島」は、夏場にはプライベートな海水浴やキャンプといったアクティビティが楽しめる。せとうちグランピングでは季節も考慮して、この釜島を使った「無人島ツアー」を行なっている。ハンモックでの午睡、レンタルの釣竿を使ったフィッシング、また瀬戸大橋の向こうに沈む夕陽の鑑賞などが楽しめる。

船で約10分。無人島「釜島」ではハンモックで昼寝、フィッシング、夕陽鑑賞などが楽しめる

釜島には使える桟橋がないため、砂浜から直接乗り降りできる専用船で向かう

砂浜でのアクティビティ「ビーチヨガ」

 せとうちグランピングに組み込まれたアクティビティではないが、ホテルではヨガマットとヨガの本を無料で借りられる。例えば空気のすがすがしい朝、ほとんど人のいない砂浜で景色を独り占めしながらヨガにチャレンジしてみてはいかがだろうか。ホットヨガのような外部からの熱はないが、集中してポーズをとりながら腹式呼吸していくと体の芯からほんのりと温まってくる。きっと1日を元気に過ごせるきっかけになるはずだ。

手軽にビーチヨガにもチャレンジ!

永山社長「瀬戸内海のありのままの自然と味を楽しんでほしい」

 今回のせとうちグランピングについて、鷲羽山下電ホテル 代表取締役社長の永山久徳氏に話を聞いた。

 地元児島で育ち、この海で遊び、ここの物を食べてきたという永山氏。現在の大変な状況をきっかけにこのようなプロジェクトが実現し、日本中に児島と下電ホテルを知ってもらうことになったと驚いたという。「コロナ禍による三密回避などでいま注目をいただいていると思いますが、私としては地元の人々が何百年も見てきて過ごしてきた瀬戸内海のありのままの自然をぜひ楽しんでいただきたいと思っています」と話す。

 また、ずっとこの地にいると、地元のよいところも分かりにくくなるとも述べ、「皆さんの目を通してこの地の素晴らしいところを私たちに再発見させていただければと思います」と結んだ。

株式会社下電ホテル 代表取締役社長 永山久徳氏


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