新型コロナウイルスの影響を受けて人の移動や働き方も大きく変化している。日本でも在宅ワークやテレワークを取り入れる企業が増え、今後のwithコロナ時代の新しい働き方に注目が集まっている。

そこで今回は20年以上前からワーケーションに着目し、国内外の調査研究を重ねてきた第一人者、山梨大学の田中敦氏をゲストに迎え、日本型ワーケーションの特徴や導入の鍵を握るポイントなどについて具体的に話を伺った。

 

コロナ以前は働き方改革が主眼

ワークとバケーションを融合させたワーケーションは、テレワークの延長線上として登場してきた。2015年頃からアメリカでも管理職を中心に認知が広まった。欧州においては休暇の質を重視するため、休暇中に仕事を持ち込むのは良くないと従来は思われていた。しかし、2014年オランダに旅行中の374人を対象とした調査では、休暇中に仕事しても、しなくても結果的に感情面で大差がなかったという研究結果が出ている。ワーケーションに対するマイナス面よりも、リラックスした環境でクリエイティブな仕事ができるといったメリットのほうが重視されるようになってきた。

日本では大企業における働き方改革の一環として、総務省や厚生労働省が中心となって推進してきたが、時間も場所も自由度が高いワーケーションは日本的な雇用体制の中では、なかなか浸透しなかった。しかし、東京2020オリンピックが契機となって、大会期間中の朝の通勤ラッシュ緩和のため、テレワーク導入が叫ばれるようになった。

 

アフターコロナは感染リスク回避としてワーケーションに注目集まる

新型コロナウイルスの世界的大流行によってオリンピックが延期され、テレワークの機運が萎むと思われたが、今度は感染リスク回避の観点から注目されるようになった。リゾート地に長期滞在しながら仕事をするワーケーションは人混みや満員電車を避けられ、感染リスクが低い。環境省では5月に「国立・国定公園、温泉地でのワーケーションの推進」に補正予算6億円を計上した。海や山に囲まれた自然の中でクリエイティブな仕事ができるように、国立公園やキャンプ場でのWi-Fi整備を推進する。

感染防止のため人との接触を極力避けたい、家族との時間を大切にしたいなど価値観が多様化するなかで、ワーケーションも一つの有力な選択肢になってきている。

 

ワーケーション導入には4つのステークホルダーが存在

ワーケーションを取り巻くステークホルダーとして、企業、労働者、行政・地域、関連事業者の4つを田中氏は挙げた。

まず、企業における導入実態を見てみると、2017年の調査ではテレワークを導入している企業の割合は大企業で約25%、中小企業では約10%前後に過ぎなかった。テレワークを可能にするための通信インフラとセキュリティ体制、会社以外の遠隔地での労務管理の難しさがネックとなっていたが、オリンピックと今回のコロナ禍によって、一気に導入する企業が増えている。

次に労働者のニーズを見てみると、コロナ前は年代や性別、役職などによってワーケーションへの歓迎度は異なっていた。2019年JTB総合研究所の調査によると、プライベートの旅行中に行なった仕事を業務として認められれば休暇が取りやすくなると答えた人が20~30代男性では35.3%いるのに対し、40歳以上の女性では22.6%と10%以上差が出ている。また、出張とプライベート旅行は分けたい人が20~30代女性では32.2%にのぼった。プライベートを重視するか、他者との関わりを重視するかなどライフスタイルによってもワーケーションの利用意欲には差が出ていると田中氏は指摘する。

行政・地域においては、空き家対策や移住への導線としてワーケーションを取り入れることで、関係人口の増大が期待される。リゾート地における仕事環境整備など先進的な取組を行っている和歌山県と長野県が中心となって2019年にはワーケーション全国自治体協議会も発足した。総務省では2015年度から、ふるさとテレワークの整備を全国で推進している。

関連事業者として代表的なものがコワーキングオフィスだ。2010年頃から東京都内でも増え始め、2017年には都内の新規開設数が約40カ所、2018年には前年度の2倍の約90カ所にのぼった。コロナ前から事業拡大が進んでいたことになる。最近では、民泊や定額住み放題サービスなど多様なスタイルを提供する宿泊施設もワーケーションの関連事業者として存在感を強めている。

4つのプレイヤーがそれぞれの思惑や期待を持って動き始めたが、まだまだ温度差があるのがコロナ前の状況であったと田中氏は振り返った。

 

日本型ワーケーション4つのスタイル

 田中氏によると日本型ワーケーションには、1.休暇と仕事の両方を兼ねたワーケーション、2.休暇中の一部の時間を仕事に充てるワーケーション、3.出張後にレジャーを付け足すブリジャー、4.オフサイト会議や団体研修といったMICE的なワーケーション、の4つのスタイルがあるという。4つとも、まだ需要が大きく顕在化しているわけではないが、東京オリンピックが開催される来年に向けて大きく変化するのではないかと田中氏は見ている。

 

1施設ではなく地域全体でワーケーションの受け入れ体制を

ワーケーションを企業が導入しやすくするための第一歩として、田中氏は働く場所の規程を柔軟にすることだとアドバイスする。労災については労使ともに理解し合える点を見出す必要があるという。

また、異業種との連携でお互いの弱点を補い合いながら導入に向けて動き出すのも手だという。人材派遣サービスのパソナとJAL、ANA、自治体が連携して地方創生や地域の人材育成に取り組む事例や、定額住み放題サービスHafHとJR西日本が連携した例などを紹介した。

withコロナ時代には、ワーケーションは一部の意識が高い層だけが利用するのではなく、より裾野が広がると田中氏は予測する。通常の観光旅行よりも長期滞在となるワーケーションでは1宿泊施設だけではなく、飲食店や体験事業者など地域全体で過ごしやすい環境を整えることが重要だ。

ワーケーションをしやすい地域として付加価値が高まれば、将来的にインバウンドが戻ってきたときに外国人のワーケーションの受け入れも可能となると期待を寄せている。

 

【登壇者プロフィール】

山梨大学生命環境学域教授社会科学系長・地域社会システム学科長

田中 敦氏

JTBに入社し、教育旅行、MICEや米国本社・欧州支配人室勤務等を経験。2000年、本人出資型社内ベンチャーとしてJTBベネフィットを起業し、30歳代で取締役に。その後、事業創造本部、JTBモチベーションズ等を経て、2016年山梨大学観光政策科学特別コース新設を機に現職。JTB総合研究所委託研究員。日本国際観光学会、ワーケーション研究部会部会長。

 

【開催概要】

withコロナ時代の観光戦略 vol.3〜拡大するワーケーションの課題と可能性〜
日時:2020年7月17日(金)15:00〜16:00
会場:ZOOMウェブセミナー
主催:株式会社やまとごころ

 


【今後開催予定のセミナー】

◆withコロナ時代の観光戦略 vol.4 〜オーバーツーリズム:観光に消費されないまちのつくり方〜

2020年7月31日(金) 16:00~17:00

コロナショック後のインバウンド入札案件の変化と今後

2020年7月27日(月) 14:00~14:30


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