カジノや観光施策として焦点が当りがちな統合型リゾートだが、MICEと呼ばれるビジネスイベントも強力な集客エンジンの1つだ。では、MICEイベントを運営する立場から、IRはどのように見えるのだろうか? 日本コンベンションサービス(JCS)の伊藤 ボン氏に話を聞いた。(以下、敬称略 インタビュアー JaIR編集委員 玉置泰紀)

日本コンベンションサービス(JCS) 伊藤 ボン氏

年間1万件以上のイベントに関わるMICEのリーディングカンパニー

玉置:まずは伊藤さんが所属している日本コンベンションサービスについて教えてください。

伊藤:われわれの会社は1967年創業なので、今年で54年目を迎えます。国際化が急激に求められていた高度経済成長期に、先代の社長が通訳・翻訳需要の高まりの中で語学サービスという新しいビジネスを見出しました。のちに現在の社名の通り、コンベンションを目的として日本コンベンションサービスを立ち上げました。その後、万博や東京サミット、そして東京五輪などのイベントに関わらせてもらい、今も成長を続けています。

1980年代後半から1990年代にかけて、幕張メッセや東京ビッグサイト、パシフィコ横浜といった大型会場が立ち上がり、こうした会場を使ったMICEイベントが日本でも当たり前になりました。われわれもこうしたMICE・コンベンションの波に乗り、リーディングカンパニーとして事業を拡大しています。

玉置:最近ではまちづくりも積極的に関わっていますね。

伊藤:MICEから派生して、人材紹介のサービスがビジネスとなり、まちづくりや都市活性化に関わることも増えています。さまざまな行政サービスの受託やMICE施設の管理や運営・誘致、地域活性化コンサルなども手がけています。さらに世界最大級のPCO(Professional Congress Organizer)であるスイスのMCI Groupと合弁会社を設立しました。両者合わせるとICCA(国際会議協会)基準を満たす国際会議の開催件数としては世界No.1を誇っています。

玉置:具体的にはどのようなイベントを手がけているのでしょうか?

伊藤:有名なものだとG7やG20といった各国の首脳や大臣が集まる政府系の会議を手がけています。前回2016年のG7外相会合に参加したのが岸田文雄現総理大臣(当時の外務大臣)で、このときオバマ大統領を現役の米国大統領として初めての広島訪問を実現させたという功績があります。リアルに人を招くMICEならではの価値がここらへんにありますよね。その他、2019年のG20では北海道で観光大臣会合、2021年は政府系では最大級の「京都コングレス」をハイブリッド形式で運営しました。こうした政府系の会議のほかは、医学系の大型学術会議やシンポジウムを手がけています。

MICEの案件としては全国各地で開催されるものを合わせると数百件、通訳・翻訳や人材紹介など含めた関連ビジネスまで含めると、年間で1万件以上の案件を扱っていると思います。私も最近は大阪・関西万博をはじめとする関西方面の案件にも数多く携わっているので、東京と関西を行ったり来たりです。

 

MICEの国際競争力がどんどん落ちている日本

玉置:基本的なところでまずはMICEの定義から教えてください。

伊藤:われわれは「ビジネスイベントの総称」と説明しています。一般の方が参加するイベントとちょっと違い、学術や産業の目的で集まるイベントや会合ですね。これが一番わかりやすいと思います。

玉置:IRと結びつかない状態でも、MICE自体は存在しているという考え方でOKですか?

伊藤:正しいです。MICE自体はビジネスに結びつき、目的をもって実施されます。実はコロナ禍でも必要性の高いものはオンライン化して開催されていて、減ってはいないんです。IRのあるないに関わらず、MICEは存在しているというのは正しい認識です。

玉置:そもそもMICEと呼ばれたのいつくらいなんでしょうか?

伊藤:諸説ありますが、2000年頃にシンガポールで言われ始めたようです。もともと別々の形態だった異なるイベントをひとつにまとめた表現で、観光政策のカテゴリを作るための名前ですから、実際にはMも、Iも、Cも、Eもそれぞれ微妙に異なったものです。海外ではMeeting&Eventsの方がわかりやすいという意見もあります。

玉置:こうした中、日本のMICEは国際競争力が落ちているというデータがいろいろなところで出されていますが、どうお考えですか?

伊藤:1つの指標としては、国際会議の開催件数というものがあります。政府も長らくアジアでの開催件数No.1を目指しており、これまではその地位にいましたが、昨年中国に抜かれました。そして、中国の勢いを考えるとこれを戻すのはなかなか難しいと思います。数字という面で相対的にみて競争力が落ちているのは事実です。

実際にあった話ですが、先日とあるコンベンションのコンペでシンガポールに負けてしまいました。負けた理由の1つとして、誘致に対する資金提供の違いがあります。通常、コンベンションが開催されると、都市として資金やサービスを拠出するのですが、この金額が桁違いでした。シンガポールでは、コンベンションをイベントの1つではなく、産業創出の1つとして中長期的な視点でお金をかけてくるので、金額規模が違うんです。

最近だとタイもかなりMICEに注力していますので、遠からず日本に追いついてくる可能性が高いと踏んでいます。われわれとしては脅威です。

玉置:観光という観点から見ると、タイは日本よりもはるかに先駆者ですよね。

伊藤:タイの観光組織であるタイ国政府観光庁(TAT)はすでに60年以上の歴史があり、日本の観光庁を立ち上げる際に学びに行ったと聞いています。そのため、一般観光の分野ではずいぶん先行しています。

一方、ビジネスの分野では、産業規模とMICEの大きさが相関関係にありますので、日本はアジア諸国に比べて圧倒的にリードするのが当たり前です。でも、MICEの施策が大きな効果を生んでいるとはいえず、IRはまだスタートもしていませんので、他国がさらに同分野に集中して攻めてきたときにこれまで以上に脅威となるでしょう。

玉置:テックの分野でもやはりイベントは米国ばかり。だから、少なくともコロナ渦前のラスベガスは数多くのイベントが開催されていました。

伊藤:MICEと産業は相関関係がありますし、産業が先端的であればあるほど、新しい情報や研究成果が発表されるので、集客効果も高いのです。アメリカのように科学技術でリードしている国ほど、MICEでは人が集めやすい。医学分野でも、たとえば癌の研究ではアメリカは強いので、アメリカで開催される国際会議には世界中から多くの人が集まります。

日本の製造業が強かった時代は、自動車や半導体などの展示会を大々的に開催していましたが、今は中国やアジア各国のほうが進んでいます。わざわざ日本で情報を集める必要がなくなりましたので、日本で開催されるものはどんどんと規模が小さくなっています。

玉置:日本のMICE関係者としては、危機感ありますね。

伊藤:はい。さらに言うと、産業の種になる学術分野も日本は差をつけられています。医学や科学の分野ではまだまだ日本もリードしていますが、論文の数ではすでに中国に追いつかない。論文の数はやはり1つの指標ですし、論文が有名なジャーナルに載ると、それがひとつのきっかけとなって優秀な学生や研究者を呼び込むことにつながります。

こうした要素も学術分野の国際会議の集客に影響するため、前述したように他国がお金をかけて特定の領域を攻めてきたときに、果たして日本がこれまで以上に勝ち続けられるのかは疑問です。

 

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