太宰府天満宮には、参拝者向けに早くも正月用の縁起物が置かれている=福岡県太宰府市で2020年12月7日午後4時9分、津村豊和撮影




 冬場に入り新型コロナウイルスの感染が拡大する中、各地の社寺が「初詣」の開始時期を12月からに前倒しし、年明けも期間を延ばして参拝客の分散を図る取り組みを始めた。三が日に有名な神社や寺に一斉に参拝客が押し寄せるようになったのは明治以降で、それ以前は時期も参拝先も分散していた。専門家は「コロナ禍では正月にこだわらず分散参拝を」と呼びかける。


 世界遺産を構成し、例年三が日に10万人が訪れる福岡県宗像市の宗像大社は「幸先詣(さいさきもうで)」と銘打ち、普段は元日の午前0時から取り扱う破魔矢や福寄せの熊手など新年の縁起物を12月1日から並べ、2月まで扱う。祈願所の混雑を避けるため、来年厄年を迎える人の厄よけ祈願も12月1日にスタート。早速訪れた山口県下関市の女性(56)は「人混みの中に行くのはまだ怖い。新年に向けたこういうお参りもいいと思った」と語った。


 「幸先詣」のネーミングは、福岡県内の神社でつくる福岡県神社庁が独自につくった。同庁は全国に先駆けて10月20日、年内から2月までの分散参拝を呼びかけたが、その際、ある神社の宮司から「幸先良くありますように」と提案があり、12月中の参拝をこう呼ぶことにしたという。「幸先詣」の呼び名は鹿児島市の照国神社や広島市の護国神社など他の地域の神社にも広がっている。一方、山口県防府市の防府天満宮は25日からの前倒し参拝を「予祝(よしゅく)詣」と独自に名付けた。


 「学問の神様」として知られ、三が日に200万人が訪れる太宰府天満宮(福岡県太宰府市)も12月1日に縁起物の取り扱いを開始し、3月末までを「初参り」と定めた。また、仕事始めの祈願が集中する三が日明けの企業祈願を初めて予約制にして、昇殿する人数も代表者を含む3人までに制限する。三が日に20万人が参拝する長崎市の諏訪神社も12月1日から縁起物の授与を始めた。

太宰府天満宮には、参拝者向けに早くも正月の縁起物が置かれている=福岡県太宰府市で2020年12月7日午後4時9分、津村豊和撮影


 一方、ともに今年の三が日に318万人が参拝した明治神宮(東京都渋谷区)と成田山新勝寺(千葉県成田市)、関西屈指の初詣スポットの伏見稲荷大社(京都市)は、いずれも前倒しまでは求めないものの年明けの分散参拝を呼びかけ、「手水(ちょうず)用のひしゃくを撤去して流水式の手水舎を増やす」(明治神宮)、「大みそかから1月5日まで参道沿いの露店の出店を取りやめる」(伏見稲荷大社)など感染対策に力を入れる。


 神社本庁は10月、「神社における感染症対策ガイドライン」を策定。臨時のさい銭箱を複数設置するなどして参拝客ができるだけ密集しないようにするとともに、大勢の参拝客が触るひしゃくや鈴緒(すずお)などは定期的に消毒するか一時的に使えなくするよう呼びかけている。政府の新型コロナ対策分科会も11月、分散参拝の他、マスク着用など基本対策を徹底し境内での飲食を控えることなどを提言した。【青木絵美】


初詣は明治以降の近代的な行事


 「初詣の社会史」(東京大学出版会)の著書がある神奈川大の平山昇准教授(日本近代史・観光史)によると「初詣は明治以降、鉄道網の発達と都市化の中で生まれた近代的な行事で、元々は正月参拝は分散型だった」という。

平山准教授の調査研究から、「初詣」の言葉が新聞で初めて使われたとみられる1885(明治18)年1月2日付の東京日日新聞(現・毎日新聞)夕刊の記事


 江戸時代、地方では地域の氏神をまつる神社に大みそかの夜から元日の朝にかけて籠もる「年籠もり」などと呼ばれる風習があった。一方、都市部では元日にその年の恵方の方角にある神社や寺にお参りする「恵方参り」や、1月中の「初大師(だいし)」「初不動」といった宗派ごとの縁日に合わせて参詣するのが一般的だった。


 変化するきっかけとなったのが1872(明治5)年の日本初の鉄道開業(新橋―横浜)だ。沿線にある川崎大師(川崎市)は恵方の年に東京の人たちが参詣する場所の一つだったが、鉄道の開通以降、恵方も縁日も関係なく毎年正月に参拝する形に発展し、三が日に臨時列車も走るようになった。


 平山准教授が「初詣」の言葉を新聞で最初に確認できたのは、85(明治18)年1月の東京日日新聞(毎日新聞の前身)夕刊の記事で、川崎大師に初詣に行く参拝客のため、急行列車が最寄り駅に臨時停車するようになったことを伝えている。「初詣が定着したのは移動の汽車そのものもアトラクションとして楽しめるレジャー感覚の魅力が大きかった」と分析する。


 コロナ禍で迎える新年。平山准教授は「始まって100年ほどの初詣の形にしばられる必要はない」。同じく正月の慣習に詳しい国学院大の小川直之教授(民俗学)も「地域の神社であれば3密にはなりにくい。年末に新しいお札を受け、元日に家に供えてかしわ手を打てばそれも初詣になる。元日の参拝にこだわらず、新たな気持ちで前向きに新しい年を迎えることが大事だ」と話した。【青木絵美】

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