新型コロナウイルスの感染拡大は、観光業に深刻な影響を与えています。しかしその実態は、リゾートホテルやビジネスホテル、温泉旅館などの業態や地域によって、影響の度合いには違いもあるようです。今回、私はある金融商品に着目して、その実態を調べてみました。数字の分析から見えてきた、新型コロナの影響、その“深度”とは。(経済部記者 新井俊毅)

ホテル系REITから探ってみる

「まだまだ先は見えないが、感染拡大が落ち着けば、温泉にでも行きたい…」3月下旬の週末、自宅で久しぶりに旅行予約のアプリを立ち上げてみると、お知らせ欄にはこんなメッセージが並んでいました。

「先着100名様、5000円OFFクーポン」「ポイントの有効期限を延長しました」以前、泊まったことがある温泉宿を調べると、大幅に値引きをしていて、業界が置かれている苦境が伝わってきました。

実際にどれほどの影響が出ているのか。今回、REIT=不動産投資信託と呼ばれる金融商品に注目しました。

REITは、投資家から資金を集めて不動産を購入し、それを賃借人に貸して、そこから得られる賃料や売却益を出資者に分配する商品です。この商品の中には、ホテルに特化して投資を行い、つまり物件を購入してホテルなどの事業者に貸し出し、賃料を得ているものもあります。これがホテル系REITです。運用会社のホームページを見てみると、詳しい業績が開示されています。この情報をもとに、新型コロナウイルスによって、ホテルや旅館の経営にどのような影響が広がっているかを調べてみました。

1室当たりの売り上げに着目

運用会社は稼働率、客室単価などのデータを詳細に開示していますが、中でもRevPAR(レヴパー/Revenue Per Available Room)と呼ばれる指標が重視されています。「販売可能な客室1室当たりの売り上げ」などと訳されますが、稼働率と客室の単価を掛け合わせたものです。

例えば、稼働率が80%、客室単価が5000円だとした場合、RevPARは0.8×5000円で、4000円となります。

単価、つまり宿泊料金を下げれば、ホテルの稼働率は上がる可能性があります。逆に宿泊料金を上げると、稼働率は下がる可能性があり、稼働率と単価は、二律背反の関係にあります。このため、稼働率と単価を掛け合わせたRevPARは、宿泊施設の収益性を測れる指標と言われているのです。

リゾートホテルは

では、REITごとに指標を見てみます。まずはリゾートホテルなどに投資をしている「ジャパン・ホテル・リート」です。投資先の20のホテルの2月の実績は以下のとおり。

外国人旅行客の減少や国内旅行の取りやめなどで、1月は堅調だった沖縄のホテルも、2月は前年同月比でいずれの指標もマイナスとなりました。全体でもRevPARは3割近い落ち込みです。そして運用会社では、3月はRevPARが前年比で70%弱減少する可能性があることを明らかにしています。首都圏や関西圏にある大型テーマパークの休園が続き、その近くにあるホテルは特に厳しい状況にあるとしています。

ビジネスホテルは

次に、ビジネス客や観光客が利用するホテルに投資をしている「いちごホテルリート」。保有する18のホテルの2月の実績を見ると、企業の間で広がった出張自粛や旅行の取りやめの影響が見て取れます。

中でも大阪のホテルでは、客室稼働率が最大で57%も下落、RevPARも65%を超える大幅な減少となりました。もともと大阪ではホテルのオープンが相次ぎ、供給が過剰気味になっていたところに、今回の感染拡大が重なりました。

稼働率はわずかな減少にとどまった京都、札幌のホテルでも、単価が大きく下がり、結果的に売り上げも大きく減少しています。特に札幌は、中国や韓国からの外国人旅行者の依存度が高かったことから、客室単価、RevPARともに40%を超える下落となりました。

温泉ホテル・旅館は

一方、意外に健闘したのが温泉ホテルでした。温泉ホテルを保有している「大江戸温泉リート」の2月の実績に限れば、リゾートやビジネスより底堅い様子がうかがえます。

運営会社によると、2月は苦戦するホテルもあった一方で、栃木・鬼怒川や兵庫・城崎にある温泉ホテルでは、以前からのPRの効果もあって稼働率は対前年比で上昇。全体でのRevPARも、他のタイプのホテルと比べると、マイナス幅は小さくなっています。これらのホテルの利用客の大半は国内客で、インバウンドの減少の影響をあまり受けなかったようです。

ただ運用会社では、「2月は堅調に推移したホテルもあったが、3月に入って自粛ムードが高まり、国内客のマインド(心理)も冷え切ってしまっている」と分析していて、こちらも足元の状況は悪化しているようです。

ホテル系REIT、懸念から価格は乱高下

そして、投資信託としてのホテル系REITそのものの価格にも影響が及んでいます。外国人旅行者の増加を背景に、2013年ごろから上昇傾向にあったホテル系REITの取り引き価格。ここ2、3年は横ばいで推移していましたが、新型コロナウイルスの感染拡大による収益の悪化に対する懸念から売り注文が相次ぎ、直近では、年初来高値と比べて6割程度から7割程度、下落している銘柄も多くなっています。

こうした状況について、SMBC日興証券の鳥井裕史シニアアナリストは以下のように話しています。

鳥井シニアアナリスト
「ホテル系REITは、年間を通して賃料が安定しているマンションなどに投資するREITと比べると、ホテルの月々の売り上げに左右されるため、景気に対する感応度は強く、価格の下落も大きかった」

また今後については次のような見通しを示しています。

鳥井シニアアナリスト
「ひとえに感染の状況次第だが、ことしの後半からホテルの供給は落ち着き、来年夏には延期されたオリンピックの効果も見込めるので、業界を取り巻く環境は上向いていくのではないか」

深刻さを増す経済影響、急がれる対応

ホテル系REITから探った新型コロナウイルスの観光への影響。これから公表される3月のデータはより悪化することが見込まれ、さらに4月末から5月の大型連休は業界にとっては本来はかき入れ時であるだけに、終息の見通しが立つのかどうか、業界関係者が固唾をのんで見守っています。

出口の見えない感染拡大で、急激に悪化する企業の資金繰りをどうするか。そして感染終息後の需要喚起は図れるのか。観光業界の目の前には、いくつもの課題が積み上がっています。

経済部記者
新井 俊毅
平成17年入局
北見局、札幌局を経て現職
遊軍プロジェクトを担当

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