Go Toトラベルで浮き彫りになった観光業の課題をどうすれば克服することができるでしょうか(写真:Jo Panuwat D/PIXTA)

新型コロナウイルス感染症で最も大きなダメージを受けたのは観光業であろう。コロナ禍で観光需要が文字どおり消滅したからだ。一方で、国内宿泊観光旅行は新型コロナウイルス発生以前から課題を抱えていた。

『経済がわかる 論点50 2021』(みずほ総合研究所著)の執筆者の1人である岡田豊氏が、執筆者の1人である岡田豊氏が、「GoTo延長問題」に「欠けている視点」について解説する。

コロナ禍で未曾有のダメージを受けた観光業

日本政府観光局によると、2020年4月の訪日外国人数は前年同月比マイナス99.9%のわずか2900人にとどまり、訪日外国人数の統計のある1964年以来、最少となった。

新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、日本との往来の多い諸外国のほとんどで観光目的の出入国に大きな制限が設けられており、海外旅行者数は世界中で急減している。

また、日本国内では同年4月に出された緊急事態宣言下で不要不急の外出の自粛が強く求められたうえ、全国で緊急事態宣言が解除された同年5月下旬以降も大都市を中心とした感染拡大から、県境を越える移動を自粛する動きが広がった。このため、国内観光需要は大きく減少した。

例えば、観光庁によると、国内主要旅行業者の取扱額は同年3月に急減し、4月から6月にかけて旅行需要がほぼ消滅している。

また、7月、8月は新型コロナウイルス感染症の「第2波」への恐れから東京都がGo Toトラベルから除外されるなどがあり、9月になって若干減少率が小さくなっているものの、回復のペースは緩慢だ。

(注)国内主要旅行会社の取扱額増減率(前年同月比)、(資料)観光庁「主要旅行業者の旅行取扱状況速報」より、みずほ総合研究所作成

さらに、Go Toトラベルに東京都が追加された10月についてデータが取れる東海道新幹線の対前年比の輸送量(東京側)を見ると、27日までの数値ではマイナス56%と、4~8月の平均マイナス79%に比べて若干戻っている。ただし、11月は主要観光地の1つである北海道や大都市などで、いわゆる「第3波」が脅威となりつつあり、冬季の感染拡大状況が収まらなければ、観光需要は再び低迷する可能性が高い。

欧米を中心に感染者数の拡大傾向が今なお続いていることなどから、世界中の多くの国でいまだ新型コロナウイルスが収束したとはいえない。そのため、外国人の観光目的での日本への入国における制限の全面解除は容易ではなく、近年活況を呈してきたインバウンドに大きな期待をかけるのは当面難しい。

観光庁によると、2019年の国内における旅行消費額は27.9兆円であるが、そのうち訪日外国人旅行は4.8兆円、日本人の国内日帰り旅行は4.8兆円、日本人の海外旅行(国内分)は1.2兆円となっている。

一方、日本人の国内宿泊旅行(観光、出張、帰省などの合計)消費額は17.2兆円に上る。そのうち、国内宿泊観光旅行は10.4兆円を占める巨大なマーケットである(出張は3.0兆円、帰省などは3.6兆円)。訪日外国人旅行や日本人海外旅行、企業がリモート化を進めているため今後も減少が避けられない出張旅行などは当面需要が見込めないなか、それらを大きく凌駕する日本人の国内宿泊観光旅行に期待がかかる。

観光業は、宿泊施設や観光施設だけでなく飲食業や運輸業などにも及ぶ裾野の広い産業で、地域経済における存在感は大きく、かつ人口が少ない地域であっても、観光資源があれば発展する可能性がある。地方圏を中心に多くの地域でこれからの人口減少が避けられない日本では、全国各地で地域資源を生かして、付加価値の高い観光業を育成していくことが重要だ。

また、観光業は若者の就職人気が高いことを考えると、地方の観光振興は地方の人口減少の大きな要因となっている若者の流出対策の1つにもなろう。

国内旅行のコロナ前からの課題は休日宿泊への偏り

新型コロナウイルスの影響で当面、インバウンドに回復が見いだせないことから、マーケット規模の大きい国内宿泊観光旅行の振興に力を入れることが今後より重要になろう。その際、以下に記すような国内宿泊観光旅行が新型コロナウイルス発生以前から抱えている課題に留意する必要がある。

まず、国内宿泊観光旅行の日数が短いことである。前述のように、旅行消費額において圧倒的なシェアを占めるのが国内宿泊観光旅行であるが、1年当たりでは宿泊観光旅行の回数は平均1.4回、宿泊観光旅行1回当たりの宿泊数は平均1.7泊と、旅行回数と1回当たりの宿泊数は伸び悩んでいる。

(注)国内宿泊観光旅行の1人当たりの年平均旅行回数、旅行1回当たりの平均宿泊数、(資料)観光庁「2019年旅行・観光消費動向調査」(2020年)より、みずほ総合研究所作成

次に、観光旅行が主要観光地での休日(土曜日を含む。以下同じ)宿泊に偏っていることである。旅行者はゴールデンウィークや冬季・夏季休暇などの長期休暇や土日祝をメインとした宿泊が多く、休日は大都市と主要観光地を結ぶ交通機関と主要観光地の宿泊施設が大混雑し、平日は両者ともに比較的閑散となるのが一般的である。

航空会社やホテルを中心に、観光業ではダイナミック・プライシング(Dynamic Pricing)という、価格を需要と供給の状況に合わせて変動させる価格戦略が広がっている。そのため、需要が集中する休日宿泊の観光旅行は高価格となりがちだ。

実際に、2019年の国内宿泊観光旅行1回1人当たりの消費額は6万0995円に上っている。さらに、主要交通機関別に見ると、新幹線利用は7万6558円、飛行機利用は10万5572円と旅行代金は跳ね上がる。苦労して公共交通機関や宿泊施設を確保しても、公共交通機関や宿泊施設、観光施設では混雑必至で高額となれば、国内宿泊観光旅行で泊数を増やしたり、何度も行くのが難しいのも当然であろう。

さらに、休日宿泊に偏る場合、観光業の事業者は従業員を正社員として安定的に雇用することが難しく、繁閑に容易に応じることができるようにアルバイトなどの非正規雇用に依存しがちである。安定的な雇用がなければ事業者には有能な人材が集まりにくく、かつ人材育成を進めにくい。

つまり、休日宿泊に偏っている状況は、旅行者にとっても事業者にとってもあまり好ましい状況ではない。

観光業がコロナ前から抱えていた課題を解決するには、個人の多様なニーズを満たす観光資源を多数開発し、旅行者に平日宿泊も推奨することで潜在的なニーズを発掘し、国内宿泊観光旅行の回数や1回当たりの宿泊数を伸ばし、国内宿泊観光旅行のマーケットを拡大することが肝要である。

その結果として、ピークシーズン頼みを脱却して、若者を中心に正社員の雇用を拡大し、その育成を通じて新たな付加価値をもたらす観光業への変貌が期待される。

Go Toトラベルは多様な観光ニーズを満たしにくい

国がコロナ禍の観光振興の切り札としているのが、7月から始まったGo Toトラベルである。旅行代金の35%を割り引くうえ、10月からは旅行代金の15%を地域共通クーポン(宿泊県とその隣接県の商品やサービスの購入に充てることもできる)として付与される。

これは非常に強力なディスカウントであるため、国内宿泊観光旅行の高価格という弱点をカバーするものといえる。しかし、いつ泊まっても割引率に違いはない以上、割引額で見ると休日宿泊の観光旅行がお得に映ろう。

さらに、年に1回程度しか行かないなら、このチャンスを利用して著名観光地にある、豪華な朝夕食付きプランが充実している高級ホテルや高級旅館に泊まりたいのは、割引額の大きさを重視しがちな旅行者の心理として当然であろう。

Go Toトラベルでは、公共交通手段を利用した宿泊旅行は基本的に旅行業者を通じて手配するほうがお得である。公共交通手段と宿泊施設をバラバラに確保した場合、宿泊料金はGo Toトラベルの対象になるものの、交通費は対象にならないからだ。

しかし、旅行業者の提供するパッケージツアーは、往復の交通機関や宿泊施設の選択肢の自由度が少ない。同じ交通機関により出発地と観光地を往復し、短期間宿泊する形のパッケージツアーが多い。また、パッケージツアーでは2泊以上を希望しても同じ宿泊施設での連泊するケースが目立つ。

さらに、旅行業者は国内観光需要の多くを占める主要観光地と大都市(おおむね主要観光地でもある)を結ぶ旅行の取り扱いが多く、それ以外の観光需要を満たすパッケージツアーは少ない。そのため、大都市以外の居住者は大都市までの交通費が、大都市や主要観光地以外を巡る観光を希望する場合はそれに伴う追加的な費用が、原則Go Toトラベルの対象でないため、それらを希望する者は全額自己負担となる。

つまり、Go Toトラベルが対象とする旅行業者のパッケージツアーでは多様な観光ニーズをカバーしきれていない。

Go Toトラベル延長には平日の観光旅行の振興が重要

現在、国はGo Toトラベルについて当初2021年1月末までだったものをさらに延長する方向で検討している。その際は今の制度のままで単純に延長するのではなく、ポストコロナを見据えて、これまでの課題を克服した新しい観光業を確立するという視点を盛り込むべきである。具体的には、以下のようなものが考えられる。

・鉄道、航空、船舶等の公共交通機関を利用した遠距離(例えば片道100キロ以上)の平日宿泊の観光旅行について、旅行会社を経由しない公共交通料金についてもGo Toトラベルの対象にするのはどうだろうか。さらに、平日宿泊の観光旅行では泊数が増えるほど地域共通クーポンを割り増すのも一考であろう。

・訪日外国人向けに行われているさまざまな公共交通機関利用の優遇策について、周遊型の観光旅行の振興に役立つので、公費負担により平日宿泊の観光旅行限定で日本人にも適用できないだろうか。

例えば、JRはコストパフォーマンス抜群と評判の、7日間3万3610円で新幹線が乗り放題となる「ジャパン・レール・パス」を訪日外国人限定で販売している。

また、航空各社は東京オリンピック・パラリンピックを意識し、訪日外国人向けの優遇プランとして2020年の夏限定ながら、魅力的なプランを準備していた。

日本航空は2020年7~9月の東京(羽田)、大阪(伊丹・関西)発着の国内全路線を対象に、4つの行き先候補の中から最終的な行き先はランダムに決まる(おそらく、主要観光地以外が多いはず)ものの、最大で10万席が無料となる「Win a Trip with JAL」が計画されていた。

全日本空輸は2020年7~9月の期間限定で東北地方を発着する国内線の運賃が2020円になる計画があった。著名観光地の混雑緩和や航空会社の空席活用などが狙いとみられるが、これらに類するものを日本人の平日宿泊の観光旅行向けに行ってみるのはどうだろうか。

これらの施策は多様な観光ニーズを掘り起こす可能性があるとともに、観光客を分散させることで新型コロナウイルス感染症対策として「3密」を避けるためにも有効である。

もちろん、感染者数や観光地の医療体制などによっては、エリア別にGo Toトラベルの対象から一時的な除外や、場合によってはGo Toトラベルの全国レベルでの一時的な中断もありえよう。それらも含めて、Go Toトラベルの延長に向けては、さらなる検討が求められよう。

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