藤田観光を代表するホテル椿山荘東京

「ホテル椿山荘東京」や「ワシントンホテル」を運営する藤田観光<9722>が、700名の人員削減策を実施します。新型コロナウイルスの感染拡大により、ホテル、婚礼、外食すべての事業が甚大な被害を受けたため。コロナ禍の第3四半期の売上高は前期比64.6%減の176億9,900万円、営業損失は167億2,500万円となりました。特に売上の50%以上を占める基幹事業となっていた「ワシントンホテル」などのビジネスホテル事業が前期比202億2,000万円もの減収となり、営業損失は118億7,700万円となりました。

藤田観光は、インバウンド向けホテル「タビノス」7ホテルの出店を取りやめました。足元では、経費削減のために室内清掃や警備などの委託業務を内製化し、広告費を大幅に削減。低収益のレストランは撤退します。また、社外出向の実施や副業制度の導入、全従業員の賞与の不支給を決定するなど、大規模な計画の見直しや改革へと乗り出しました。

ポストコロナの藤田観光は、「椿山荘」や「太閤園」、「小涌園」など資産性の高い施設を有効活用すると同時に、ビジネスホテルの稼働を少しずつ上げていく、我慢比べともいうべき持久戦を強いられることになりそうです。

この記事では以下の情報が得られます。

・藤田観光のビジネス構造
・業績の推移とコロナの影響
・リストラ策の内容

インバウンドホテル見直しで成長ドライバーを失う

藤田観光の2019年12月末時点での社員数は1,700人。平均年収は562万4,000円です。全社員の人件費は年間95億6,000万円。700名の人員削減ができたとすると社員数は1,000人となり、退職金の影響を除くと人件費は56億2,400万円まで下がります。およそ40%削減できる計算です。藤田観光は2019年12月期に売上原価を642億2,600万円計上しており、700名の早期退職者募集によって売上原価全体の6%程度の削減効果に繋がります。更に給与の減額やボーナスのカット、アルバイトの解雇などを推進し、総人件費を30%削減する計画です。

藤田観光が打ち出した改革案の中で最も打撃が大きいのがホテル「タビノス」の出店中止。合計10ホテルの出店計画を見直し、または中止としています。

事業構造変革への取り組みについて
藤田観光「事業構造変革への取り組みについて」より

タビノス浅草、ホテルグレイスリー台北、タビノス京都、タビノス御徒町、タビノス東日本橋、タビノス浅草橋の6ホテルで客室数は1,200室となる予定でした。稼働率90%で客室単価8,000円だったとすると、客室数1,200で年間30億円程度の売上になります。その大部分が失われることとなりました。

藤田観光は2019年12月期に689億円だった売上高を、2024年12月に790億円まで14.6%引き上げる計画でした。また、0.4%と低い営業利益率を5.0%まで高めようとしていたのです。この計画の核にあったのが、省人化しやすい都市部のビジネスホテルでした。とりわけ、インバウンド向けのタビノスへの期待は大きかったのです

藤田観光はビジネスホテルのWHG事業、椿山荘などの婚礼のL&B事業、小涌園のリゾート事業を展開しています。婚礼のイメージが強い藤田観光ですが、2015年度から売上はWHGがL&Bを追い抜いています(グラフの青がWHG、緑がL&B)。

■売上構成(単位:億円)

藤田観光セグメント売上
藤田観光決算説明資料より筆者作成
  2014年度 2015年度 2016年度 2017年度 2018年度 2019年度
売上高(全体) 642.5 639.8 687.8 706.2 692.8 689.6
増減 - 99.6% 107.5% 102.7% 98.1% 99.5%
WHG事業 258.6 279.7 329.5 356 369.3 376.3
増減 - 108.2% 117.8% 108.0% 103.7% 101.9%
リゾート事業 75.9 64.9 67.5 75.6 57.2 55.3
増減 - 85.5% 104.0% 112.0% 75.7% 96.7%
L&B事業 275.8 262.4 262.1 247.4 239.8 229.4
増減 - 95.1% 99.9% 94.4% 96.9% 95.7%
その他 32 32.6 28.6 27.1 26.3 28.3
増減 - 101.9% 87.7% 94.8% 97.0% 107.6%

ホテル事業が右肩上がりとなっている一方、婚礼事業はジリジリと下がっています。藤田観光はホテルに活路を見出したのです。また、営業利益で見てもWHGは他を圧倒していました。

■営業利益構成(単位:億円)

  2014年度 2015年度 2016年度 2017年度 2018年度 2019年度
営業利益(全体) 13.6 0.3 17.1 19.9 10.9 2.8
増減 - 2.2% 5700.0% 116.4% 54.8% 25.7%
WHG事業 11 8.1 20.4 28.7 28.4 19.6
増減 - 73.6% 251.9% 140.7% 99.0% 69.0%
リゾート事業 3.7 -0.3 -3.9 -6.8 -8.9 -6.9
増減 - - - - - -
L&B事業 1.6 1 9.1 4.4 0.5 -0.4
増減 - 62.5% 910.0% 48.4% 11.4% -
その他 -2.8 -5.7 -8.5 -6.3 -9 -9.5
増減 - - - - - -

婚礼の営業利益率は平均すると1.1%。一方でホテル事業は5.9%です。2019年に婚礼事業は赤字に転落しており、ホテル以外のすべてが不採算事業となっていました。WHGの稼ぎを他が食いつぶす状態になっていたのです。

この好調ぶりを受けて藤田観光が打った次の一手がタビノスの開発でした。ホテル事業の利益は2017年度を頭打ちに減少していますが、これは主に出店費用が嵩んでいたため。ワシントンホテルは新宿や銀座、浅草など立地条件の良い場所に出店しています。一方、タビノスはゆりかもめの竹芝駅や、つくばエクスプレスの浅草駅近くなど、やや中心地から離れた場所に出店しています。タビノスは物件を比較的安く仕入れていたと考えられます。

これは海外観光客を主要ターゲットとしており、繁華街から離れた場所でも集客できたため。また、宿泊に特化しているので、食事などのサービスを最低限に抑えることもできます。この時期、星野リゾート(軽井沢町)が同様のホテルOMOを開発するなど、出店費用を抑えて高利益体質の経営ができるインバウンド向けホテルへの期待感は大きいものでした。

2024年12月に790億円、営業利益率5.0%達成という夢は新型コロナウイルスにより、崩れ去ってしまったのです。


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