イラスト・中村鎭

 デフレ状態が続くようになってから、値段を上げないで、高い材料を減らしたり、微妙に大きさを変えたりして、実質的に値上げしている商品が増えた。企業努力をしているのは解(わか)るが、好物となると、少しくらい値段が上がっても、変えないでほしい、と思う。

 子どもの頃からだから、かれこれ半世紀にもわたって食べ続けている東北地方の和菓子も、買う度に目に見えて胡桃(くるみ)の量が減ってきている。

 家族に、そんなことをブツブツ言いながらパソコンのキーボードを叩(たた)いていたら、偶然、胡桃の粒が目立つ「紅葉狩(もみじがり)」という和菓子を見つけた。胡桃の生産量が日本一の長野県内で作られている。

 胡桃と蜂蜜を主に、いろいろな材料を混ぜ合わせ、固めて作られている。見た目は落雁(らくがん)のようにも見えるが、材料の多彩さが複雑な味を醸し出している。食感も、和三盆の落雁よりも歯ごたえがある。

 それにしても、「紅葉狩」という名前は、どこから来たのだろう? お店に聞いてみたが、先代が、能「紅葉狩」から付けたという以外は解らなかった。現物を前にして、あれこれ考えてみたが、姿形や味と名前は結び付かない。

 一つ思い付いたことがある。今は外国産の胡桃も流通しているが、日本の自生種の代表は「オニグルミ」。お店に確認したら、やはり「オニグルミ」を使っていた。「紅葉狩」で、平安時代の武将・平維茂(たいらのこれもち)が戸隠山の山中で出会い、戦うのは「鬼女」。「オニグルミ」と「鬼女」を掛けて名付けたのではないだろうか。

 かつて、日本人は、こういう言葉遊びを楽しんだものだ。(横浜能楽堂芸術監督)

<卯月堂(うげつどう)> 長野市南県町653の2=(電)026・234・0884。9本入り756円。

信州・戸隠山を舞台にした能「紅葉狩」。観世喜正(観世流)=撮影・神田佳明


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