青森の「ねぶた」、秋田の「竿燈」、仙台の「七夕」、東北を代表する夏祭りです。しかし、ことしは新型コロナウイルスの感染拡大でいずれも中止。祭りのない夏は、地域の経済にも大きな影を落としています。この“空白”を埋めるべく、青森県では、オンラインも活用しながら情報発信が続けられました。来年以降は必ず、“じゃわめぐ”(津軽弁で、心がざわざわする、血が騒ぐの意)夏を取り戻したいという強い思いを抱えながら。(青森放送局記者 佐野裕美江)

ねぶたのない夏…

8月3日、例年であれば大勢の市民や観光客でにぎわう青森市の中心市街地。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、夏場の最大のイベント「青森ねぶた祭」が中止になり、桟敷席や出店などのない通りは閑散としていました。

仙台市に本店がある七十七銀行のシンクタンクは、「青森ねぶた祭」や「仙台七夕まつり」など東北の主な16の祭りが中止されたことによる経済的な損失は、製造業など関連産業への波及効果も含めると2600億円以上になると試算しています。

このうちのほぼ半分、1200億円以上を青森県が占めています。「青森ねぶた祭」のほか、「八戸三社大祭」など集客力がある祭りが多いためです。

田口さん
「夏祭りは夜間に行われる山車の運行などを見るために、宿泊の需要も桁違いに多い。ホテルやバス会社、土産物の製造などは地元資本が多く、観光は県外からの“外貨”を稼ぐことのできる数少ない産業であるだけに、ダメージは大きい」

また、長く厳しい冬を過ごす青森の人たちにとって、夏祭りは冬を乗り越えるための原動力になっていると言っても過言ではありません。それだけに、祭りの無い夏は、地元の人たちにとって、経済的な影響にとどまらないダメージがあるといいます。

熱い夏を取り戻したい!

そこで立ち上がったのが、県内各地の夏祭りをオンラインで楽しもうというイベントです。企画したのは青森の活性化に取り組む団体の代表を務めている後藤清安さん(49)です。

後藤さん
「県内の人たちが1つになって元気になりたい。そして、帰省できない青森出身の方たちともつながって、これまでにないくらい熱い夏にしたかった」

後藤さんたちは、ねぶただけでなく、県内各地で開かれている夏祭りをオンライン会議システムや、動画投稿サイトを通じて、基本的に無料で各地からライブ配信する取り組みを始めました。

オンラインであれば、見物客が密集せず感染拡大を防ぐことができるうえ、どこにいても青森の夏祭りの雰囲気を楽しめます。運営には70以上の団体、総勢約500人が関わりました。

名だたる祭りが大集結!

この企画には、県内の名だたる祭りが大集結。五所川原市の「五所川原立佞武多」(たちねぷた)もその1つです。

売り物である、高さ20メートル以上、重さ20トン近くある大型の山車「立佞武多」をドローンで撮影した迫力ある映像が披露されました。

また、立佞武多の制作者が山車の中を案内。山車の中に設けられたはしごを駆け上り、鮮やかな色彩を出すため電球の微妙な色の違いにまで気を配っていることや、クレーンも使って山車を組み立てていくことなどを紹介しました。

オンラインだからこそ可能なサービスです。

広く知ってもらう機会にも

この機会を活用して、地元に伝わる貴重なお祭りを広く知ってもらおうと考えた人もいました。マグロで有名な本州最北端の町、大間町の地域おこし協力隊として活動する、中国出身の許文茜さんです。

毎年7月の海の日にあわせて大漁などを祈願する「天妃様行列(てんぴさま)」というお祭り。天妃様は、中国を起源とする海上守護の女神で、東北地方では大間町だけにまつられています。

ことしは中止になってしまいましたが、許さんは、地元の高校生に依頼して、人形たちが天妃様のまつられている神社の境内を練り歩き、祭りの行列の一部を再現。その様子をオンラインで発信しました。

許さん
「これからも国内、そして世界の人たちにどんどん天妃様のことを発信したい」

“新たな収益モデル”の可能性

結局7月末から8月にかけての3日間で配信された映像は、延べ60時間近く、海外からも含めて5000人以上が祭りを満喫したということです。

「実際に見てみたくなりました!!」
「ふだんならいっぺんに青森のお祭り見られないからありがたいです」
好意的なコメントも多く寄せられました。

今回の取り組みでは、運営資金を確保するため、事前に一定額を支払ってもらい、地元のお酒やりんごジュースなどを返礼品として送る企画のほか、祭りを楽しんだ人に、オンラインで“投げ銭”ができるシステムも取り入れ、合わせて100万円以上が集まったということです。

銀行のシンクタンクの田口さんは、質の高いコンテンツを提供できれば、新たな収益モデルとして期待が持てるとしています。

田口さん
「オンラインを活用したイベントは、まだはしりで、お金を落とすことに抵抗がある人もいるだろう。今後はリアルな祭りと、5Gなどデジタル技術を活用して臨場感あるバーチャルな祭りの2つを同時に提供できれば、選択肢が大きく広がってくる。アイデアと工夫次第で、こうした取り組みがビジネスとして成立する可能性もある」

新しい祭りの在り方は

4年前、新人記者として青森に赴任した私も、夏が近づきねぶた祭に向けて稽古するお囃子が聞こえてくると、“じゃわめぐ”ようになっていました。

そんないつもの青森の夏がなくなってしまったことし。こうした中でも、新しい祭りの在り方を懸命に模索する人たちを取材し、光明もみえました。

来年はいったいどんな祭りになるのか、観光業はそのすそ野も広いだけに、しっかりと見守っていきたいと思います。

青森放送局記者
佐野裕美江
平成28年入局
青森放送局で経済担当を経て、現在は本州最北のむつ支局で勤務
幼い頃から音楽好きで最近は囃子に注目

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