ちょうど一か月前の6月17日(水)宮城県を中心に目撃された「謎の気球」騒動がありました。

 その正体は未だに判っておらず、その後、宮城県総務部危機対策課から「所有者・目的などは不明」との取りまとめがなされたことから、この件はやがて人々の記憶から忘れさられていくと思われるので、私自身の取材から今まで指摘されていなかった新たな可能性を探ってみました。

 まず確認しておきたいのは、当日の日の出(仙台)は午前4時13分で日の入りは19時4分。昼間の時間が長く、しかも朝から快晴で気球を打ち上げるには申し分ない天気でした。さらにこの時期は上空の風も比較的弱い。このことから、この気球は偶然に飛んだものではなく、誰かが目的を持って飛ばしたものだと推定されます。

当時の状況

宮城県総務部危機対策課より提供していただいた文書

 宮城県危機対策課から送って頂いた文書「未詳の浮遊物体に関する情報への対応」によると、

6月17日早朝から16時にかけて、気球状の浮遊物体が、蔵王町周辺から東方面に移動し、最終的には太平洋上で所在不明となった。気球状の物体は、高度3000m以上(2万4千メートル以上とのSNSによる報告もあり)を浮遊しており、県内だけではなく、福島県からなども観測可能であった。また、物体には十字型の部品が付属しており、2基のプロペラが付属している。

とあります。県の発表には「未詳の浮遊物体」とありますが、映像を見る限りゴム気球でほぼ間違いないでしょう。ここで私が注目したのは「上空の風の流れ」「滞空時間の長さ」です。

当日の天気を振り返る

仙台におけるウィンドプロファイラ(ウェザーマップ)を赤丸で加工 茶色に色付けされている部分は西風のエリア 色が濃いほど風が強く吹いている
仙台におけるウィンドプロファイラ(ウェザーマップ)を赤丸で加工 茶色に色付けされている部分は西風のエリア 色が濃いほど風が強く吹いている

 上の図は、気象の専門家が見る高度別の風向風速を表した図です。この図から、どの高度でもほぼ一日中、西風が吹いていたこと、特に文書に記載のあった上空3000メートル付近は風速15m/s(時速54キロ)前後の風が吹いていたことがわかります。

 文書によると、朝8時前後に仙台市南西上空にあった気球は15時40分に石巻南方海上で雲の中に消えたとのことです。発見現場からの移動距離はおよそ60キロ。7時間以上かかって60キロですから、時速10キロ以下、秒速にすると約3メートルと実際の風速よりかなり動きが遅い。つまり、この気球が何時間も風に逆らって狭い範囲に留まっていたことになり、だとすると明らかに何らかの動力が必要ではと推測されるのです。

ラジオゾンデとノンリフトバルーン

観測気球(ラジオゾンデ) 気象庁提供
観測気球(ラジオゾンデ) 気象庁提供

 

 次に「滞空時間の長さ」についてです。

目撃後、多くの方が指摘した気象用観測気球(ラジオゾンデ)の可能性は低いと私は考えています。というのも、気象用観測気球の上昇スピードは5~6m/sと速く、わずか100分で上空3万メートルにまで達します。打ち上げ時は直径1.7メートルくらいですが、3万メートル上空では直径8メートルにもなり、そこで破裂するように出来ています。3万メートルと一口に言いますが、実に富士山の8倍の高さです。

 観測気球というのはわずか1時間40分くらいでその高度に達するのです。つまりすぐに目視できなくなってしまうはずですが、今回の気球は普通の気球に比べて長時間目撃され続けました。

そこで私は「ノンリフトバルーンなのでは?」と推測しました。

 ノンリフトバルーンとは特殊な気球で、煙の拡散など一定の高さの風を観測するために作られています。この時、気球がどんどん上昇してしまうと調査にならないので、周囲の気圧と同化させ、同じ高度を長時間浮遊するように気球内の圧力を調節したものです。

 実際にこれを作っている(株)気球製作所の方に話を伺ってみると

「ノンリフトバルーンはビニール製(ポリエチレンフィルム)のために伸縮することができず、高さ3000mくらいで必ず破裂してしまいます。現在高度1万メートルまで飛ぶものを作る技術はありません」とのこと。

 しかし、謎の球体は1万メートル以上に上昇したとも言われており、これでは説明が付きません。

 以上のことから、私はもう一度「気象用観測気球」の可能性を考えてみました。

 気象用観測気球の特性は「破裂せず高い高度まで飛べる」ことです。それはこの気球がゴム製だからです。ゴム製だからこそ上昇するにつれて気球が膨張し、3万メートルの高度にまで到達することができるのです。(最近では特殊なポリエチレンフィルムで5万メートル以上まで上昇する気球もあります)

 ではもし、ゴム気球なりその他の素材で長時間一定の高さを飛んでいられる気球があったら、しかもドローン機能までついていたら、画期的ではないでしょうか。

私の推論

 まず、手の込んだイタズラと考える事ができます。しかしこの場合も、気球の高度調整とか大量のヘリウムガス(水素ガス)の入手が必要で、相当程度の知識がある人でしょう。また外国からの飛翔説も、気球が奥羽山脈を越えてくる必要があり、ほぼありえません。

 では何なのか。私は太陽光ドローンと低高度の位置を保つノンリフトバルーンを組み合わせた「ハイブリッドバルーン」だったのではと考えています。

 ドローンに気球を組み合わせた機材は、調べた限りでは現在まだ製造されていません。しかし、ドローンと気球(ノンリフトバルーン)を組み合わせると、太陽光パネルを使って長時間観測が可能になります。

 

 仮に誰かがそのドローンのついたゴム製の気球「ハイブリッドバルーン」の開発・実験をしていたとします。当初は制御できていたものの、ヘリウムガスの入れすぎなど何かのトラブルで失敗し、高度が予想より上がって制御が不能になったとします。それでも太陽光パネルがあるので電気は作動、プロペラも回転していたので風に逆らって比較的長い時間、東北地方上空にとどまっていることができた。その後、高度1万メートル以上の偏西風に流され、宮城県の東海上沖で破裂、墜落。あるいは、ゴム製だったので破裂せずにガスが抜けて萎んで落下。

 

 というのが私のシナリオです。もちろん秘密裏の開発でしょうから、名乗りでることもできなかったのでしょう。

 真偽は闇の中ですが、いずれゴム気球とドローンが合体した観測機器が発明されることになるかもしれません。

※ノンリフトバルーンは「無係留気球(ロープなどで地上から繋がれていない気球)」の一つ

参考

株式会社気球製作所

JAXA宇宙航空研究開発機構 発表資料 超薄膜型高高度気球による世界最高気球高度の記録


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