東日本大震災から10年が経とうとしているなか、福島県双葉郡広野町で、“ふるさとの発掘”をテーマにした展覧会が、2021年1月31日(日)まで開催されます。
浜通りには、長期間にわたる避難生活、高齢化、風評被害、市町村ごとの復興状況の格差といったいくつものハードルによって、見えづらくなっている地域の魅力や文化があります。そんな地域の暮らしや、そしてこれからの地域社会に必要なものを、3つのプロジェクトから再発見しようと試みる展覧会です。
3つの取り組みに共通するのは、福島の長い歴史を紐とき、土地に根付いた営みや文化に寄り添いながら未来を考える姿勢。多くの人にとって帰りたくなる場所としての「ふるさと」の姿とは?

福島県の一番東側、海に面したエリアである福島県浜通り中部に位置するのが、広野町です。福島県の東側の玄関口である広野は、東北地方で一番最初に春が訪れることから、町のキャッチコピーは「東北に春を告げるまち」。

広野町は、東日本大地震の翌日に自主避難勧告、翌13日に町避難指示が出され、町民は一時的に避難を余儀なくされました。そして、着の身着のまま、さまざまな地を転々とし、多くの人々が避難所で生活する日々が続きました。その後、同年9月30日に避難解除。他の浜通り地方の中では早いタイミングで住民がまちにもどってきました。

震災前に約5500人いた住民は、2020年1月現在、人口は回復しているものの、当時人が集まっていたお店は閉店を強いられたり、残ったお店も担い手が不足していたりするなど、課題も抱えています。
そんな状況のなか、まずは人が集える拠点となるような場所がほしいという思いから誕生したのが、多世代交流スペース「ぷらっとあっと」です。

かつて、住民の生活を支え、多くの人々が集まっていたスーパーマーケット跡地の前に、「ぷらっとあっと」が誕生した。写真:今津聡子

「“プラットフォーム”になるような、“ぷらっと”来ることができる場所をつくりたい」という思いが込められた「ぷらっとあっと」のプレオープニング記念展覧会として開催されるのが、「Excavating Home-Land −ふるさとを発掘する−」(〜1月31日(日))です。

展覧会のテーマは、“ふるさとの発掘”。長きにわたり受け継がれながらも、忘れられかけている地域の暮らしや魅力、これからの課題を「発掘(=再発見)」するための視点が、3つのプロジェクトを通して映し出されます。

“見えにくい災害を、かたちにする。

原発事故災害は、天災とは異なり、何が起こっているのかが分かりにくい災害です。その目に見えない災害の全体像を掴み、人や住まいの移動の変遷を「地図化」することによって「見える」ものにし、記録として残すこと。それが、今回の展示プロジェクトのひとつ、「福島アトラス」の目的です。

避難区域の変遷。/『福島アトラス01──原発事故避難12市町村の復興を考えるための地図集』より

「福島アトラス」は、行政的な避難を強いられた12市町村を対象に、人と帰還の移動、移動にかかわる住まいなどを調査し、その記録を5回にわたり小冊子にまとめ刊行してきました。

左から、『福島アトラス01 ──原発事故避難12市町村の復興を考えるための地図集』、『同02 ──避難社会とその住まいの地図集』、『同03 ──避難12市町村の復興を考える基盤としての環境・歴史地図集(小高)』(2018年)、『同04── (津島・葛尾・都路)』(2019年)、『同05 ──(飯館)』(2020年)。

2017年、最初に発表された『福島アトラス01』は、大きくは2つのパートに別れています。ひとつは、避難区域、幹線交通網や商業施設の稼働状況、医療・福祉施設の開業状況や小中学校の再開状況などが、どのように推移し、変化したかを示した地図で示す「全域アトラス」。
もうひとつは、福島第一原子力発電所の事故により避難を余儀なくされた12市町村の住民の人口の変遷や復興の経緯を表す地図やグラフを配した「市町村アトラス」。
ここから、震災から6年間の、避難状況や除染や復興の動向、被災地の地形や歴史の全体像を掴むことができます。

自治体役場機能の移動を地図化したもの。避難指示により、役場を移動せざるえない状況にあった。現在も元の場所に戻っていない役場がある。/『福島アトラス01──原発事故避難12市町村の復興を考えるための地図集』より。

さらに、2018年に発表された『福島アトラス02』では、住民らがさまざまな地域に避難する動きそのものを固有の社会と捉え「避難社会」と名付けています。一つの場所に着地することなく、個人や家族それぞれの事情によって多様に折れ曲がる糸のような避難の軌跡は、まさに空間を失った一つの社会。これも、見えない災害の一つのかたちです。

ある家族の全移動経路。別れつつ進む軌跡と、避難の“住まい”を描いたイラストを組み合わせている。/『福島アトラス 02 ──避難社会と住まいの地図集』より。

『福島アトラス03』(2018年)以降は、各地の住民へのインタビューを通して、その土地のかつての生活や、自然環境、歴史文化を地図化した。

今回の展示では、これらの小冊子で発表された地図やデータをもとに、最新号である『福島アトラス05 ──飯館村の環境世界』の内容を中心として、立体的に福島の現状を伝え、ふるさとを語り継ぐためのアイディアが紹介されます。

これらの地図やデータは、震災を境に途切れてしまった町史を再びかたちにして後世に受け継いでいくためのものでもあり、また、町単位ではなく地域を横断的に俯瞰して見ることで、共通のアイデンティティを持った地域同士の、縦の関係性を繋ぎ合わせるものでもあります。

震災前・後ではない、
長いまなざしで見た福島の価値を継承する

その他にも、「Excavating Home-Land −ふるさとを発掘する−」では、2011年から活動を開始し、フェスティバルを通じて、福島の“今”と“これから”を全世界へ向けて発信する「プロジェクトFUKUSHIMA!」を紹介。
震災以降、多くの被災地で「お祭り」の存在が危ぶまれてきました。そんななか、広野町に伝わる「広野音頭」と、浜通り・中通りに伝わり、それぞれの地域によって少しずつかたちを変えながら守り継がれてきた「相馬盆唄」の2曲を、大友良英氏率いる大友良英スペシャルビックバンドの演奏で録音。展覧会では、録音したばかりの音源を流して「広野音頭」の振付映像を撮影するブースを設けるほか、活動のアイコンとなっている「福島大風呂敷」の展示や、これまでのプロジェクトFUKUSHIMA!の活動が紹介されます。

その土地で歌い継がれ、踊り継がれてきた音楽には、一度は散らばってしまった住民も一つにしてくれる力がある。地元の唄い手や踊り手が音楽を通じて一つになる姿からは、そんな希望を感じ取ることができるはずです。

さらに、もうひとつの展示では、2011年より活動を開始した、千年単位の長期持続地域を認証する活動団体「千年村プロジェクト」からの認証に向けた、浜通り地域における地域活動の経緯を紹介。この地域で1000年前から人々が住み続けてきた風景が色濃く残る場所を調査した映像や、長い歴史に裏付けられた地域の歴史や営みを発見する視点や方法を紹介する映像が展示されます。つい見過ごしてしまいそうな土地の風景にも、そこに長らく人が住み続けてきただけの理由がある。震災前・後という見方ではなく、1000年という長いスパンで土地を捉える視点は、ここ福島県浜通り地域だからこそ、改めて土地が持つ普遍的な価値を再発見する新しいまなざしを教えてくれるかもしれません。

福島県・広野町上北迫代。河岸段丘沿いに民家、段丘の上に林地、低地に生産農地があり、古くから人々が住み繋いできた様子が風景の中に現れている。

編集協力:早稲田大学ふくしま広野未来創造リサーチセンター


クレジットソースリンク