「外国人の人権が守られない状況が続けば、日本はいずれ海外から見限られる」と警告する指宿弁護士=東京都新宿区で

 労組役員、16回の不合格。46歳で弁護士になった指宿昭一さん(58)は異色の経歴を持つ。弁護士として一貫して関わってきたのが外国人問題だ。時給300円、長時間労働、過労死、雇用主からの性暴力…。コロナ禍の今、問題はさらに大きくなっている。指宿さんは「これは日本に生きる全ての人に関わる問題。外国人の生存権を保障せず、問題を放置し続ける国に未来はない」と断じる。 (安藤恭子)

 指宿さんは筑波大卒業後、労働組合役員として、中国残留孤児と家族の支援にも取り組むかたわら、弁護士を目指した。十七回目の挑戦で司法試験に合格した。二十代の女性ら中国人技能実習生四人が、未払い賃金支払いを求めた二〇〇七年の事件。これが弁護士としての初仕事だった。

 四人が働く縫製会社のある岐阜県に指宿さんは通った。工場の二階にある寮には冷たい風が吹き込み、ペットボトルを湯たんぽにして暖をとっていた。

 休日は数カ月に一日程度で、残業時給は三百〜五百円。母国で借金を背負い、帰国もできない。実習生は「徹夜で働かされ、休みたいと言っても『若いうちは苦労するものだ』と断られた」と嘆いていた。別の工場に働く女性は「生理が止まってしまった。帰国しても、子どもが産めるような健康な体に戻れるだろうか」と涙を流した。

 裁判所に労働審判を申し立て、会社側が未払い賃金を支払う調停が成立。「日本は怖い国だけど良い人もいると分かった」と笑顔を見せる実習生たち。指宿さんには気掛かりがあった。「彼女たちの残業時間は月二百十九時間に達し、過労死ラインを軽く越えていた。すでに技能実習生の死者が出ているのではないか」

 予感は的中した。

 〇八年六月、茨城県のメッキ工場で働いていた中国人実習生の男性=当時(31)=が、急性心不全で死亡した。日本にいる親族から相談を受けた指宿さんは、中国の両親や妻を説得。遺体を行政解剖して死因を確認し、タイムカードの写しから会社の「残業隠し」も暴いた。一〇年に外国人実習生で初の過労死による労災認定がなされた。

 雇用主からのセクハラや性暴力を訴える女性実習生の事件も受け持った。ただ、強制帰国を恐れ、大半の被害は表に出ない。「人権侵害とブローカーによる中間搾取なくして成り立たない技能実習制度は廃し、韓国のように二国間協定に基づき、政府が求人・求職を行う制度に変えるべきだ」と指宿さんは訴える。

 指宿さんは出入国在留管理庁の施設に収容された外国人の支援もしている。コロナ禍の今、定住外国人の間に「ジャパンリスク」という考え方が広がっている。入国制限で日本で働けなくなる危うさを表す言葉というが、指宿さんは広く日本で暮らす外国人のリスクととらえる。

 指宿さんは「日本での生活基盤となる外国人の在留資格は、広く法務大臣の裁量に委ねられ、非常に不安定だ」と指摘する。例えば、同じように観光ビザで出稼ぎに来て、在留特別許可を得られる人もいれば、入管に収容され地獄を見る人もいる。「そして、在留資格の方が外国人の人権よりも上にあるというのが、この国の司法判断だ。外国人を敵視し、排除しようという排外主義が根底にある」

 指宿さんは、現場での奮闘をつづった初の単著「使い捨て外国人−人権なき移民国家、日本」(朝陽会)を出版した。この本には「外国人の人権を守らない国で、他の労働者の人権が守られるわけがない。外国人労働者の問題は、決して特別な問題じゃないと知ってほしい」という指宿さんの願いがこもっている。


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