駐車場になった築地市場跡地。右奥は豊洲市場=12日、東京都中央区で、本社ヘリ「まなづる」から

 東京都営地下鉄大江戸線の築地市場駅を降りると、見上げるばかりのフェンスが続く。二〇一八年十月の「日本の台所」の豊洲移転で東京ドーム五個分の更地が生まれた。東京五輪・パラリンピックで車両基地に使われた後、再開発されることになっているが、都知事選では、築地市場跡地の将来像を巡る具体的な議論には至っていない。 (浅田晃弘)

 「意味不明、曖昧なものに変節した」。一九年三月の都議会経済・港湾委員会。築地再開発について、小池百合子都知事は、江東区選出の山崎一輝氏(自民)から「公約違反」と追及された。

 都が公表した築地市場跡地の再開発方針に、小池氏が掲げた「食のテーマパークを有する市場」の文言が入っていなかった。説明を求められ、異例の委員会出席に応じた小池氏は「基本方針は何も変わっていない」と繰り返した。

 構想は一七年六月に発表された。不十分な土壌汚染対策などを理由に延期していた、豊洲市場への移転表明とセットだった。

 築地には「食のテーマパーク」となる商業施設を整備する。競りができる市場機能を残し、豊洲に引っ越した業者も戻ってこられるようにする。豊洲は物流センターとしても活用を図る…。豊洲(移転)か、築地(再整備)かが争点となる中での両立案。小池氏は「築地は守る、豊洲を生かす」と強調した。「食のテーマパーク機能を有する新たな市場として東京をけん引する一大拠点とする」

 一六年七月の知事選で、豊洲移転を「立ち止まって考える」と訴えてから一年になろうとしていた。自民党都連が「決められない知事」のレッテル貼りで攻勢をかけていた。発表は、自らが率いる都民ファーストの会が候補者を大量擁立した都議選の告示三日前だった。

 都の市場問題プロジェクトチーム(PT)専門委員を務めた後、築地再整備を訴えて都議選に出馬した一級建築士の森山高至さん(54)は「都庁内で深く検討された形跡がない。選挙前の拙速な案だった」と指摘する。

 産地直送の取引が増え市場の取扱量が減る中で二つの市場が成り立つのかという疑問、豊洲に開業予定の観光施設と競合する懸念が広がった。

 一九年一月に都が発表した築地再開発方針は、国際会議場が核の「MICE(マイス)」と呼ぶ計画だった。「食文化を生かす」とはあるが、具体的にどうするかは書いていない。築地市場の復活に期待を寄せた人たちの中からは「裏切られた」という声も出た。

 「まだ夢を持っていいと思っている」。市場移転に慎重な仲卸業者のグルーブの代表だった水産加工食品の仲卸「関富」社長の関戸富夫さん(71)は言う。

 豊洲移転前、小池氏に計画見直しを求める要望書を届けた。過去の知事には、門前払いされて悔しい思いをしてきた。「利権がからむ話、圧力もある中で小池さんが築地をよくしようとしていたのは間違いない。方針に『食』の言葉が残っている以上、期待する」

 跡地のこれからが、地域の命運を左右する築地場外市場。「東京アラート」が解除されて初の週末となった十三日、雨の路地を歩くと傘がぶつかった。観光客風の外国人やグループはまばらだが、個人の買い物客は戻りつつあるようだ。

 築地場外市場商店街振興組合理事長で老舗鶏肉店「鳥藤」会長の鈴木章夫さん(72)は「プロの買い出し人が集まる『築地ブランド』は健在」と自信を見せる。「『食』と関係がないまちづくりはありえない」

 市場移転問題に続き、跡地利用の議論が政争の道具にされることが心配だ。「一部の人間で計画するから『こんなもの作りやがって』となる。まちづくりは、まちのことを知っている住民と進めないと。小池さんは、そこが弱いんだよ」

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 七月五日に投開票される都知事選。注目される新型コロナウイルスや東京五輪・パラリンピックへの対応だけでなく、子育てや災害対策、貧困問題、中小・零細企業の疲弊など、都政の課題は山積する。都内各地の現場を歩いて取材した。


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