衆議院選が公示された19日午前。岸田文雄首相は福島市土湯つちゆ温泉町で第一声を上げた。福島市の中心街から車で30分弱の山間部。1400年を超える歴史と「日本三大こけし発祥の地」として知られる県内有数の温泉郷を、なぜ第一声の場所に選んだのか。

岸田文雄首相が衆議院選の第一声を上げた福島市土湯温泉町。1400年以上の歴史があるといわれる温泉町で、江戸時代から続く土湯こけしが有名

 地元の和食料理店で働く伊藤武さん(66)は、仕事前に演説を聴きに来た。「第一声でなんで土湯に来たんだろうと思った。でも1年前にも来たからかな」

◆昨年の自民党総裁選で訪れていた

 自民党県連によると、昨年9月の自民党総裁選時、政調会長だった岸田氏がコロナ禍で苦しむ観光地に行きたいとして、土湯温泉に来訪している。観光業で成り立つ土湯は原発事故に加えて、コロナ禍で苦しむ。

 伊藤さんは「原発事故後、客は2割を切った。少しずつ回復して3割を超えたかなというところでのこのコロナ…。先行きが不安」と話した。

 福島市の統計によると、土湯温泉町の人口は300人弱。65歳以上の高齢化率は5割を超えている。2011年3月の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故後、温泉旅館が苦境に陥り、5軒が廃業した。

 温泉旅館で長年働いてきた渡辺喜美子さん(84)も「なんで土湯か分からないけど、土湯は観光業で成り立っているから心に入れていてくれたんじゃないか。震災もそうだけど旅館はコロナでお客が激減。総理が来てくれたのはうれしい」と笑顔を見せた。

衆院選の第一声を福島市土湯温泉町で上げる岸田文雄首相。地元の人たちなど300人が集まった

◆第一声は人口の多いところですると思うが…

 福島第一原発から15キロほど離れた楢葉町。原発事故の避難指示が解除された太平洋沿いの浜通り地域としては住民が比較的多く住む。住民登録者の6割が暮らすこの町でスーパーを経営する元畜産業の根本信夫さん(84)も「なぜ土湯か」と首をかしげる。「首相に就任後、福島第一原発や周辺の浜通りの町に来てくれた。第一声は、人口の多いところとか、支援者の多いところですると思う。なぜ土湯かはわからないが、第一声を浜通りであげるかあげないかは関係ない」

 根本さんは、菅政権が決めた帰還困難区域の避難指示解除方針について「希望者の家周辺など一部を除染して帰すのは、当初の約束と違い許されることではない」と批判。「自民党内で原発事故収束に向けて軽々しく考えているとは思いたくない」と訴えた。

◆安倍元首相は震災後、4度の国政選挙全て福島から

 震災以降、安倍晋三元首相は13年の参院選、14年と17年の衆院選、19年の参院選と4度の国政選挙で、原発事故の被災地である福島で選挙初日を迎えてきた。岸田首相も、それにならったといえる。

 自民党県連の深谷哲郎事務局長は「総裁から聞いたわけではないが」と前置きし、こう推測した。「福島の復興はまだまだということで福島で第一声を上げたと思う。土湯にしたのは、総裁選の時に訪れたことがあることや、コロナ禍で打撃を受けた観光経済を立て直したいというメッセージを伝えるためにも、不便な場所ではあるが、温泉地を選んだのではないか」(片山夏子)

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