にぎわいが消えた熱海駅前の商店街=7月13日、静岡県熱海市で

 七月六日、私は熱海にいた。就職活動で静岡県伊東市にある会社を受験するためだった。

 熱海市の伊豆山地区で大規模な土石流が七月三日に発生してから七十二時間が経過しようとしていたころだった。乗り換えのために熱海駅に降りると、何やら駅前の様子がおかしい。駅前に集まるテレビカメラ、全国から派遣された自衛隊車両、報道陣に貸し切られ捕(つか)まらないタクシー。

 そこは「観光地・熱海」ではなく「被災地・熱海」だった。静岡県の高校に通っていたため、熱海には家族や友人と何度も訪れている。一カ月前に訪れた時も、駅前にはたくさんの観光客がいた。目の前の光景は、私の知っている熱海ではなかった。

 熱海駅から徒歩五分の干物店に立ち寄った。店員さんが気さくで、カウンターに設置されたテレビを見ながら談笑した。土石流のニュースに変わった時に、店員さんがポツリと「いまだに信じられない。一つ山を越えた先の出来事なのに、何もできないのが歯がゆい」とこぼした。伊豆山地域には何人も知り合いがいるという。東北の地震や九州の豪雨など見てきたが、まさか自分の住む地域が被害にあうとは思いもしなかったという。

 地震や豪雨などの被害が起きるたびに、私たち人間は自然には敵(かな)わないという現実を突きつけられる。私たちにできることは、いつか起こる災害に備えて準備をすることだけだ。

 翌週、干物店のインスタグラムには義援金募金を始めたという投稿がされていた。熱海の日常が一日でも早く戻ることを祈りながら「いいね」を押した。(専修大文学部四年)

クレジットソースリンク