横浜市に日程を調整していただき、インタビューに行って来ました。当ブログの読者の皆さんもお知りになりたいであろう、「リリース文書の『行間』」をできるだけお訊きしてみたかったので……。

画面左上から右下に走るのはJR根岸線。中央やや右下が横浜スタジアムで、その左隣りの縦長の建物が横浜市庁舎だ。スタジアムの海側の端には神奈川県庁も見える。

まずは連携協定を知らせる横浜市の文書の冒頭を見てみましょう。

このたび、横浜市、株式会社 e-Mobility Power(以下eMP)※1 は、令和2年3月 17 日、「横浜市内のEV 普及促進に向けた連携協定」を締結しました。本協定により、市内で電気自動車・プラグインハイブリッド車(以下総称して「EV」という。)に乗りやすい環境整備や、充電インフラ※2 拡大に資する新たな仕組みづくりに積極的に取り組んでいきます。市内の EV 普及に寄与することを目的に、充電インフラを拡大し、「Zero Carbon Yokohama」や将来的な日本の EV 社会を見据えた「次世代自動車※3 先進都YOKOHAMA」を共に目指します。

※1 東京電力ホールディングスと中部電力が次世代自動車を支えるために設立した共同出資会社です。電気事業で培ってきた技術やノウハウを活用し、充電器の設置や充電ネットワークの拡充ならびにサービスの提供を行います。
※2 一般開放されている充電器
※3 電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車

【関連記事】
『イーモビリティパワー』が目指すのは「便利な電気自動車充電インフラ」の実現(2019年12月17日)
速報:日本の充電器ネットワーク最大手NCSが解消へ(2019年8月29日)

横浜市の脱炭素化や次世代自動車振興を担うのが、市庁舎8階にある「温暖化対策統括本部」だ。

今回お話しをうかがったのは、発表された施策を担当する「横浜市温暖化対策統括本部」の「プロジェクト推進課」のみなさんです。

連携協定締結への流れ

これまでの流れを見てみましょう。横浜市は2018(平成30)年10月に、従来から進めてきた「横浜市地球温暖化対策実行計画」を改訂して、脱炭素化の実現に向け「Zero Carbon Yokohama」のスローガンを掲げました。地球温暖化対策やエネルギー施策を強化して、「持続可能(sustainable)な大都市モデル」を実現しようという方向です。

このなかで横浜市は、再生可能エネルギー資源を豊富に持つ「12の市町村」とのあいだで、「脱炭素社会の実現を目ざした再生可能エネルギーに関する連携協定」を結んでいます。再生可能エネルギーを連携して利用しようとするとともに、地域の活力を最大限に発揮する「地域循環共生圏」を実現しようとしてきました。

JR根岸線「関内駅」に隣接し、横浜スタジアムにも隣り合う横浜市の市庁舎。後ろに球場の照明塔が見える。
JR根岸線「関内駅」に隣接し、横浜スタジアムにも隣り合う横浜市の市庁舎。後ろに球場の照明塔が見える。

横浜市では「Zero Carbon Yokohama」の理念のもと、2050年までに「脱炭素化」を実現したいとしています。そのなかで重点政策として挙げているのが「低炭素型の次世代交通の普及」、つまりEV(電気自動車)とPHEV(プラグイン型のハイブリッド自動車)を普及させよう、というものです。

こうした政策をさらに進めるために、行政と民間が連携を取り、新たな事業機会をつくりだそうと作った窓口が「テーマ型共創フロント」です。今回はこの窓口を使って、民間である「e-Mobility Power(eMP)」と協定を結んだ、というのが経緯です。

連携協定の骨子と今後の具体的プラン

今回の協定で行う連携は、大きく分けて3つの骨子が挙げられています。

 

  • 横浜市内の「充電インフラの拡大」に関すること
  • 充電インフラ拡大のために「新たな仕組み作り」をするが、それに関すること
  • 充電インフラを活用した「街づくり」に関すること

 

 

横浜市役所に設置されている200V普通充電器。無料なのは有り難いが、残念ながら平日9:00-16:00のみで、1台しかない。しかし新市庁舎では急速充電器を含め、改善が予定されている。

では、3つの項目を具体的に見ていきましょう。eMPとの連携協定によって何が起こるのでしょうか。ここからは取材時のQAも含めてまとめてみます。

1. 横浜市内の「充電インフラの拡大」に関すること

横浜市は自家用車の数が比較的多く、EV化による環境負荷軽減が期待できる、としています。よって、EV化を促す充電インフラの充実が重要、と考えています。

市では、北部の「港北区」と「青葉区」にまず集中的に充電器を配置します。

港北区:新横浜駅前の空撮画像

【Q】どうして港北区、青葉区なのですか?

【A】横浜市の「集合住宅世帯の割合」は、2015(H27)年の国勢調査によるとおよそ60%です。港北区と青葉区を選んだのは、人口密度、自動車保有率、マンション数から考えて、EV/PHEV化のポテンシャルが高いと判断したからです。

青葉区:青葉台駅前のバスロータリー

市全域では、現在の「急速+普通の800基」ほどを、2030年までには3,000基まで増やします。

【Q】増やす充電器の内訳は?

【A】3,000基の内訳は、今のところの想定では「急速500基」と「普通2,500基」です。現在は充電器は「平方キロあたり2基」という計算になりますが、計画が完了すればこれは「平方キロあたり7基」まで上がることになります。

市では、海外の先進地を参考に、充電渋滞発生箇所や充電器空白地帯を「埋めて」いくとしています。なお横浜市では、区役所などに合計22基の無料充電器がすでに設置されています。

【Q】故障対応や保守はどうされますか?

【A】設置から故障対応、保守は設置者が担当することになっています。eMPさんが設置したものはeMPさんに担当していただきます。計画に賛同いただき企業や団体が設置してくださった場合は、そちらは設置企業・団体に故障対応・保守を対応していただきます。

【Q】「経路充電」、「目的地充電」といった充電形態から、充電器設置を分けて計画していますか?

【A】まだ、そこまではあまり手を付けられていません。目下検討している段階です。

「Zero Carbon Yokohama」も「次世代自動車先進都市 YOKOHAMA」も、この「横浜スマートシティプロジェクト」というグランドデザインの重要は柱を成している。これは、横浜市役所に掲げられている掲示。

2. 充電インフラ拡大のために「新たな仕組み作り」をするが、それに関すること

この項目では市は、集合住宅への充電器設置を進めるのと、「国内では設置事例のないような場所」のため、新基準の策定や規制緩和に取り組みたいとしています。ただ、まだ具体的に発表できる段階ではなく、各所と調整をしている段階だそうです。

筆者が思うに、たとえばマンションに充電器が設置された場合、それを区分所有者や住民だけが使う形を超えて、「一般の人にも使えるような形」にするとか。その際、管理組合にいくらかの支払いをすることが可能なのか、とか、そのためにどういった解決策が必要か、などを考えてしまいます。筆者の「夢」に過ぎませんが、ぜひ突破して実現して欲しいものです。

3. 充電インフラを活用した「街づくり」に関すること

市内の「防災拠点」や「観光地」には、「EVから電気を取り出す装置」や、「デジタルサイネージ機能を併せ持った充電インフラ」を設置するとしています。

前者はずばり、「ニチコンのパワー・ムーバー」でしょう。日産リーフなら、これを使えば4.5kW(100V)の電力を取り出すことができます。横浜市では2019年内にすでに、市の18ある区すべてに1台ずつパワー・ムーバーを配備しています。

【Q】「デジタルサイネージ」って、日産のディーラーで上映されているCM映像のようなものですか?(と、トボけて訊いてみました)

【A】いえいえ、充電器に「災害情報やニュース」を表示する機能を考えています。最近では自動販売機に小型の電光掲示板が付いていて、ニュースなどが流されていますよね、あのようなものです。
また、前述の「EVから電気を取り出す装置」は、各区にもう1台ずつ配備しようとも考えています。

横浜市では、また、市内で再生可能エネルギーで発電された電力を、EV/PHEVに充電して使ってもらう、いわば「再生可能エネルギーの地産地消」も計画しています。臨海部を中心に大型プラントがいくつもあり、河川もいくつも流れ、東京湾に面した長い海岸線を持つ横浜市ですから、太陽光・余剰熱エネルギー・小水力・風力・波力といったエネルギー源には事欠かないですしょう。開発できる自然エネルギー源は小さいわけはありませんよね。

Interviewer’s Take

今回のインタビューのなか、横浜市の担当者の皆さんがおっしゃった「『これまで国内には事例がないような場所』にも充電器を設置する」という言葉が、筆者には熱量を持って感じられました。こうした勘というか、皮膚感覚を感じられるのが、実際に取材に行く意義でしょうね。

この後は筆者の想像に過ぎませんが、ありそうなアイディアを書いてみます。「海外先進地の事例を参考にする」ということは……

【1】北欧の「ブロックヒーター」電源のように、道路沿いに設置する。パーキングメーターや照明柱、電柱と併設、というアイディアもアリでしょう。北欧では、冬期の厳寒のなか、ICE(内燃機関自動車)のウォータージャケット(水冷機構)が凍結するのを防ぐため、道路沿いに立つポールについている電源をICEを駐める時に繋ぐことが数十年前から行われています。この習慣が、北欧でBEV/PHVが普及する際の障壁を低くした、とも言われています。「駐めると繋ぐ」習慣が根付いていたのですね。

厳冬期に駐車中のエンジン凍結を防ぐ「ブロックヒーター(Vehicle Block Heater)」に電源を繋いである自動車のようす。北欧の道路沿いの「パーキングロット」には、内燃エンジンの「ウォータージャケット(水冷機構)」の凍結を防ぐヒーターへの電源供給のポールが装備されている。これに繋ぐ習慣があったお陰で、北欧では「駐めたら繋ぐ」の習慣があり、EV普及のバリアが低かったと言われている。

公有地ならまだしも、私有地や、さらに公道上に設置する場合は、様々な規制を解決する必要があるでしょう。複数の省庁などとの折衝も必要でしょうね。しかし、実現したら利便性は一気に向上します。

【2】個人所有の住戸の200V充電器にIoTメーターを設置し、空いているときはシェアできるようなシステムを推進する。ICTの進展に合わせて、空いている時間帯の駐車場を貸すようなサービスも増えてきています。それに充電を組み合わせるのです。

大都市東京のベッドタウンだけでなく、観光スポットも数多く持つ横浜市。そうした場所には「目的地充電」を、そして横浜に出入りするのに適した場所には「経路充電」として複数の充電器を備えた「充電ステーション」が理想的だと筆者は考える。前者だと、泊まってるあいだに200Vでじっくり充電が良いだろう。後者には、保土ケ谷などのような郊外の交通の要衝が最適と考える。(なお、この画像は筆者の願望? 妄想? に過ぎませんので、あしからず)

これも、規制やら法規をくぐり抜けるなど、解決すべき事柄は少なくないでしょう。

【3】テスラのスーパーチャージャーのように、「ここに行けば複数台の充電器があるので、まず充電できないことはないだろう」というような「充電ステーション」を作ってしまう。これは 「目的地充電」より、(a) 横浜市を訪れてくれる人たち向け、(b) 横浜市に来て帰る人たち向け、さらに (c) 横浜市から市外へ向かう横浜市民向けの「経路充電」としての効果が絶大だと考えられます。3つの利便性が向上しますね。

テスラのスーパーチャージャーが複数台設置された、謂わば「充電ステーション」の例。これだけあれば、充電渋滞はまず考えなくても良いでしょう。テスラの公式サイトから転載。

横浜市に観光に来た人が、買い忘れたお土産をこうした充電ステーションに併設された地元のお土産屋さんで買う、なんて愉しそうです。今回、著者も買おうと思っていた横浜銘菓「かをり」と崎陽軒の「シウマイ(シュウマイではない)」、アーモンドが中央に乗った同發の中華菓子「アーモンドクッキー」を、結局買うチャンスがありませんでした(涙)。

再エネ・EVを振興する横浜市を、EVsmartブログが取材するのですから、当然BEVで庁舎を訪れました。後ろ木々の向こう側は横浜スタジアム。

筆者の個人的意見としては、「空白地帯」があまりにも大きいなら仕方無いですが、「あまねく設置」するよりは、「経路充電」用に急速充電器を集中配置するとか、「目的地充電」用に宿泊地や観光地には200V充電器を大量に設置するとか、既存の考え方にとらわれない、ドラスティックな設置戦略を採るべきだと思います。

当たるかな……。筆者の予想に過ぎませんが、こうした充電形態も増えてくれば、EVで出かける障壁はどんどん低くなり、EVはどんどん普及して行くことでしょう。

三菱・日産合弁のNMKVが出すであろうと言われている「軽BEV」が「シティー・コミューター」として輝きを増すのも、こうしたインフラが整えばなおさらでしょう。横浜市の今後の動きに期待しましょう。そして、横浜市の取り組みを参考に、全国の自治体が後に続いてくれると嬉しいですね ♫

なお、現在、e-Mobility Powerにも取材・インタビューをお願いしてあり、調整中です。こちらも詳しく訊いてきますね 。 お楽しみに。

(取材・文/箱守知己)

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