ワーケーションパッケージ「ワーキング ヘルスケア プログラムMATSUE」のオンラインイベント「島根県松江市のアナザーワーケーション~体験者が語る『地域での“ワーク+コミュニケーション”』」が2月に開催され、実際に同プログラムを体験した人がプレゼンテーションを行った。

 このイベントは、ワーキング ヘルスケア プログラムMATSUEコンソーシアムの事務局である株式会社ワークアットの代表取締役社長CEOである林郁枝氏と、松江市役所の土江健二氏(産業経済部定住企業立地推進課)が参加。体験談を語るパネリストは、株式会社LIGのゲストハウスLAMP壱岐/支配人である勢古口光氏、LIGのウェブディレクターである渡邊麻依氏、日本キャリア・コンサルタント協会理事/デクスター合同会社代表の中島しのぶ氏。パネリストとモデレーターは、松江市内のそれぞれ別々の3カ所、愛媛県、長崎県壱岐市、東京からオンラインイベントに参加。また、イベントへの申し込みは60人ほどあった。

「ワーキング ヘルスケア プログラムMATSUE」とは?

 ワーキング ヘルスケア プログラムMATSUE(以下、プログラム)とは、松江市内で行うワーケーションのプログラムで、コンソーシアムの事務局は松江市役所。実際にプログラムを運営するのはワークアットで、参画団体には、ワークスペースにおけるネットワークのセキュリティ対策を行うサイバートラスト株式会社や、プログラム内で計測する各種データの分析を行っている島根大学などがある。

「ワーキング ヘルスケア プログラムMATSUE」の概念図。ワークアットと松江市が事務局としてプログラムを実施。そのほかに企業や団体と連携している

株式会社ワークアット代表取締役社長CEOの林郁枝氏

 このプログラムを実施する前段階として、2019年8月~12月に実証実験が行われ、2020年度からパッケージプログラムとして広く提供している。

 数多いワーケーションの中でも松江市のプログラムで特徴的なのは、ストレスや運動量などを測定し、ここで得られる効果が測定できることだ。これにより、ワーケーションの効果が客観的な数字として示される。

実証実験として行われた「ワーキング ヘルスケア プログラムMATSUE」の概要

松江市のサテライトオフィス誘致は約40社、「全国の市町村ではトップレベル」

 まずは、同プログラムを実施する松江市について、土江氏が同市の特徴や労働環境について説明があった。

松江市役所の土江健二氏(産業経済部定住企業立地推進課)

 松江市は島根県の県庁所在地で、人口は約20万人。松江市の中心部から車で西に30分の場所には出雲空港、車で東に45分の場所には米子空港が立地している。この2つの空港を合わせると、羽田便は合計で1日に11往復が運航しているため、首都圏とのアクセスは非常に良い。

 また、Rubyの生みの親であるまつもとゆきひろ氏が松江市内在住であることもあり、松江市はRubyを軸としたIT産業振興施策「Ruby City MATSUEプロジェクト」を進めている。このプロジェクトでは、学校での授業、オープンソースソフトウェアに関する研究や開発交流であれば無料で利用できる施設「松江オープンソースラボ」を開設している。

松江市周辺の衛星写真。中心が松江で、左右の赤いマークが空港。両空港を合わせると、羽田まで1日11便運航しているため、東京との往来は楽だ

 松江市では、企業誘致やサテライトオフィス設置の前の段階として、2017年から開発合宿などを実施しており、今までに25社32チームが参加した。

 その結果、現在では40社程度が松江市内にサテライトオフィスを開設している。「全国の市町村ではトップレベル」というほどの数だ。

松江市が誘致した企業やサテライトオフィスの一部。全部で約40社ある

ワーケーションプログラムの終了後も、効果が持続

 このプログラムは、企業向けと個人向けに提供されている。まずは、企業向けのプログラムを利用したLIGの勢古口氏と渡邊氏の体験談だ。

株式会社LIGの勢古口光氏。ゲストハウスのキッチンから参加している

 LIGは、さいたま市、長野県信濃町、京都市、広島市、長崎市、大分市、フィリピンに拠点を構えている。主な事業はウェブサイトの制作だが、ゲストハウスの運営、コワーキングスペース、地域創生にも取り組んでいるため、従業員が働いている場所や業種はバラバラだ。LIGは、全国の拠点から利用者を募りプログラムに参加した。

 LIGは、このように多くの拠点があるため、同じ会社の従業員が集まることは少ない。また、初めて会う人が多いという一般的な企業向けのワーケーションとは異なるケースだ。

 勢古口氏は「初めて会うメンバーも多かった。オフィスでは話さないような、自分の田舎の話など一人一人のバックグラウンドが聞けて面白かった」としている。

 渡邊氏は「心が豊かになった、安らかになったと言う感じもあって、港町も実家のような雰囲気でよかった」と話している。

株式会社LIGのウェブディレクターである渡邊麻依氏

 仕事の面では、勢古口氏は「普段の仕事と松江での仕事は違うが、5割から7割程度できた」という。ほかのワーケーションのプログラムは「仕事は3割程度」としているが、「松江では仕事に注力できたことになる」としている。

 渡邊氏は同じ場所に集まって仕事をするメリットとして、「一緒に参加したデザイナーに直接アドバイスをいただけた」という。

プログラムのモデルケース。3日間、午前9時から夕方まで仕事の時間が取られている

ワークスペースは充実している

(左)プログラムの特徴であるワークスペースのセキュリティ対策。ワークスペースのネットワークやWi-Fiにセキュリティ上の脆弱性がないか診断を行う。また、Wi-Fiからネットワークへの不正侵入やなりすまし、盗聴などの危険性がないか調査や改善を行っている。(右)宿泊施設における新型コロナウイルス感染症対策は徹底されている

 このように感じたプログラムだが、具体的にはどのような効果が現れたのだろうか。プログラムでは、松江に滞在する前からFitbitを着用。松江の滞在中と、その後の値を比較している。

 渡邊氏は、Fitbitの測定によりテレワーク時よりも松江でのプログラム参加時の方が多く歩いていることに気が付いたという。

 数値には表れない効果もあり、勢古口氏はプログラムで体験したヨガや瞑想は終了後も続けており、「日頃のストレスが“無”にできる。寝る前に10分程度、瞑想やヨガを行うと気持ちよく眠れる」というほどだ。

 これらの数値について林氏は、「怒り、うつなどのネガティブな気分は滞在中は低く、活力は上がっていた。想定していた『松江市に来るとストレスが減る』という結果になった」としている。

採取した唾液のアミラーゼを測定すると、ストレス度が分かる

アクティビティとして、今回はヨガとサイクリングも行われた

気分のプロフィール検査の結果。上段と中段はネガティブな気分の推移、下段はポジティブな気分の推移を数値化。島根に滞在中はネガティブな気分が低下した

(左)唾液アミラーゼの測定結果。(右)Fitbitによる睡眠の測定。睡眠の効率は上がり、中途覚醒の回数は減った

たくさんの観光地を巡りながらも、休暇と仕事が両立できた

 プログラムは、企業などの団体向けだけではなく、個人向けも提供している。この個人のプログラムに参加した中島氏は、観光と仕事の両立ができたとしている。

日本キャリア・コンサルタント協会理事/デクスター合同会社代表の中島しのぶ氏

 企業での参加ならば知っている人が多いが、中島氏は個人での参加のため知らない人ばかりだ。そのため、中島氏は「1人だけでアウェイだとどうしようか」という心配があったという。しかし、プログラムの参加前から運営関係者や参加者同士のオンラインでコミュニケーションを図り、親睦を深めるようになっている。

 このコミュケーションにて、出雲大社や美保神社、小泉八雲記念館、ボタンで有名な由志園など観光スポットの情報が収集できたとしている。

プログラムの前に寄った出雲大社

 このような中島氏だが、「一気に、松江ファンになってしまった」と語っている。プログラムでは、交流会も設定されており、地元や市役所の人も参加。「市役所の人や地元の人も参加するとは予想をしていなかった」という。

 これも個人が参加するプログラムのフォローということで、林氏は「個人向けパッケージは参加者の方がほとんど初対面となるため(プログラムの)前と後も大切にしている」という。

 プログラムでは、日本海が一望できる美保館に宿泊。1905年に建てられた本館は、国登録有形文化財に指定されている。このような美保館にも共有ワークスペースや各部屋にインターネット接続と電源など、必要な機材などが用意されている。部屋では集中をしつつ、気分転換に共有ワークスペースでほかの参加者との交流もあった。

宿泊施設の美保館。こちらでも快適にインターネットに接続できる

宿泊施設の1つの松江ニューアーバンホテル。湖を見ながら仕事のはずだったが、景色がいいため写真を撮影することに夢中になってしまったという

 このように観光地を満喫した場合、ワーケーションはバケーションに偏りがちだが、中島氏は「ワーケーションというと、休暇と仕事は切り分けられないと思っていたが、それができた」と仕事と休暇のバランスが取れているプログラムだったと振り返った。

 健康面だが、プログラムの開始前に送られてきたFitbitで1日の歩数を測定すると、わずか2500歩ということもあったという。しかし、プログラムの終了後は歩数と睡眠時間を測定し、改善を図るようになった。

 また、プログラムの終了後、オンライン同窓会を開催。今後、プログラムの参加者で松江が抱える地域の課題を解決するために何かできないかと動き出しているという。

 林氏は、プログラム終了後も参加者は「地域に関わって何かやりたい、そのあたりの意識がうれしい」としているという。

どうやって会社にワーケーションを理解してもらえるか

 イベント終了後、参加者によるフリートークも行われた。その中で課題とされたのが、ワーケーションのコストだ。ワーケーションは交通費と宿泊費が必要なため、1人あたり5万円以上の料金が必要。企業にとって大きな出費だ。「これなら少々遠くても交通費があってもやりたい理想のワーケーションは何ですか」という問いにそれぞれ答えた。

 渡邊氏は「数値で測るという新しいことに好奇心がそそられた」、勢古口氏は「仕事ができるのは当たり前だが、学べることがあるのは必要」とした。

 また、中島氏は人材や同じワーケーションに関わる仕事をする中で「お金をかけてまで行く必要があるかという質問と闘う日々。地域のワーケーションに参加すると、首都圏や都心でテレワークで働いていると出会えないこともある」と考えているとした。


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