―[40代日雇い男「Uber Eats」自転車出稼ぎ旅【東京発沖縄行】]―
僕は普段、日雇い派遣などの仕事で稼ぎつつ、時間を見つけてはタイなどの東南アジアを中心に旅してきた。この状況では海外旅行には行けそうにないが、日本国内ならば比較的自由に動けるようになってきている。旅がしたい。でも、社会の底辺で生きる僕にはお金がない。そこで「Uber Eats」の配達で稼ぎながら国内を自転車で旅するという方法をとることにしたのである。
⇒【写真】瀬戸内の牡蠣に舌鼓をうつ
黙々と配達を続ける日々
旅に出て79日目、僕は福山にいた。この日から81日目までの3日間は観光もせず、遊ぶこともなく、ただ黙々とウーバーの配達だけを続けた。
81日目は昼前から小雨がパラつきはじめた。レインコートが必要になるほどの雨量ではなかったが、それでもその冷たい雨は手袋の上から僕の指先の体温をじわじわと奪っていく。やがて感覚も麻痺していき、配達アプリの操作や自転車に鍵をかける動作が覚束なくなっていく。しかし、これだけ苦労して配達してもこの日の収入は5000円にも届かず、ふうッとため息がこぼれた。
次の目的地へ
82日目。福山のゲストハウスを出発。次の目的地は松山だが、この日はその中間地点である大三島まで行くことにした。広島県尾道市から愛媛県今治市までは「瀬戸内しまなみ海道」として瀬戸内海の島々と橋で結ばれており、サイクリングロードも整備されている。島々の風景を眺めながらここを走るのがこの旅でいちばんの楽しみだった。
しかし、その前に尾道を観光していくことにした。数々の映画作品の舞台となった尾道もいつか必ず訪れたいと思っていた場所だった。
牡蠣が食べ放題
尾道駅近くの駐輪場に自転車を止め、細い坂道をゆっくりと上っていく。少し苔生した石垣、瓦屋根の古い家並み、石段を颯爽と下りてくる一匹の猫……。東の空から昇りはじめたばかりの太陽が琥珀色の滲む光でそれらすべてを優しく包み込んでいく。映画の中で見たのと同じ景色の中にいるという高揚感がじわりと広がっていく。
千光寺まで上ると、そこから尾道の街全体を眺めることができた。海を挟んでその向こうに見えるのが向島。しまなみ海道で最初に渡る島である。
昼食は尾道の牡蠣小屋でとった。今の時期ならではの牡蠣の食べ放題(2800円)。炭火の網の上に殻付き牡蠣をトングで並べていく。やがてその殻がパカッと開き、その隙間から汁がぐつぐつと煮たっているのが見える。身がほどよくプリプリに焼けたところでポン酢を少し垂らして口に放り込んだ。
くーーーッ!
溢れ出す牡蠣の旨味。これが食べ放題だなんて堪らない。いっしょに日本酒も飲みたくなってくるが、これからまた自転車に乗るのでそれは我慢である。
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