こんにちは。訪日ラボ、インバウンド研究室室長の田熊です。

訪日中国人観光客が最も多く訪れる訪問先の一つといえば、家電量販店でしょう。

家電量販店では家電以外にも日用品、おもちゃ、ブランド品、お酒まで扱っており、訪日中国人にとって旅行の目的地として欠かせないスポットになっています。

家電量販店は「爆買い」ブーム以前から積極的に訪日中国人へのアプローチを行い、早くから訪日中国人の認知を獲得していました。ゆえに、家電量販店はインバウンドの先駆者といっても過言ではない存在ともいえます。

そんな家電量販店は訪日中国人に向けて、どんな施策を実施していたのでしょうか?今回は中国向けの「ネーミング」の工夫についてお話ししたいと思います。

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ヨドバシカメラが意識した「字体」と「発音」

家電量販店の中でも、いち早くインバウンド対策を実践していたのがヨドバシカメラです。

「爆買い」が流行する数年前から、中国に向けた情報発信を行っており、中国現地で展示会などのイベントも積極的に実施していました。

当時の担当者に聞いた話ですが、ヨドバシカメラが訪日中国人にアプローチする上でまずぶち当たった現実は、「誰もヨドバシカメラのことなど知らない」ということでした。

当時から中国では日本製の家電の需要はあったものの、中国現地に店舗があるわけでもない日本の家電量販店の名前など、誰も知る由もありません。

ある日、ヨドバシカメラの担当者が中国の展示会に自社のブースを出展した時、「YODOBASHI」とローマ字表記にしても誰も読んでくれなくれなかったそうです。その担当者は、中国に訴えるためには中国人に親しみやすい名前を考えなければならないと思ったそうです。

そこで、試行錯誤した結果「友都八喜」と命名しました。この名前にした理由は、「字体」「発音」の二つの側面での狙いがあります。

まず発音についてですが、ヨドバシカメラをそのまま中国語にすると「淀橋照相機店」になります。

これを中国語で読むと「ディエンチャオ ジャオシャンジーディエン」という音になって、日本人には何の事やら判らなくなります。

一方、「友都八喜」を中国語の発音で読むと「ヨウドウバーシー」となり、道を聞かれた時に日本人でも「ああ、ヨドバシカメラを探しているんだな」と想像がつくので、コミュニケーションの齟齬が起きにくくなります。

そして「八」という字を使用したのは、中国では「8」がとても縁起が良い数字されているため、という狙いもありました。

このネーミングのおかげか、「友都八喜」は中国人の間で認知が一気に広がり、人気となりました。

▲[「友都八喜」の文字]:ヨドバシカメラWeibo公式アカウントより

繁体字の意味にも配慮

中国語は、中国本土で使われる「簡体字」と台湾や香港で使われる「繁体字」があります。

日本語と同じ漢字でも意味が大きく異なる場合があり、「簡体字」と「繁体字」では意味や発音も変わります。

ヨドバシカメラ「友都八喜」は簡体字でも繁体字でも、漢字に大きな違いはありません。中国人だけでなく台湾・香港人にも親しまれる名前となったのです。

もしこれが、簡体字だけで名前を考えてしまうと、台湾や香港の方は中国本土向けのお店だと勘違いしてしまう可能性もあります。そのため、「自分達は歓迎されていない」という認識にもなりかねません。

こうした名前の意味への配慮があるため、中国本土と台湾・香港のどちらの人にも親しまれるようになったのだと考えられます。

ビックカメラが次々に名前を変えている理由

積極的にインバウンド施策を実施し、家電量販店で最も外国人観光客の支持を集めているのが、私が過去勤めていたビックカメラです。そのビックカメラも、爆買いが流行する以前から中国向けの名前を付けてPR活動を行っていました。それが「必酷」です。

こちらも「友都八喜」と同様に、「必酷(ビック)」と日本語と同じ発音になるような名前を採用していました。

しかし、「友都八喜」と大きく違うのは、日本語での印象でした。

ビックカメラはこの「必酷」という名前でしばらく中国向けにPR施策を実施していましたが、2012年の尖閣問題で中国との関係性が悪化してからは、中国向けの施策は一時休止していました。

ところが、2014年の免税制度改正以降インバウンドが盛り上がるにつれて、中国人にも馴染みのある字体と発音ということで、この「必酷」が中国で一人歩きして有名になったのです。

中国で有名になった「必酷」、しかし…

中国で有名になった「必酷」という名前ですが、日本人が見ると「必ずひどい」と読まれることがビックカメラ社内でも議題となり、名前を見直すこととなりました。

そして、2015年の爆買い絶頂期に日本語の発音にも合わせた「必客家美楽」に改名し、中国本土でも記者会見を行いました。

最終的には日本でも通じる「BicCamera」に

この頃になるとSNSや口コミを通じて様々な日本の観光情報が広がるようになり、時代は「ガイドブック」から「ネット検索」に変化していきます。

そうなると、発音よりも「検索ワード」が重要となり、「必酷」や「必客家美楽」など複数の名前があるとサイトに辿り着けないという機会損失が生まれてしまいました。

そして、実際の日本の店舗の看板には「必酷」や「必客家美楽」という表記はなく、地図アプリで検索してもヒットしませんでした。

また、タクシーでお店に向かう場合も、「必酷」や「必客美」と運転手に文字で伝えても通じないので、お店に辿り着けないということもありました。

こうした課題を解決すべく、最終的には店舗の看板で表示している「BicCamera」というローマ字表記に統一した経緯があります。

しっかりとお客様の声やニーズを掴み、柔軟に対応させていった結果が、次々と店の名前を変えていったことにつながりました。

たかがネーミング、されどネーミング。

今回は中華圏のインバウンド対策を考える上での要素の一つ、「ネーミング」の重要性について紹介しました。

名前の字体や響きが、文化や国が違うと思わぬ反感を産んでしまう可能性があります。

また、いまではインターネットが進化しているので、自社サイトを検索する時もこの「ネーミング」は重要になります。

企業名・施設名は会社にとっての顔となります。その名前が、ターゲットとしている国に対して思わぬマイナスイメージを持たれてしまってはかないません。

インバウンドに関わる企業が店舗やサービスの名前を決める際には、ターゲットとする国と日本の双方の文化的背景や、消費者の行動パターンまでよく考えた上で慎重に決めていくべきであり、意外と軽視できない問題といえそうです。

著者プロフィール

▲「訪日ラボ」インバウンド研究室 室長 田熊力也
▲「訪日ラボ」インバウンド研究室 室長 田熊力也

株式会社mov 訪日ラボ インバウンド研究室 室長 田熊力也

海外専門旅行会社で勤務の後、大手家電量販店(ビックカメラ)に就職。

2014年からインバウンド部署を立ち上げ、インバウンドに関係する広告・プロモーション・旅行博・SNSなど年間で300件以上の施策を実施。その結果、免税売上を1年で昨年比10倍以上の数百億円にまで伸ばした。

その後、中国インバウンドに特化したビジネスを展開。訪日ビザ取扱の中国旅行会社やWiFiレンタル会社と提携し、訪日旅行の顧客と接点を持つ広告ビジネスを展開。

百貨店や商業施設などのコンサルタントを経て、日本最大級のインバウンドニュースサイト「訪日ラボ」のインバウンド研究室の室長として、日本の観光活性化のためにインバウンド情報を様々なカタチで届けている。

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