2020年10月9日、10日の2日間にわたり、⽇本流イノヴェイションを海外へ発信するグローバル・ビジネス・カンファレンス「Innovation Garden」が開催された。

登壇者の多くは「CLT PARK HARUMI」でトークをし、その様子がオンラインで配信された。本イヴェントのテーマは「共創と共生を生む日本型イノヴェイション」。国境や業界の壁を超えた価値観をぶつけ合い、混ざり合う、30以上に及ぶトークセッションやワークショップが用意された。

また、参加者が選択したテーマやトークセッション中のリアクションはログとして蓄積されそのデータをもとに参加者同士をマッチングするなど、インタラクティヴなコミュニケーションを行なうことができる聴講者参加型のイヴェントとなった。

「CLT PARK HARUMI」。菱形の木材がCLT。 IMAGE COURTESY OF INNOVATION GARDEN

木材で高層建築を目指すCLT

「Innovation Garden」の初日朝に開催されたのは、「ポストコロナ時代における東京と地方」。登壇者は建築家・隈研吾、三菱地所株式会社関連事業推進室 CLTユニット兼MEC Industry株式会社取締役副社長の伊藤康敬、株式会社三菱地所設計の名倉良起。モデレーターは博報堂の木村健太郎が務めた。

イヴェント会場となった「CLT PARK HARUMI」は、東京都中央区晴海で、岡山県真庭市から提供された「CLT(Cross-Laminated-Timber:直交集成板)」を使い、 隈研吾建築都市設計事務所がデザイン監修、三菱地所グループが開発・設計監理・施工した施設だ。パビリオン棟のデザインは主に隈研吾建築都市設計事務所が担当し、展示棟は三菱地所設計が担当している。CLTとは、ひき板を並べたあと、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料で、通常の木材では劣化や耐久性などから建築素材として敬遠される傾向があったが、CLTのメリットを生かしこれまで不可能とされていた木材の高層利用を日本でも目指しているという。

「CLT PARK HARUMI」は、このCLTという素材の魅力を伝えるシンボリックな存在として2019年12月に開業し、本イヴェントが開催された2020年10月10日を最後に解体される。

伊藤が「解体して移動できるのがCLTの魅力」と言うように、解体後は使用されている木材の生産地である岡山県真庭市の国立蒜山公園内に移築され、観光や文化の発信拠点に生まれ変わる。

移動する建築、これからの地方

左から博報堂の木村健太郎、建築家・隈研吾、三菱地所株式会社関連事業推進室 CLTユニット兼MEC Industry株式会社取締役副社長の伊藤康敬、株式会社三菱地所設計の名倉良起。

サステイナブルな建築という点で、隈は「移動式の建築は面白い」とし、自身が手がけてきた、防災用の移動式建物で傘を組み合わせてテントにする「casa umbrella」や、プラスチック製のタンクを組み合わせた家「Water Branch House」などを紹介。

2008年のミラノのトリエンナーレで開かれた、「Casa de Tutto(みんなの家)」というテーマの展覧会に出展した「casa umbrella」。

2008年ニューヨーク近代美術館(MoMA)の展覧会 「Home Delivery(ホーム・デリバリー): Fabricating the Modern Dwelling」 に出品された「Water Branch House」。

移動と建築というのは一見相入れないようだが、コロナ禍により地方移住が注目されるように、今後は住む場所が多様になり、働く場所も流動的になっていく。

今後の建築について、三菱地所の伊藤は「これからは日本の原風景にもどる傾向がある」と言う。隈も「日本は自然と共生する文化です。日本のいろり文化のような自然と一体になる住み方は世界の都市のモデルになると思います」と話す。

さらに「これまで人類のベクトルは『都市へ』だった。だから都心に人が集まり、都市が大きくなった。いま、このベクトルを考え直す必要がある。そしてそのベクトルは『自然へ』向かうものもある。ビルをたくさん建てても問題が多かったが、自由を獲得したように思う」と、隈はコロナ禍をポジティヴに捉え、建築の可能性を語った。

デジタル革命の先にあるヘルスケア

続いてのセッションは、「超高齢化社会における幸福とデジタル・イノベーション」。サントリーウエルネス株式会社代表取締役社長の沖中直人と、慶応義塾大学教授の宮田裕章が登壇。モデレーターは博報堂ケトルの太田郁子が務めた。

宮田は、「デジタル化はあくまで手段。大事なのはそれによってどんな『経験』ができるのかです」と前置きをし、中国をはじめとしたデータ活用を紹介。デジタル化はヘルスケアの領域でも当然起きており、「一人ひとりを個で捉えるためのデータの把握が日本でも始まる。これまでは重症者のデータしか把握できていなかったが、もっと手前の状況から把握できるようになる」と言う。

個人データを活用しながら、一人ひとりの健康をサポートする。これは決して未来の話ではなく、すぐに実現することだ。

サントリーウエルネス株式会社代表取締役社長の沖中直人。

また、個人情報開示をしぶる日本人の傾向を太田が指摘すると宮田は「個人情報を提供することには抵抗があるかもしれないが、gmailのように便利なら人は使う。ベネフィットをきちんと説明することがこれからの日本に必要なこと」と話した。

また、健康食品やスキンケア商品を扱うサントリーウエルネスの沖中は、「人間の”影”の部分を理解し、共感した上で、顧客一人ひとりの“伴走者”になるべく、DXに取り組んでいく」と言う。顧客インサイトに寄り添い、それに対しソリューションを提供するという点は、宮田が話す「データをもらい、それに対して何を提示するのか」という点と通ずるものがある。

慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授、宮田裕章。

クロストークでは、「超高齢化社会の幸福」について語られた。

宮田は「ウェルビーイングの定義をアップデートする必要がある」と指摘をする。「これまでは『命が消えないこと』を目標にしてきたが「どんな瞬間もその人らしく生きる」ということが大事。サントリーの社是の『人間の命の輝きを目指す』はとてもいいと思う」とし、それを受け、沖中は「輝いているということは、誰かがそれを見ているということ。人間にはコミュニティが大事。そのなかでデジタルというツールを使うことでもっとできることがある」と話した。

現在、日本のデジタル化が遅れていることについて、宮田は「デジタルは冷たいもの、人により添えないものとして、日本は遠ざけてしまったから、世界から遅れてしまった」と言う。しかしいま、デジタルを使うことでコストをかけることなく一人ひとりに寄り添えるようになってきた。これからの高齢化社会の介護や福祉の面でもDXは必要なことだと話す。

宮田は「体験をデータでどう捉え続けるのか、人は楽しいから使うし、価値があるから使う。そのなかでデータが使われる。UI、UXという視点で考えることも大事だ」と語った。

「老い」と「若さ」の2つのセッション

左から松田一敬、中西敦士、遠藤謙、安田登。

2日目に開催されたのは、「拡張する身体と多様化するヘルスケア」。能楽師の安田登、バイオメカニクスを考慮した競技用義足の開発するXiborg(サイボーグ)の遠藤謙、排泄を事前にお知らせするデヴァイスをつくるトリプルダブリューの中西敦士が登壇。モデレーターは松田一敬が務めた。

本セッションは、「老い」をネガティヴに捉えるのではなく、衰えた機能をテクノロジーで補完できるか、ということを中心に語られた。

64歳の安田は、「能には、70歳、80歳にならないとできないことがあるから、早く歳をとりたい。身体がだめになったときに初めていい動きができることになる」と言う。そして老いにより自らの身体が動かなくなったときに脳波で動くアバターを使う、という話にまで及ぶ。

老いをどう受け入れるか、デヴァイスと共に排泄を管理するアプリを展開する中西は「社会のなかでは寛容の心が大事なこと」と言う。排泄を手伝ってもらうことを多くの人は嫌がるが、遠藤は「身体機能は失われても、テクノロジーなどで補うことができる。大切なのは自尊心を保つこと」と話した。

左から中山紗彩、米山維斗、佐久間洋司。

次に紹介するのは今回イヴェントの最年少となる1999年生まれの21歳のケミストリー・クエスト株式会社代表取締役の米山維斗と、1996年生まれの大阪大学学生・人工知能研究会 / AIR 代表の佐久間洋司による「Z世代が描く 2100年の希望 〜インクルーシブで調和に満ちた私たちの世紀〜」。モデレーターは29歳のアーティスト・起業家・投資家の中山紗彩が務めた。

佐久間が冒頭で、「『2100年』と考えたとき、ほかのセッションに登壇されている方々は、そのときに生きているかは危ういが、おそらくぼくたちは生きていてその時代をつくってきた世代になると感じている」と話したのが印象的だった。

Z世代の彼らが「現代社会をどう捉えているのか?」、「2100年の未来に抱く希望とは?」、「これからの世の中に必要なことは?」という3つのテーマに話を進めていく。

佐久間はさらに「ぼくたちが80年後の未来やテクノロジーを語るとき、ほかの先生方と結局同じようなことを言うことになるのだけれども、その言葉の背景や使い方は、ぼくたち世代の感性から来るもの。そこには大きな差があり、その差が大事だと思う。同じ話をするのだけど、前提が違う」と言う。

2100年までの80年間に必要なことを佐久間は「スタートアップ、アカデミア、国がおこなってきた制度や仕組みがそのまま踏襲されるのではなく、いままでの枠組みとは異なる新しい『やり方』を考える必要がある」と言う。米山も「ありきたりだが議論を重ねる」ことの重要性を説いた。

いまの10代、20代は、2100年に生きている可能性がある。そのとき人間は「老い」をどう捉えているのだろうか。テクノロジーは人間にどんな影響を与えるのだろうか。「これまで時代をつくってきた世代」、「いま時代をつくっている世代」、「これから時代をつくる世代」。こうして、さまざまな世代が交錯したイヴェント「Innovation Garden」は閉幕した。

イヴェント終了後の「コミュニティ」

「Innovation Garden」は、「すり合わせ」から「磨きあい」を目指すイノヴェイションの「アウトプット」が用意されている。
Slackを活用したオンライン上での交流や、月1回程度の集中セッション、交流会が開催される。11月4日の第1回コミュニティ・アクションでは、今回のイヴェントのラップアップが予定されている。
2021年2月に予定されている第2回のイヴェントまでにオンラインとオフラインを行き来してみるのもいいだろう。

[Innovation Garden公式サイトはこちら]

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