2年に1度発表されている、世界の国々の観光競争力を測る国際的な調査「The Travel & Tourism Competitiveness Report」の最新のデータが発表されました。

世界各国の観光競争力を測るとともに、各国の観光産業の強みや弱点も明らかになる調査だけに、毎回その結果には世界中から高い関心が集まっています。

そこで本記事では、この調査結果から浮かび上がってきた各国と比較した日本の観光競争力や、2021年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて必要な取り組みについて詳しく解説します。

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世界観光競争力ランキングで見る日本の観光

各国の観光力を測る指標には、訪問外国人観光客の数や旅行者の消費額などさまざまなものがあり、世界観光競争力もそのうちの1つです。

そこで、まずは世界観光競争力と気になる日本の順位をご紹介します。

世界観光競争力ランキング とは

世界観光競争力とは、140か国余りを対象に、4つの領域、14の項目、そして各項目を構成する90の指標について行った調査結果を数値化し、観光における国際的競争力をポイント化して順位づけをしたものです。

2007年より「ダボス会議」で知られるスイスの経済研究機関「世界経済フォーラム」(WEF)が、「The Travel & Tourism Competitiveness Report」としてほぼ2年ごとに発表しています。

4つの領域、およびそこに含まれる調査項目は以下のとおりです。

領域1. 旅行・観光関連に効果的な環境

ビジネス環境、安心と安全、健康と衛生、人的資源・労働市場、情報通信技術を示すICT準備性

領域2. 旅行・観光関連の政策と状況

旅行・観光の優先度、国際開放度、価格競争力、環境の持続可能性

領域3. インフラ(社会基盤)

航空運送インフラ、地上・港インフラ、旅行者サービスインフラ

領域4. 自然・文化資源

自然資源、文化資源とビジネス旅行

1位はスペイン、次いでフランス、ドイツ

2019年版で発表された結果では、世界観光競争力1位はスペインで、以下2位フランス3位ドイツと、いずれもヨーロッパの国がランクインしています。

スペインが1位となったのは2015年の前々回、そして2017年の前回に続いて3回連続です。

スペインにはかつて世界を席巻した栄光あふれる歴史が作り出した魅力ある街並みや、地中海に面した島々を中心に、バカンスシーズンには世界中の観光客が集まるビーチリゾートがあるほか、世界的に有名なイベントやお祭りも楽しめます。

今回の調査でも自然資源(9位)、文化の資源(3位)、印象的な観光サービスインフラ(3位)といった項目の指標が高かったほか、空港や道路、港のインフラ設備なども整っていることが連続1位の要因となっています。

世界観光競争力ランキング2019 日本はアジア太平洋の中でトップ

気になる日本の順位ですが、前回と同じく全体4位で、アジア太平洋地域の中ではトップという結果でした。

ただし、順位に変動はなかったものの、7点満点の総合スコアで前回は首位スペインと0.16ポイントの差があったものの、今回は0.07ポイントにまでその差が縮まりました。

日本の観光競争力は前回調査と比較して上昇していることが証明されたといえるでしょう。

日本以下の5〜10位の全体順位は、アメリカ、イギリス、オーストラリア、イタリア、カナダ、スイスで、前回の調査から大きな順位の変動があったのはシンガポールが13位から17位に、逆に3ランクアップと健闘したのが、韓国(19位から16位)とメキシコ(22位から19位)でした。

日本の観光力は高いのか:項目別でみる日本の評価

世界各国と観光競争力を比較した場合、日本は全体4位と高い競争力を持つことがわかりました。では、日本の観光の強みと弱みは具体的にどこにあるのでしょうか?

訪日外国人数が増加した2019年

2020年1月に日本政府観光局(以下:JNTO)が発表した「2019年訪日外客数・出国日本人数統計結果」によると、2019年の訪日外客数は前年比2.2%増の3,188 万2千人に達しました。この数字はJNTO が統計を取り始めた1964年以降最多のものでした。

2019年7月に日韓GSOMIA(軍事情報に関する包括的保全協定)が破棄されたことで関係が悪化し、訪日観光客数が8月以降急激に減少して前年比マイナスに転じた韓国を除き、他の調査対象国からの訪日観光客数は、多くが2桁の伸び率を示しました。

中でも伸び率が高かったのが香港、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピンといった東南アジアの国々からの訪日観光客数で、2019年12月には、単月として過去最高を記録しています。

日本の評価されているポイント

各評価で日本が獲得したポイントを細かく分析していくと、日本がどのような点で評価されているのかが浮かび上がってきます。

目立って平均スコアが高かったのが「文化資源とビジネス旅行」(6.5)「保健衛生」(6.4)「安全・安心」(6.2)「ICT活用」(6.2)「陸上交通と港湾インフラ」(6.0)といった項目で、従来からいわれる「日本は世界の中でも極めて衛生的で安全な国」という事実が、数字の上でも裏付けられた形になっています。

前回の調査と比較して順位の上昇した項目に着目してみると、ビジネス目的を含む訪日客に対する国の解放度が10位から6位に、観光のサービスインフラの項目では29位から19位にジャンプアップしています。

これらの項目の評価が大幅に向上した背景には、2019年に行われたラグビーW杯や、2020年に開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックに向けたインバウンド向けの環境整備があります。そのことは、スポーツスタジアムの豊富さが全体3位と高い評価を受けたことからもわかります。

日本の改善の余地はどこか

次に評価結果から、日本が今後国際観光競争力を高めていくために必要な改善ポイントを探っていきます。

日本の評価が低かった項目の代表的なものが、価格競争力(113位)と環境の維持可能性(56位)の2つの項目です。

価格競争力については、日本に限らずヨーロッパや東南アジア各国は全般的に評価が低く、国自体の物価が安いとされる中東や北アフリカの評価が高い傾向にあり、国全体の物価レベルと連動している部分も大きいため、短期間での劇的な改善は難しいのが実情です。

一方、「環境の維持」については、調査項目の中で「絶滅危惧種の数」(132位)「自然保護区の広さ」(76位)「魅力的な自然遺産」(59位)といった項目の順位が低く、同調査の国別レポートの中でも「改善の余地あり」と指摘されています。

世界観光競争力レポートから見えてくる課題

調査結果から、日本における国際観光競争力の強みや弱点が浮き彫りになりました。そこで次に、この弱点を克服するために今後どうすべきなのかを具体的に検証していきます。

国のブランド戦略

「国のブランド戦略」とは、宿泊施設、旅行商品や情報提供、アクティビティの3つのカテゴリーに含まれる47の項目について、世界中の旅行者が検索を行った2,574万のキーワードの結果の分析を得点化して評価したもので、これにより旅行者の検索ニーズに対し、対象国がそのニーズに応えているのかを測るための指標です。

この国のブランド戦略において、日本は前回の42位から108位と大きく順位を落としました。

ただ今回の順位の変動に関しては、2017年から調査項目の変更があり、日本の強みであった「文化」の項目が「宿泊設備」に変更された影響も大きかったと考えられます。

今後状況を改善して順位を上げていくためには、富裕層向けのサービスからバックパッカー向け、さらにはLGBTに代表される多様な性に対する宿泊設備のきめ細やかな設備や対応などで、今後より一層の改善が求められるといえそうです。

「ゲイにフレンドリーな国ランキング」68位の日本がアップデートを図るべき理由:約22兆円の市場規模、LGBTツーリズムとは

観光産業の中で、近年「LGBTツーリズム」に注目が集まっています。世界におけるLGBTツーリズムの市場規模は約22兆円といわれ、新たな市場となることが期待されています。日本の観光産業の発展にも、LGBTツーリズムへの理解は重要です。日本国内においては、LGBTに対する理解はまだまだ広まってきたばかりです。2020年6月3日、三重県ではLGBTなど性的少数者への差別防止のため、性的指向や性自認を本人に無断で暴露する「アウティング」の禁止などを盛り込んだ新たな条例を制定することを発表しています…

自然資源の活用

現在、地球温暖化防止に対する取り組みが今や世界規模で待ったなしの状況となっています。日本においてもその地域ならではの自然資源を保護し、観光資源として活用しながら環境保全と観光の振興を両立させる「持続可能な観光」への取り組みが急務です。

前章で解説したように、現状日本は自然資源に関わる項目の評価が全体的に低くなっていますが、持続可能な観光の実現こそが、日本において自然資源に関わる評価項目を上げるためのポイントになるはずです。

国連が2017年を「持続可能な観光国際年」とした流れを受け、日本でも2018年には観光庁の中に「持続可能な観光推進本部」が設置され、すでに国レベルでの取り組みを行なっています。

観光客の急増により自然資源だけではなく、地域住民の生活にまで悪影響が及んでしまうオーバーツーリズムや観光公害の問題が日本でも一時期クローズアップされました。

新型コロナの影響でインバウンド需要のみならず国内からの観光需要も激減している今だからこそ、むしろ環境整備をする好機ともいえます。

持続的な観光、エコツーリズムが抱える課題とは|自然環境保全・歴史文化保護

近年、自然環境の悪化から世界中で注目されているのが「エコツーリズム」です。環境保全の観点から、自然に優しく、その土地の文化や歴史を学ぶ新しいスタイルの観光形態を取り入れる国や自治体も多くなっています。しかし、環境保全と観光を両立させるには難しい部分もあり、エコツーリズムには課題が多く残ります。エコツーリズムの抱える課題と、解決に向けた取り組み例をご紹介します。インバウンド対策にお困りですか?「訪日ラボ」のインバウンドに精通したコンサルタントが、インバウンドの集客や受け入れ整備のご相談に対応…

東京オリンピック・パラリンピックに向けて

新型コロナの影響を受け、およそ1年開催が延期された東京オリンピック・パラリンピックですが、仮に1年後に実施されるとなれば、アジア地域のみならず、ヨーロッパ、中東、アフリカからも選手団や関係者を含め、多くの訪日客を迎え入れることになります。

観光庁が2016年に発表した「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関するアンケート」によると、訪日外国人旅行者が日本旅行中に困ったこととして無料公衆無線LAN環境の不足(28.7%)や、言語の壁に起因したコミュニケーションや案内表示のわかりにくさといった項目が上位に上がっています。

2019年のリポートの総括として世界経済フォーラムの運輸・観光関連の部門長であるクリストフ・ウォルフ氏が指摘している「長期的に利益を得るためにはインフラ整備や環境保護とのバランスを取ることが欠かせない」というアドバイスが、そのまま日本にも当てはまるといえそうです。

世界の観光競争力は伸びている:今後も魅力ある観光立国へ

2020年の年明けと共に、観光を取り巻く世界の情勢は今や一変してしまいました。そうした中で、日本は今後さらに魅力ある観光立国になるためには、どのような取り組みを行えばいいのでしょうか。

2019年は、日本に限らず世界の多くの国で旅行・観光競争力が飛躍的に上昇した1年でした。その理由としてはLCCや民泊といった廉価で活用できるサービスの登場で旅行にかかる費用が低下したことなどが挙げられます。

ところが、2020年になると世界規模で新型コロナウイルスが流行し、国境の閉鎖が行われました。その結果、各国の観光業は軒並み大きな影響を受け、かつて誰も経験したことのない状況と混乱に陥っています。

しかしピンチはチャンスと捉え、人の往来が途切れたこの時期にいかに長期的な視点に立って持続可能な観光へと舵を切り、環境整備が図れるかが、アフターコロナの観光競争力に大きな影響を与えるといえそうです。


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