一般社団法人日本旅行業協会 会長 田川博己氏

 JATA(日本旅行業協会)は1月9日、東京・霞ヶ関の本部で新春記者会見を開催。「1月2日に72歳の誕生日を迎えた年男」と自己紹介しながら新年のあいさつをした田川博己会長が、2019年の振り返りや2020年への抱負などを語った。

田川会長: 2019年の前半はゴールデンウィーク10連休や新元号の祝賀ムードで明るい滑りだしとなりましたが、後半、国内では自然災害の影響が大きく、10月の消費税率アップによる消費者心理の冷え込み、海外では韓国と香港の問題がブレーキとなりました。

 個別に見ると国内旅行の宿泊ベースでは1~11月の統計で対前年比100.3%、旅行会社の取り扱いでは、大手旅行会社取扱い49社統計で1~10月は99.8%と年間では前年並みとなりました。

 海外旅行は先の韓国、香港問題はあったものの、人数は1~11月の累計で前年比106%の1837万人と、2000万人の大台達成が見えるレベルまで大きく伸びました。特に欧米豪、ハワイが好調で、1~10月の49社統計をみても100.1%と韓国、香港のマイナスをカバーしています。

 訪日旅行は、1~11月の累計は2936万人で102.8%、韓国、香港の大票田の影響により伸びが鈍化しました。ただし、旅行会社にとっては、ラグビーワールドカップのために来日した欧米豪市場の取り扱いが中心であるため、こちらは111.8%の伸びを示したことから、好調であったといえます。イギリスからは5万人ほどの訪日があったのではと言われていまして、新しい欧米豪市場の強化、地方への誘客、消費額の課題解決に向けたヒントになったのではないでしょうか。

海外旅行未経験の若者を海外へ招待する「ハタチの一歩」

田川会長: 国際観光旅客税が導入されました。観光振興に独自の財源が手当てできるということで、期待しています。インバウンドを伸ばすために、国立公園の整備や文化財の活用などに戦略的に活用されていることには大きな評価を持っています。

 また、税負担者への裨益策の一つとして、海外旅行の安心安全プラットフォーム「ツアーセーフティーネット」の構築が予算化され、昨夏から一部旅行会社による運用が始まりました。

 JATAとしても、海外旅行実施の障壁の一番に安全問題が挙げられることから、旅行者の安全・安心の実現に資する「ツアーセーフティーネット」を業界全体に普及させていきたいと考えています。

 若者層の海外旅行を推進することは、双方向による国際交流の担い手を増加させることにもつながります。観光庁としても若者のアウトバウンドを増やすことを政策に掲げているものの、具体策はこれからであります。

 そこで、JATAが中心となって航空会社、政府観光局、空港会社と関係省庁により、海外旅行未経験の若者200名を10の国と地域に招待する「ハタチの一歩」プログラムに取り組みました。

 これは、参加者のみならず関係者からの評価も非常に高く、G20観光大臣会合の場において、赤羽国土交通大臣より韓国の観光大臣に対し、韓国版「ハタチの一歩」の実施を提案するなど、思わぬところで影響を及ぼしているようです。

 一方で現在3000名台に落ち込んでいる中国向けの海外修学旅行を復活させるために、観光庁が文科省、外務省、民間とで協議会をつくる動きもあり、今年から本格的な活動が始まることを期待しています。

インバウンド施策が日本人向けにも効果

田川会長: インバウンドについては個別の施策やその目標の達成度合いよりも、その結果としての波及効果に注目すべきと考えています。つまり、インバウンドの成長により、双方向交流人数が増加することで、これが航空路線の拡大につながり、その結果として、査証条件の緩和、空港機能の充実など海外旅行の環境整備の面でも大きな効果ができています。インバウンドとアウトバウンドは双方向でいい意味での連携が取れつつあるのかなと思います。

 国立公園や文化財の活用を始め、多様な素材を商品化する機会が増えてきていますが、これもインバウンド向けだけでなく、日本人向けにもなっており、大いに期待しております。

イスラエル、ロシア、中国との成果

田川会長: 2019年はラグビーW杯にちなんで「チャレンジ&トライ」をキャッチフレーズとして掲げました。

 まず、官民連携による二国間交流の促進における成果について紹介します。イスラエルは、安倍総理が訪問された際に、両国の交流を盛んにする手段としてチャーター便の運航について言及された経緯があります。おそらく以前のウズベエキスタン訪問の際に、3本のチャーター運航を我々が実施したところ、それが今や17本にまで増えていることが念頭にあったのだと思います。イスラエルとは9月に双方向のチャーターが実施され、それがきっかけとなり今年3月から定期便化することになりました。

 ロシアは、平和条約締結という大きな目標実現に向けての一つの柱が人的交流です。まず極東ロシアに重点的に送客することから着手し、現在、結果がでています。観光庁との間でワーキンググループを組織しており、順次送客の方面を拡大していくこととしています。

 中国は、両国の民間交流の枠組みである「日中観光代表者フォーラム」を創設した。山梨県において12月に第1回会合を開催し、「日中新時代」の交流を具体化するため、特に修学旅行をはじめ、地方での青少年交流を進めていくことを決めました。

「新しい旅のカタチ」をアピール

田川会長: 国内では、ツーリズムEXPOジャパンのツーリズム・アワードにおいて、2019年より創設された国土交通大臣賞を「農家民泊」が受賞しました。農家民泊という新しい素材を「新しい旅のカタチ」としてアピールできたのではないでしょうか。

 一方、ゴールデンウィークの10連休では、従来型の1泊2日旅行が中長期滞在につながればと思いましたが、少し期待外れの結果に終わりました。働き方改革のなかで休み方改革もありますが、本格的な「新しい旅」の仕方が根付くには時間がかかるようです。体験型、長期滞在、国立公園や日本遺産の活用も、これからしっかり活用しながら、提案していきたいと考えています。

自然災害からの復興に対してツーリズムが貢献している日本

田川会長: 自然災害では、WEF(World Economic Forum)からフィリピンなどとともに、日本は災害が多い国として残念ながら取り上げられました。一方で、私が副会長を務めているWTTC(世界旅行ツーリズム協議会)の2019年4月の世界大会において、自然災害からの復興に対してツーリズムが貢献している国として、国土交通大臣が表彰された経緯もあります。

 東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨や北海道胆振東部地震などの災害が起きたあとに、その地を訪問していただくための「ふっこう割」などの復興支援策が、ツーリズムによる復興への貢献に当たるとして高く評価されているように思います。

 2019年も「ふっこう割」に相当するキャンペーンを山形と新潟で実施し、秋口の台風の影響による豪雨災害の対策キャンペーンは12月から開始しているところです。自然災害が常態化していることから、防災・減災・復興へ即時に対応できる制度の構築について観光庁に提案しているところです。

 さらに、ノートルダム大聖堂の修復や首里城復興のために、ツアー商品に寄付金を組み込み、広く賛同を得る形式のキャンペーンを行なっています。

「ノートルダム・ド・パリ復興キャンペーン贈呈式」

関西の皆さまが「大協力」してくださった

田川会長: 2019年のツーリズムEXPOジャパン大阪・関西は、地元の協力により15万人が来場するなど大成功のもと終了しました。本当に関西の皆さまが「大協力」してくださった。

 全国からセラー・バイヤーが集う展示商談会、19か国もの観光大臣が参加したTEJ観光大臣会合などの基本形が完成し、これに開催地の力が加われば、従来の東京だけでなく全国のどこにおいても開催できるという確信が持てましたし、これを2020年の沖縄開催につなげていきたいです。将来的にはツーリズムEXPOジャパンのミニ版を各地で開催できるような形も作っていければと思っています。

2019年のツーリズムEXPOジャパン大阪・関西閉会式

デジタルテクノロジーと企画力の両立を目指したい

田川会長: OTA、デジタルテクノロジーへの対応、そして何より、ビジネスモデルの研究が必要な状況にあります。今後も研究会、部会を開いて継続協議していきます。デジタルテクノロジーへの対応を行いながら、「企画力」「斡旋力」といった旅行会社のもつ本来の価値との両立を目指したいと考えています。これらのテーマは、今年2月のJATA経営フォーラムで「両利きの経営」に詳しい冨山和彦さんを基調講演にお招きして議論を深めたいと考えています。

2020年のキーワードは「交流新時代」

田川会長: ラグビーワールドカップによって、地方において国際交流の輪が大きく広がりました。また、ツーリズムEXPOジャパン大阪・関西においても、世界100か国による展示やパフォーマンスが人気を集め、15万人ものお客さまに来場いただきました。

 東京オリンピック・パラリンピックには200を超える国や地域から参加が予定されており、スポーツを通じ、観戦だけではなく、日本ならではのおもてなし体験が国際交流の広がりにつながるのではないでしょうか。その世界から人々が集まるときに、東京は日本全体のショーケースになっているかがポイントなのではと考えています。そして、2025年には大阪・関西万博が開催されますし、2020~2025年は継続してそのような取り組みを継続していきたいです。

 1964年の東京オリンピックのときは高校生、万博は大学生でした。ぜひ今の若者にもこれからの経験でツーリズム産業に関心を持っていただけるような流れをこの6年間続けていく必要があるのではと考えています。

 インバウンド・アウトバウンドの交流人口6000万人を目指すなかで、2020年のキーワードは「交流新時代」としました。全世界の国際観光客数は14億人を突破し、観光市場は成熟化し、体験型への志向を強めるなど旅行の形態も変化を遂げています。さらにデジタルテクノロジーの発達により、情報収集、予約、決済など旅行の形態もよりパーソナルに、かつ、利便性も向上してきています。また、パラリンピックを通じて、ユニバーサルツーリズムも大きく前進するものと考えられます。このような時代の変化をとらえ、新しいライフスタイルにつながる「新しい旅のカタチ」を旅行業界が積極的に提案することにより、観光産業界における「ツーリズムの新しいカタチ」の構築を牽引して参りたい次第です。

インバウンド4000万人は厳しい

 会見の終わりに設けられた質疑応答のなかで、日本政府が掲げる2020年インバウンド4000万人という目標達成について質問があった。田川会長は目標を掲げることが大事なこととしながらも「インバウンド4000万人は厳しいと思っています」と答え、合わせて消費額8兆円という目標も難しいとした。

 オリンピック・パラリンピックでの訪日外国人旅客数の増加が期待されているが、一方でロンドン大会では一般の観光客が減ったという例もあり、インバウンドの伸びは踊り場にあるという見方を示した。しかし、「インバウンド、アウトバウンドの数よりも、この期間中に外国人が日本をしっかり見る、日本人が外国人に接するという機会であることが大事であり、それをどう活用して、次のステージに上がっていくかが大事」とも述べた。


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