新型コロナウイルスによる緊急事態宣言発令後の4月16日からスタートした「アフターコロナの観光・インバウンドを考える」トークライブでは毎回、観光業に携わるエキスパートが登壇し、様々な視点から語り合い、延べ6000名が参加した。

今回は総括編として、過去10回のモデレーターを務めた株式会社やまとごころ代表の村山慶輔が、これまでのトークライブから得られたエッセンスを振り返るとともに、独自に集めた最新情報をもとに今後に向けた課題や対策について語った。

 

1)多岐にわたるテーマと多彩なゲストが登場した全10回を振り返る

インバウンド依存、単一マーケット依存のリスクが顕在化

第1回目の、岐阜の飛騨古川の山田拓さん、京都でゲストハウスを営む藤田さん両者ともに顧客のインバウンド率が9割で、1つのマーケットに頼りすぎる一本足打法のリスクを指摘していました。コロナを機に事業の見直しも図り、藤田さんはオンライン宿泊、山田さんは国内地元客をターゲットにしたマイクロ・ツーリズムに着手。新しいスタイルを取り入れながら、柔軟に変化することの大切さを感じました。

 

日頃から顧客とのつながりをしっかり構築しておく

第2回のJTIC SWISS代表山田桂一郎さんからのメッセージで刺さったのは「地元の人に愛される観光地づくり」です。過去に登山電車が不通になり旅行者がまったく来られない状況に陥ったときに、ツェルマット地域の観光事業者が一丸となって顧客へ手書きのDMを送った結果、回復後すぐ国内客が訪れ、対前年比で延べ宿泊客数がほとんど減らなかったそうです。日頃から顧客情報をきちんと管理して持っておくこと、ファンの囲い込みの大切さを示すエピソードでした。

 

旅行者ニーズと食の多様性が加速

日本のコンシェルジュの草分け的存在である阿部佳さんが登場した第7回ホスピタリティのセミナーでは多様性がキーワードでした。アフターコロナ時代においては、衛生面や旅行スタイルに対するニーズが多様化します。そのなかで相手が求めることを察知して想像以上、期待以上のものを提供するにはチーム連携が必要だと説いていました。ガイドや飲食店、DMOなどそれぞれが得意分野を活かしながら個ではなく、面で対応する重要性を強調していました。

第9回のテーマでもある食の多様性への対応はインバウンド対策だけでなく、日本人にも有効だという着眼点が新鮮でした。日本でも今、コロナ太りからヘルシーな野菜や大豆ミートを求める傾向があり、ベジタリアン料理がマッチするという話でした。ベジタリアン食やハラール食などの選択肢を増やすことで事業として客層を広げ、日本の伝統的な食文化も継続している名古屋の味噌煮込みうどん店のお話も参考になりました。

 

サステナブルが観光分野でも大きな柱に

第5回アウトドア・アクティビティのセミナーからは、体験を提供する際、感染予防策のための手間とコストは以前よりも増え、三密を避けるために参加人数を減らす必要があることを実感しました。ビジネス的に難しい舵取りが迫られるなか、初心者向けの商品は価格を維持しつつ、リピーター向けにより高単価かつ高付加価値な体験を提供するというハリス氏の手法は面白かったですね。今後の単価設定や顧客の囲い込みに悩んでいる事業者にはヒントになったのではないでしょうか。

また、この回は世界的潮流でもあるサスティナブル・ツーリズムも大きなテーマとして提示がありました。今後はサスティナブル認証があるかどうかが旅行選択の際の大きな指標となりそうです。

なお、第8回の国を挙げてサステナブルに取り組むフィンランドの先進事例は示唆に富むものでした。フィンランドでサステナブルな旅をするための10のヒントには水道水を飲む、荷物を少なくするなど具体的な行動指標が挙がっていて、とても面白かったですね。

 

海外事例から打開策のヒントを探る

アメリカのフロリダから登壇いただいた第6回の原先生は、DMOがリーダーシップを発揮して観光事業再開に向けたプランを自ら策定し、州政府に働きかける実例を紹介してくれました。アメリカのDMOでは財源と構成人員ともに独立性を確保し、その地域で観光業が生み出す経済効果といった観光便益の可視化を重要視している点は日本のDMOにとっても参考になります。

また、この時期でもクルーズ船の予約は好調で9~10月の訪日旅行の予約も始まっていると聞き驚きました。フリーキャンセルに対応するなど柔軟性を持ちつつ、コアなファンに向けて今できる情報発信を継続することの重要性を感じました。

台湾から2人のゲストが登壇した第3回には旅行者のニーズ変化として解放的、少人数、清潔がキーワードとして挙がりました。台湾の親日層はコロナ収束後、戻りが早いと予測されており、いち早く対応が求められます。その際、ポイントとなるのが、相手市場を理解した情報発信です。台湾のピンクマスク運動を例に、台湾の国民性をしっかり理解した上で、日本の企業がアンテナを貼っていればお金をかけなくてもPRできたのではと指摘していました。

第4回世界の観光業動向ではベンチャーリパブリックの柴田さんが登場し、時間がある今だからこそコンテンツ・マーケティングに注力すべきとの提言がありました。今のうちに記事を書いて貯めておき、SEO効果が発揮できるように仕込んでおくのが効率的だとの指摘でした。また、ロングステイやワーケーションは今後世界的なトレンドだと明言されていました。

 

オンラインツアーの活用でリアルへの集客を実現する

第10回のテーマだったオンラインツアーは今後のトレンドとして注目しています。登壇者であるWhyKumano後呂さんと、あうたび合同会社の唐沢さんは、リアルが再開してもオンラインツアーは継続する意向で、オンラインからオフラインへうまく誘導することがポイントだと感じました。あうたびで実施しているスリランカや島根のオンラインツアーの事例もとても参考になりましたね。まいまい京都さんでも二条城禁断エリアに入れるツアーや、一見さんお断りの舞妓ツアーなど普段なら出来ない希少価値の高いオンラインツアーを展開しています。見逃し配信でさらに集客を図っています。

 

2)総括・提言

旅行者ニーズは変化するが、実はコロナ前も後も本質は変わらない

本質は実はコロナ前と変わらないということです。本質とは、顧客との繋がりです。囲い込むという意味ではなく、客への理解を深めるということです。毎回キーワードとして出てきた多様性も、結局は客を理解することだと思いました。

もう一つの本質とは、サスティナブル・ツーリズムです。この2つの本質を改めて見直すことが大切です。

 

旅行者ニーズは開放的、少人数、清潔、長期滞在が顕著に

アフターコロナの旅行者ニーズとして、開放的、少人数、清潔、滞在型が挙げられます。夏の予約では沖縄と北海道が伸びているとの調査結果もありました。開放的な地域で、家族や気の合う仲間と長期滞在するバケーションレンタルが人気になりそうです。

また、都会より田舎、機能的より情緒的という傾向も強まります。リラックスしたい、人に会いたい、健康になりたいという情緒的なニーズを満たしてくれる旅行が求められるのではないでしょうか。

 

日本の観光政策への3つの提言 

先日、観光庁の運営方針や施策の立案・実施状況等について意見交換する「第6回アドバイザリーボード」に招かれた際、以下の3つを提言しました。

「持続可能な観光の強力な推進」

まずは2003年に観光立国の基本理念として掲げた「住んでよし、訪れてよし」の原点回帰です。特に「住んでよし」の部分は持続可能な観光を進める上でもっと力を入れるべき点です。6月16日に発表されたばかりの令和2年版「観光白書」では、全58ページのうち、持続可能な観光については触れた部分は1ページに満たない分量だけでした。本来なら白書のなかでも最も高い次元、根幹部分に持続可能な観光が据えられてもよいと考えます。

「衛生面を日本の強みに」

日本でも感染予防のためのガイドラインを国と各業界団体別に作りましたが、英語での発信が弱く、世界的にはシンガポールやタイのほうが進んでいる印象を持たれています。日本の衛生管理の高さを世界に周知するため、英語でのガイドライン発信強化が課題です。

「観光DXの推進」

少ない人材で効率的なオペレーションを可能にするため、国・事業者ともにデジタル化の推進が必要です。

 

海外メディアにアンテナを張り、先進事例に学ぶ

海外の観光動向を知るために、よくチェックしている英語のメディアは「arrival」「Skift」、「Wit」、「Travel massive」などです。つい先日、「arrival」ではリバイバル、リオープンをテーマにオンラインサミットが開催され、100カ国以上から約2000人が参加しました。どの国の参加者も同様にコロナショックの渦中にいて、同じ船に乗っているのだなと感じました。こうした世界規模の観光イベントにオンラインで参加でき、世界が本当にコンパクトになっていると実感します。

こうした海外メディアを眺めてみると、シンガポールやタイの衛生管理対策は取り上げられていますが、日本の事例はほとんど見かけません。これだけ衛生意識の高い日本の取り組みが世界のメディアでは流れていないというのはもったいないことだと思います。

最近では、フィジーやニュージーランド、スペインでも観光復活の第一歩として、国内旅行の需要喚起と近隣国からの誘客に取り組んでいます。スペインのバレアレス諸島ではドイツ人シルバー客の長期滞在を誘致し始めました。島に最低5泊することが条件で、旅行消費額の増加が期待できる施策といえます。また、スペイン国内のホテルの59%が顧客の再定義を計画しているとの調査結果も出ました。そのホテル、地域にとって一番利益をもたらす客層がどこなのか見極めようとする動きが広がっています。

 

3)with コロナ時代を乗り切る戦略

 インバウンドを広義で捉え、観光+αの発想を持つ

危機的状況を乗り切るには、売上減でも回るビジネス構築が不可欠です。まず、コスト構造を細かく見直し、損益分岐点を見極め、固定費を下げることです。

次に、観光+αの発想を持つことです。こはくさんの事例のように、観光とは違う分野に一歩踏み込む勇気も必要です。気仙沼やまいまい京都のようなファン化も今すぐ取り組むべきですし、デジタル・IT化の活用でオンラインツアーの実施や管理部門の効率化も図れます。インバウンドを広義で捉えると、日本と海外の接点で発生するビジネス全般が対象となります。例えば280万人にのぼる在日外国人、留学生、越境ECも対象です。インバウンド=観光だけでなく、もっと広い意味で捉え直すことでチャンスが広がると思います。

 

観光戦略の見直しと汎用性のある準備

当面の売上回復に向けた施策はもちろんのこと、観光戦略の見直しと、先を見据えた汎用性のある準備に取り掛かりましょう。

観光戦略の見直しでは、新しい客層を開拓するというよりもまずは棚卸をして、どの客層に今後も来てほしいのか、根本から見直すことです。

先を見据えた汎用性のある準備では、マイクロ・ツーリズムを始めとする地域資源の掘り起こし、ベジタリアンやハラールなど食の多様性への対応、マルチ人材の育成に着手しましょう。シンガポールでは政府が助成金を出して、ホテルのフロント人材にデジタル・マーケティングの研修を受けさせています。将来のリスクヘッジとして汎用性のあるスキルを身に付けておくことは有効です。

見通しが困難な状況においては精緻な予測より柔軟性が大切です。どっちに転んでも対応できるように柔軟性を持つことがwithコロナ時代には必要だと考えます。

 

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【登壇者プロフィール】

株式会社やまとごころ 代表取締役 村山 慶輔

神戸市出身。米国ウィスコンシン大学マディソン校卒。経営コンサルティングファーム「アクセンチュア」を経て、2007年に日本初インバウンド観光に特化したBtoBサイト「やまとごころ.jp」を立ち上げる。インバウンドの専門家として、2019年内閣府 観光戦略実行推進有識者会議メンバーを始め、各省庁の委員・プロデューサーを歴任。2020年3月には自身7冊目となる「インバウンド対応実践講座(翔泳社)」を上梓。

 

【開催概要】
日時:2020年6月26日(金)15:00~16:00
場所:ZOOMウェブセミナー
主催:株式会社やまとごころ

 


【今後開催予定のセミナー】

◆withコロナ時代の観光戦略 vol.2 〜観光ニューノーマルを乗り切る衛生基準とその実践〜

2020年7月10日(金) 15:00~16:00


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